「偽りその他不正の行為」を行ったとは認められないとして無罪となった事件について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。
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事案の概要
「夫が死亡したことによって全財産を相続したAが相続税を免れようと企て、相続財産から預貯金、株式等を除外する方法により相続税賦課額を減少させ、過少な金額を記載した内容虚偽の相続税申告書を提出し、もって不正の行為により、正規の相続税額との差額1億4090万円の税を免れた」として相続税法違反で起訴された事件
神戸地方裁判所が平成26年1月17日に宣告した判決では、Aの供述の信用性を肯定し、Aが「偽りその他不正の行為」を行ったとは認められないとして無罪となっています。
なお、同事件では検察官が控訴をし、控訴審ではAの供述の信用性が否定され、Aは逆転有罪となって、懲役1年6月執行猶予3年及び罰金2800万円が言い渡されています。
「偽りその他不正の行為」の意義
神戸地方裁判所の判決によれば、最高裁昭和42年11月8日大法廷判決により示されている「『偽りその他不正の行為』とは、逋脱の意図をもって、その手段として税の賦課徴収を不能もしくは著しく困難ならしめるような何らかの偽計その他の工作をいう」との解釈を引用し、これを本件のような過少申告事案にあてはめると、「(過少申告逋脱罪の成立には、)単に過少申告があったというだけでは足りず、税を不正に免れようとの意図(逋脱の意図)に基づき、その手段として、申告書に記載された課税物件が法令上のそれを満たさないものであると認識しながら、あえて過少な申告を行うことを要し、反対に、行為者が、そのような意図に基づかず、例えば不注意や事実の誤認、法令に関する不知や誤解などの理由によって過少申告を行った場合には、『偽りその他不正の行為』にはあたらないと解するのが相当である。」と述べています。
本判決の意味
逋脱罪が成立するために必要な「偽りその他不正の行為」という要件について、
①税を不正に免れようとの意図(逋脱の意図)
②不法な過少な申告であることの認識
③過少申告の事実
の3つが必要としていると整理することができます。
逋脱罪の成立に関する故意の内容について、①及び②を必要としている点が重要なポイントとなります。
主観的な要素について、未必的な認識では足りず、確定的な認識が必要と考えているということができ、その意味で検察官が逋脱犯の立証をする上でハードルが高くなったといえるでしょう。
逋脱犯の弁護活動
この判決は、控訴審で逆転有罪となっていますが、控訴審では「偽りその他不正の行為」の意義について第一審判決の解釈を否定したわけではなく、Aの供述の信用性を安易に肯定して間違った事実を認定していることが問題視され、Aには確定的故意があったとして有罪となっています。
そのため、故意の内容として「偽りその他不正の行為」の認識がなかったという主張は、それが信用されれば無罪が勝ち取れる可能性があるということです。
供述の信用性の判断には、客観的証拠との一致だけではなく、税務調査や捜査における供述と変遷がないか、一貫しているかという点なども考慮されます。
ですので、調査や捜査の段階でどのように供述していくのかもしっかりと検討して臨む必要があります。
脱税を疑われた場合には、早急に専門家に相談し、適切なアドバイスをもらいましょう。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、初回相談は無料ですので、ご不安がある方は一度ご相談ください。