【報道解説】賞与水増しで法人所得を過少申告 手渡し後に〝回収〟 大阪の部品会社を告発

報道

大阪の部品会社が、ボーナスを水増しし、支払った後に回収するという手法で法人税等を過少申告し、大阪国税局から告発された事件の報道を、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。

報道の内容

従業員の賞与を水増しして計上し、法人所得を過少に申告したなどとして、大阪国税局が法人税法違反の罪などで、大阪市東成区のディーゼルエンジン部品製造会社の社長と法人としての同社を大阪地検に告発したことが11日、関係者への取材で分かった。
関係者によると、社長は令和3年4月~5年3月までの2年間、一部従業員の賞与を実際より水増しして計上し、会社の所得を約3億8100万円少なくみせ、約9700万円を脱税したという。
社長はいったん実際よりも多い賞与を従業員に手渡し、その後、会社に戻させる手口で水増ししていた。こうして得た金は、社長と妻がブランド品の購入などに充てていたという。
(令和7年2月12日付産経新聞ネット記事 https://www.sankei.com/article/20250212-LJV5WYWHA5LNVJXN4XQDP6VQM4/ より内容を一部改変)

賞与と税金

賞与いわゆるボーナスは、月々の給与とは別に業績などに応じて支払われる金銭のことです。
賞与に関しては、労働基準法など労使関係について定める法律に明確な規定がないため、賞与を支払うも支払わないも自由とされています。
もっとも、雇用契約や就業規則等に賞与支払いについての定めがある場合には、賞与を支払わないことが「給与未払い」として扱われることになるため、注意が必要です。

賞与は給与所得となるため、賞与が支払われる際には受け取る側(従業員)の所得税の額が支払われる側(会社)から事前に差し引かれる(徴収される)源泉徴収制度の対象となります。
そのため、賞与にも所得税が課せられているといえます。

一方、賞与を支払う側(会社)は、支払った賞与について「経費」として損金計上できます。
そのため、賞与を支払うことが会社の節税につながるというメリットがあります。

今回報道されている会社は、この賞与が経費として計上できることを悪用し、法人所得から支払った賞与分を経費として差し引くことで課税される法人所得を低く見せたうえで、支払った賞与の一部を回収することにより不当に利益を得ていたということでしょう。

過少申告と加算税

今回報道されている会社は、会社の所得を少なく見せて脱税していたということですので、過少申告をしていたということになります。
過少申告とは、所得があるにも関わらずそれを一切申告していない「無申告」ではなく、所得の全てではなく一部だけしか申告していない場合のことを言います。
確定申告が一応なされている点で、無申告とは区別されます。
過少申告をしていた場合、正当な理由がある場合を除き、ペナルティとして過少申告加算税が課せられます。
過少申告加算税は、10%(期限内申告税額と50万円のいずれか多い金額を超える部分については15%)の割合で本然にプラスして支払わなければならなくなります。
また、仮装隠ぺいをしていたなど悪質性が高い場合には、過少申告加算税に代えて重加算税が課せられます。
重加算税は、過少申告加算税に代えて35%の割合で課せられることになります。
今回報道されている会社の場合には、手口が悪質で仮装隠ぺいをしていたといえるため、過少申告加算税ではなく、重加算税が課せられることになると考えられます。

告発された場合

今回報道されている会社は、大阪国税局から大阪地方検察庁に法人税法違反などの罪で告発をされています。
告発をされると、検察庁で刑事事件としての捜査が始まり、ほとんどの場合、刑事裁判になります。
刑事裁判になることを起訴(公訴の提起)といいます。
刑事事件として捜査を受ける場合、逮捕される可能性もあります。
逮捕されるかどうかは、証拠隠滅の可能性や逃亡の可能性がどれくらい高いといえるかなどで決まってきますが、たとえば、関係者が多数いるとか、脱税の事実を認めていない、脱税額が多額で実刑判決が予想されるなどの具体的事実を考慮して判断されます。
また、刑事裁判になると、これまでの事例では100%有罪判決を受けています。
有罪判決となった場合、会社代表者など人に対してだけではなく、その会社自体にも刑罰が科せられる可能性があります。
会社に対しての刑罰は罰金刑です。
罰金刑の額は脱税した額の約2~3割とされることが多いようです。
会社代表者などの人に対しては、懲役刑が下されます。この懲役刑に執行猶予が付けばいきなり刑務所に服役することはありませんが、執行猶予が付かなければ刑務所に服役することなります。

刑事事件に発展したら

告発を受けた場合には、すぐに弁護士に相談しましょう。
逮捕を避けたり、実刑判決を回避したりするため、修正申告や予納といった税金に関する手続を行うほか、弁護士を会社の顧問として雇って再犯防止に向けた施策を行っていくなど、刑罰を軽くするための活動を行ってくれます。
脱税事件については、裁判資料も計算書類など専門的な知識がないと理解できなかったり、そもそも分量が多くすべてを理解するためには多くの時間を要する等、通常の刑事事件に比べてより多くの労力や専門知識が必要となります。
そのため、脱税事件に詳しい弁護士に早急に相談されることをお勧めします。

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