税務訴訟判例解説

所得税関係

①非課税となる損害賠償金等の範囲

名古屋地裁平成21年9月30日判決

事例

非課税所得を規定している所得税法9条のうち、1項18号の解釈が問題となった。

※所得税法9条1項18号
「心身に加えられた損害又は突発的な事故により資産に加えられた損害に基因して取得するものその他の政令で定めるもの」

解説

所得税法9条1項18号を受けた所得税法施行令30条は、

  1. 心身に加えられた損害につき支払いを受けるものと
  2. 資産に加えられた損害につき支払いを受けるものとを区別し、

①については全面的に非課税とするのに対し、②については「不法行為その他突発的な事故」によるものに限定して非課税としています。

本判決は、法令の文言を重視して、「不法行為」は「突発的な事故」と同様のものに限定されないと解している。

したがって、取引によって被った損害について不法行為として損害賠償を受け取った場合には、非課税となることを認めたことになります。

②事業所得と給与所得の区別

最高裁昭和56年4月24日第二小法廷判決

事例

弁護士顧問契約の顧問料が給与所得に当たるのか事業所得に当たるのかが問題となった。

解説

所得税法は、所得をその源泉ないし性質によって10種類に分類し、各種所得について、それぞれ計算方法と課税方法を定めています。

事業所得は、人的役務提供事業もその範囲に含まれることから、そのような業務から生ずる所得については給与所得との区別が困難になります。

この事件において、最高裁は、事業所得は「自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務から生ずる所得」、給与所得は「雇用契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価として使用者から受ける給付」と解して、「従属性」と「非独立性」が判断基準となるとしています。

そして、弁護士の顧問料収入は事業所得にあたるとしました。

③財産分与と譲渡所得課税

最高裁昭和50年5月27日第三小法廷判決

事例

財産分与としての資産の移転が譲渡所得課税の対象となるかが問題となった。

解説

資産が移転したと認められる場合には、対価の有無にかかわらず、所得税法33条1項の「資産の譲渡」に該当し、有償無償を問わず資産を移転させる一切の行為が、譲渡所得課税の対象となると解されています。

最高裁は、財産分与として金銭の支払いや不動産の譲渡等が行われた場合、財産分与の義務が消滅し、この消滅が経済的利益ということがいえるとし、財産分与としての資産の移転が譲渡所得課税の対象となることを判示しています。

④一時所得と雑所得の区別

最高裁平成29年12月15日第二小法廷判決

事例

競馬の払戻金が一時所得にあたるか雑所得に当たるかが問題となった。

※はずれ馬券が一時所得だと控除できず、雑所得だと控除できることから問題となった。

解説

一時所得となる要件は、

  1. 利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得及び譲渡所得以外の所得であること(除外要件)、
  2. 営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得であること(非継続要件)、
  3. 労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないものであること(非対価要件)

の3つです。

したがって、雑所得となるのは、一時所得・雑所得以外の8種の所得に該当しない場合で、非継続要件及び非対価要件のいずれかが認められない場合ということになります。

本判決は、本件所得が、営利を目的とする継続的行為から生じた所得であるとして、雑所得にあたると判断し、はずれ馬券の購入代金は、雑所得である当たり馬券の払戻金を得るために直接に要した費用として必要経費にあたるとしました。

⑤配偶者控除

最高裁平成9年9月9日第三小法廷判決

事例

配偶者控除について、事実婚上の婚姻関係にある者が所得税法上の「配偶者」といえるかが問題となった。

解説

本判決は、所得税法83条及び83条の2にいう「配偶者」は、納税義務者と法律上の婚姻関係がある者に限られるとしています。

しかし、近年では法律婚制度自体に疑問が投げかけられているほか、同性婚の問題などもあり、今後の法整備次第によっては、この判決の内容も変更されることになるかもしれません。

法人税関係

①脱税工作のための支出金の損金性

最高裁平成6年9月16日第三小法廷決定

事例

脱税工作の協力者に支払った「手数料」が法人所得計算上、損金算入されるか否かが問題となった。

解説

本決定は、「架空の経費を計上して所得を秘匿することは、事実に反する会計処理であり、公正処理基準に照らして否定されるべきものであるところ、右手数料は、架空の経費を計上するという会計処理に協力したことに対する対価として支出されたものであって、公正処理基準に反する処理により法人税を免れるための費用というべきであるから、このような支出を費用又は損失として損金の額に算入する会計処理もまた、公正処理基準に従ったものであるということはできない」と判示し、架空の経費を計上する脱税協力者に対する支出金につき、法人税法22条4項の「公正処理基準」を根拠に損金性が否定される旨を明らかにしています。

本決定により、「公正処理基準」を根拠とした損金性の否定が、多様な違法支出一般に及ぶ可能性があります。

②交際費の意義

東京高裁平成15年9月9日判決

事例

「交際費等」に該当するための要件

解説

本判決は、「法文の規程や、『交際費等』が一般的に支出の相手方及び目的に照らして、取引関係の相手方との親睦を密にして取引関係の円滑な進行を図るために支出するものと理解されていることからすれば、当該支出が『交際費等』に該当するというためには、

  1. 『支出の相手方』が事業に関係ある者等であり、
  2. 『支出の目的』が事業関係者等との間の親睦の度を密にして取引関係の円滑な進行を図ることであるとともに、
  3. 『行為の形態』が接待、供応、慰安、贈答曽於他これらに類する行為であること、

の三要件を満たすことが必要である」と判示し、①と②のみで判断するという二要件説ではなく、三要件説を採用するという姿勢を示したことで、課税庁側の解釈の拡大を抑制する判断を示したことに意義があります。

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