収賄罪と課税

収賄

収賄した金銭は課税対象となるでしょうか?犯罪行為によって得た利益に対する課税について弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。※併せてこちらもご覧ください(業務上横領と課税

事例

国会議員であるAさんは、職務に関し、長年の友人である個人事業主Bさんから、2000万円の金銭を受け取りました。Aさんは、この金を遊興費等に費消しましたが、賄賂だと思っていたお金なので確定申告はしませんでした。
(フィクションです)

解説

Aさんについては、職務に関して金銭を受けとっていますので、少なくとも単純収賄罪(刑法197条1項前段)が成立します。

収賄した金銭は、所得税の課税対象となるか

収賄した金銭が不法な原因による利得であることは疑いありません。もっとも、この点について、所得税基本通達36-1は、「法第36条1項に規定する『収入金額とすべき金額』又は『総収入金額に算入すべき金額』は、その収入の基因となった行為が適法であるかどうかを問わない」と規定しています。
したがって、本件のAさんが収賄によって得た金銭についても原則として所得税が課税されることになります。
ただ、ここで「原則として」課税されると述べた趣旨は、汚職の罪については、刑法197条の5により、「収受した賄賂はこれを没収する。その全部又は一部を没収することができないときは、その価額を追徴する。」と規定されていますので、本件が刑事事件になっており、近く有罪判決を受け、没収追徴を受ける見込みがある場合には、せっかく課税しても、没収追徴のときに課税を取り消す必要がある関係上、例外的に判決まで課税を保留することが行われることがあるからです。

一時所得か雑所得か

次にAさんが収賄によって得た利益が、「一時所得」なのか「雑所得」なのかが、問題となります。
この点、所得税法34条1項は、一時所得について、「一時所得とは、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得及び譲渡所得以外の所得のうち、営利を目的とする継続的所得から生じた所得以外の一時の所得で労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないものをいう。」と規定しています。そして、同法35条1項は、雑所得について、「雑所得とは、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得及び一時所得のいずれにも該当しない所得をいう。」と規定しています。
そうすると、収賄した金銭は、「職務に対して収受した賄賂」と解されますから、税法上は、役務の対価といえ雑所得として課税されるものと考えられます。
雑所得の場合、課税所得金額は、雑所得の金額-必要経費=雑所得の課税所得金額という計算式で求めます。
本件のAさんの場合、2000万円-0円=2000万円となり、Bさんから受け取った2000万円全額が課税所得金額となります。1800万円を超え4000万円以下の所得税の税率は40%、控除額は279万6000円です。
そのため、Aさんに課税される所得額は、2000万円×0.4-279万6000円=520万4000円となります。

Aさんは今後どうなるか

Aさんは、収賄しているため、このことが警察などの捜査機関に発覚すれば、収賄罪の被疑者として逮捕され取り調べを受けたり、刑事裁判で有罪の判決を受けて前科が付く可能性があります。
このこととは別に、Aさんには収賄によって得た利益について確定申告をしていないので、税金の問題があり、無申告又過少申告についてのペナルティを別途受ける可能性があります。
確定申告期限内に一切の所得について確定申告がなされていなかった場合には無申告加算税、一部だけしか確定申告をしていなかった場合には、過少申告加算税がペナルティとして課されます。
また、仮装隠ぺいなど悪質性が高いと判断された場合には、無申告加算税又は過少申告加算税に代えて重加算税が課せられます。
さらに、納税が遅れると、その期間に応じた「延滞税」の支払いが求められます。
なお、Bさんについては、贈賄罪(刑法198条)が成立しますが、所得税法45条2項には、賄賂として支出した金額は、不動産所得、事業所得、山林所得又は雑所得の金額の計算上必要経費に算入されないと明文で規定されており、贈賄を行った者も、前科が付く可能性とともに、税金の問題があることに注意する必要があります。

まとめ

Aさんのように犯罪によって得られた利益も課税対象になりますので、確定申告をしていなければ、収賄の罪とは別に所得税法違反など税法違反の罪にも問われてしまう可能性があります。
そのため、犯罪行為によって利益を得ている場合には、その犯罪だけではなく税金の問題についても考慮しておく必要があります。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、刑事事件を中心として扱っていますが、税法についても知識のある弁護士がそろっています。
初回の相談は無料ですので、一度ご相談にお越しください。

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