【制度解説】保証債務の履行に伴う譲渡所得の特例

税制度

譲渡所得とこの所得について保証債務の履行に伴う特例について見てみましょう。

所得の種類

所得税は、同じ個人の所得でも、その発生形態の違いから所得の種類を、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、譲渡所得など10種類に分けて、それぞれの所得の税金を負担する能力の違い等に応じて計算方法を変えるなどして税負担の公平を図っています。

 今回は、それらの所得のうち、譲渡所得とこの所得について保証債務の履行に伴う特例について見てみましょう。

譲渡所得とは

 譲渡所得とは、土地、借地権、家屋などの不動産のほか、機械器具、車両等の動産、特許権、漁業権、著作権などの無形固定資産の財産上の権利を移転させることにより、その対価として支払いを受けたものを指します。

 譲渡資産が、不動産であれば、その所有期間に応じて、長期譲渡所得、短期譲渡所得に分けられて課税されるなど、譲渡所得には細かいルールが定められています。いずれにしても資産の譲渡に対する対価が認識されれば、それは所得税として課税されることになります。

保証債務の特例

 このように本来であれば譲渡所得として課税されるところですが、一つの特例として、保証債務を履行するために資産を譲渡した場合に生じた譲渡所得に対しては所得税を課さないという定めがあります(所得税法64条2項)。

 中小企業では会社の代表取締役などが、会社の借り入れについて保証をするいわゆる経営者保証というのが非常に多いです。会社の経営が行き詰まれば、経営者は、自己の資産を処分してでも会社の借入金の返済をしなければなりません。保証債務を余儀なくされて資産を譲渡する一方で、結局、求償権は事実上画餅に過ぎないにもかかわらず、これに譲渡所得を課するというのあまりにおかしいというのが法の趣旨であると言われています。

問題点

 ただ、この定めは、過去に悪用されたこともありました。脱税請負人なる者らが、架空の保証債務を作出し、その履行を仮装して土地譲渡収入に対する譲渡所得の課税を免れるというものです。悪質なものには、保証債務の存在と履行を仮装するために、簡易裁判所における訴え提起前の和解(いわゆる即決和解)手続を利用して虚偽の和解調書を作成させたりするものもあったようです。なお、即決和解というのは、民事に関して争いのある事件について、民事訴訟を起こす前に、話合いによる解決ができた場合に、訴訟を起こすことなく、簡易裁判所に和解を申し立てて和解調書を作成してもらう手続きのことです。簡易裁判所においては、このような不正がないように、特に、即決和解の要件である紛争性については慎重に審査をしているところです。

 所得税法64条2項は、過去にこうした悪用事例があったことなどもあり、その適用に関して慎重な考え方もあるようですが、前述した立法趣旨からすれば、現下の経営者保証の実情などを踏まえ、適正妥当な解釈適用が望まれるところです。

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