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公正処理基準について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説
1 はじめに
法人税法22条は、法人の所得計算に関する基本的な規定であり、4項には、「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」によって計算されるものと規定されています。この公正処理基準の意義、制度趣旨、問題点、裁判例についてみていきましょう。
2 意義と制度趣旨
法人税は、国の税収のうち、所得税、消費税とともに国の財政収入の根幹を担うことから、当然のように公明正大な処理がなされなければなりません。
具体的には、企業会計と税務処理が連動して円滑な処理がなされるよう両者の連携が図られること、明確な一定の基準に従った企業会計の処理により、税務調査、税務査察の際に国税当局との間に生じるおそれのある争いをできるだけ少なくし、税務行政の効率化を最大限に引き出すこと、社会のグローバル化に従い企業会計の国際化に資することで、企業の海外取引や海外への展開を促進し企業自体のグローバル化を円滑に実現すること、といった要請があります。
これらはいずれも税金の計算を目的とする税務会計と、企業の資産状況を報告する企業会計とのズレを可能な限り少なくし、税と資産をその金額面において正確かつ明朗に計算できるようにするのが目的であり制度の趣旨です。
3 公正処理基準の問題点
公正処理基準には抽象性から次のような問題性があります。
多種多様な企業の会計処理に普遍的に妥当させようとすることから、いきおい基準自体が「一般に公正妥当」(法人税法22条4項)という定め方をせざるを得ないことから、規定自体の抽象性や具体的な判断基準が不明確なため、会計処理の具体的金額の特定に関し、解釈の余地が生じることとなります。当然、企業は税額の少なくなるような会計処理をし、税務当局はこれに反する立場をとることから解決困難なアポリアを生じることも少なくなく、その解決のために最終的には訴訟による決着を待つことになります。
4 裁判例
公正処理基準に関する裁判例は数多く存在し、次のような例があります。
交際費に関し、①支出の相手方が、事業に関係ある者等であり、②支出の目的が親睦の度を密にして取引関係を円滑な進行を図るものであることとともに、③接待、供応、慰安、贈答に類する行為であることの三要件が必要であるとした例(平成15年東京高等裁判所判決、萬有製薬事件)
株式償却により、償却株式が譲渡されたその評価額を収益として計上することは、当然の帰結であり、払戻限度超過額を収受することが、旧商法上許されないとしても直ちにその収益性を否定することはできないとした例(平成26年東京高等裁判所判決、日産自動車事件)
以上は企業と税務当局とのし烈な争いの結果出された判決です。いずれも今後の税務会計の具体的基準として先例拘束性があると考えられるため、同種の会計処理に当たっては留意が必要となります。
5 まとめ
企業会計における公正処理基準は、法人税法における重要な概念であり企業会計と税務会計の連携を図る上で不可欠な役割を果たしています。
税務処理に当たっては、先例の有無に留意するとともに、公正を旨とし疑義を生じたときには税務査察の任意手続段階おいてなど、税務当局との折衝により妥当な解決を得られる場合があります。これは、その時点で折り合わずに訴訟まで発展するなどの負担をコストの大幅削減にもなるなど迅速な解決に向かわせる方法として有効となりますし、税法上のペナルティも回避可能となるなどその機能が期待されるものといっていいでしょう。