【報道解説】人気漫画「薬屋のひとりごと」作画担当の女性に所得税法違反で有罪判決

判決

人気漫画の作画担当の女性に対し、福岡地方裁判所が所得税法違反で有罪判決を下した事件について、報道をもとに弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。

【報道の内容】

所得税4700万円を脱税したとして、人気漫画「薬屋のひとりごと」 作画を担当する漫画家の女に24日、懲役10か月、執行猶予3年、罰金1100万円の判決が言い渡されました。
所得税法違反の罪に問われていたのは、「ねこクラゲ」のペンネームで人気漫画「薬屋のひとりごと」の作画を担当する福岡市の漫画家です。
起訴状によりますと、被告は2019年から3年間のおよそ2億6000万円の所得期限までに確定申告せず所得税4700万円の納付を免れた罪に問われていました。
判決で裁判官は「作画を担当する漫画が人気を博したため多額の所得を得るようになったにもかかわらず、3年間にわたり確定申告を行わず、およそ4700万円の所得税を免れた」と認定しました。
そして「事務作業が極めて不得手で金銭への関心が薄く、年齢相応の社会制度に対する理解も不足した被告が急激に人気漫画家となり、確定申告の重要性を軽く見て目の前の仕事やプライベートを優先させ、事務作業から逃げ続けた結果」と指摘しました。
その一方で「2022年に修正申告を行い加算税などをすでに納付していること、後悔と反省をし、税理士に依頼して2022年度以降は確定申告を行っていて、再度、脱税行為に及ぶ可能性は低い」として、懲役10か月、執行猶予3年、罰金1100万円の判決を言い渡しました。
被告は初公判で起訴内容を認めた上で「免れようという気持ちはなく、数年分をまとめて申告しようと思っていた」と話していました。
検察側は冒頭陳述で「漫画の原稿の締め切りを優先し、確定申告の書類整理がおっくうだった」「脱税した金を実家の建て替えに使った」などと指摘し、懲役10か月、罰金1400万円を求刑していました。
裁判官は判決公判の最後に「これからはうっかりでしたということでは済まされないので、いろんなことに気をつけて生活してください」と言葉をかけました。
(令和6年7月24日付Yahoo!ニュース https://news.yahoo.co.jp/articles/967e997ddc708351a6d77e934171b38a3216e406 一部プライバシー保護のため改変しています)

どのような罪に問われたのか

報道によると、被告人の女性は、3年間で約2億6000万円の所得を期限までに確定申告していないことにより、所得税約4700万円の納付を免れた罪に問われたとされています。
所得税法には、所得税を免れた罪については大きく分けて2つの罪が規定されています。
一つは、いわゆる「虚偽逋脱犯」と言われる、「偽りその他不正の行為により、所得税を免れた」場合に問われる罪です。
もう一つは、「単純逋脱犯」と言われる、「偽りその他不正の行為によらずに、単に所得税を免れた」場合に問われる罪です。
虚偽逋脱犯の場合には、偽りその他不正の行為によって所得税を免れているので、脱税の認識が強く認められ、悪質性が高いといえることから、「10年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。」と定められています(所得税法238条1項)。
一方、単純逋脱犯の場合には、所得を殊更に隠したり、虚偽帳簿を作成したりといった明らかに納税を免れようとする強い意思が現れているような行為をしていないなど、悪質性が低いと思われることから、「5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。」と定められています(所得税法238条3項)。
今回の事件では、確定申告を怠って所得税を免れていますが、「偽りその他不正の行為」という話が出てきていないので、「単純逋脱犯」の罪のうち単純無申告逋脱犯として罪に問われたと考えられます。
しかし、そうすると、法律では500万円以下と罰金の額が定められているのに、判決では罰金1400万円とされているのはなぜなのかという問題が出てきます。
この罰金の金額については、所得税法238条4項で、「免れた所得税の額が500万円を超えるときは、情状により、罰金は、500万円を超えその免れた所得税の額に相当する金額以下とすることができる。」とされています。
そのため、今回の事件でも、免れた所得税の額は約4700万円となっていますので、罰金の上限額を4700万円まで引き上げることができ、そのため、1400万円の罰金刑を科すことができたのです。

判決の重さは妥当なのか

検察官は懲役10カ月、罰金1400万円を求刑しています。
求刑とは、検察官が裁判官に対して、「これくらいの重さの判決を下してほしい」というお願いをすることで、裁判官は検察官の求刑をもとに判決の重さを検討することがほとんどです。
裁判官は検察官の求刑に縛られるわけではないので、検察官の求刑を超えてより重い判決を下すこともできますが、多くの場合には求刑よりも軽い判決が下されます。
今回の事件でも、懲役10カ月に執行猶予3年つけており、罰金も1100万円となっています。
懲役刑は上限5年まで下せますが、被告人が初犯であり、修正申告を行って加算税も含めて免れた所得税をすでに納付していること、うっかりということであり強く脱税しようと思っての犯行ではなかったことなどが考慮されて、検察官も懲役10月を求刑したと考えられます。
また、罰金刑については、免れた税額の2~3割程度とされることが多いようです。
今回の判決でも免れた所得税の約2割ちょっとの罰金刑を下しているので、相場のとおりということができるでしょう。

脱税で刑事裁判を受けることになったら

脱税事件で刑事裁判を受けることになった場合、100%有罪となっています。
そのため、できるだけ軽い刑罰で済むように活動していくことが必要です。
前科の有無や動機も重要ですが、修正申告や納税を行っているかなどは事後的な事情の中でも特に重要な事情となります。
裁判になる前から、修正申告や納税に向けた活動を開始しておくことによって、裁判で有利になります。
また、裁判になる前の捜査段階でどういった内容を供述するのかも非常に重要です。
捜査でしゃべった内容は、基本的に裁判で証拠となるため、なんでもかんでもしゃべっていると、思っていたよりも重い刑罰を受けることになりかねません。
そのため、脱税事件の捜査を受けることになったら早急に弁護士を付けてしっかり対応していきましょう。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は、脱税事件を多く扱っている全国でもめずらしい法律事務所です。
初回相談は無料ですので、脱税事件でお困りの方は、一度ご相談にお越しください。

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