所得税法違反による脱税で実刑判決となった事例②

実刑

所得税法違反で実刑判決を受けた事例を紹介するとともに、実刑判決を避けるためにはどうしたらよいかを弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説していきます。全3回のうち、2回目の今回は、実刑判決になった事例や実刑と執行猶予を分ける基準となるような事例について紹介します。

事例②: ネット販売収入を無申告 – 虚偽の住民登録で所在隠し

大阪地方裁判所 令和2年9月14日判決(第6刑事部)は、インターネット上の物品販売業で得た事業所得を申告せず脱税した被告に対し、懲役1年および罰金800万円の判決を言い渡しました。
被告人は個人事業主(ネット通販業者)で、売上を無申告のまま所得税を免れただけでなく、居住地を偽装する目的で虚偽の住民登録まで行っていました。
確定申告を一切せず所在をくらますこの手口により、納税義務の追及を長期間逃れようとした悪質性が認定されています。
裁判所は「納税者としての規範意識が極めて低く、計画的かつ悪質」と断じていますが、被告人に前科がないこと、加算税を含めた全額の納税を終えていることを考慮され、執行猶予が付されています。
なお、判決では罰金不納の場合の労役場留置(罰金未納により労役場で服役する期間)についても言及されており、経済的にも厳しい姿勢が示されています。
被告人の職業はネット通販業で比較的若年の個人事業者と推測されますが、裁判所は「申告納税制度の根幹を揺るがす犯行」として強い非難を表明しています。

事例③: 巨額の所得隠し – 銀座ビルオーナーに懲役4年

脱税額が桁違いに大きい場合、初犯でも実刑が避けられないことがあります。
その典型例が、東京地方裁判所 平成30年11月20日判決で有罪となった東京・銀座のビルオーナーの事件です。
被告人(当時86歳)は繁華街ビルのオーナー収入などで約10億6000万円もの所得を隠し、法人税法違反の罪に問われました(※個人オーナーでしたが、ビル収入を管理する法人を通じて納税を免れた可能性があります)。
裁判所は「極めて巧妙かつ長期にわたる犯行で、悪質性が顕著」として、被告人に対し懲役4年および罰金2億4000万円の実刑判決を宣告しました(検察の求刑は懲役5年・罰金3億円)
この量刑は近年の所得税・法人税ほ脱事案としては最長クラスであり、被告人が高齢であったにもかかわらず実刑が選択された点で注目されます。
判決理由では、「被告人はビル収益の大半を申告せず、架空の経費計上など巧みな手段で巨額の税負担を免れてきた。その犯情の悪質さは強い非難に値し、社会的影響も看過できない」と指摘されました。
被告人は高齢ゆえ体調面を酌む余地もあり得ましたが、それ以上に10億円超という脱税規模と納税義務軽視の態度が重視され、実刑は避けられませんでした。
なお、この事件では法人名義での犯行でしたが、実質的経営者である被告人個人に懲役刑が科されています。
被告人はビル経営以外にも資産家として多額の収入があったと見られますが、公判では明確な弁解はなく、最終的に追徴課税分も含め莫大な納税を迫られることになりました。
家族にとっても資産差押え等の経済的影響は免れず、社会的信用の失墜という代償も非常に大きい事例です。

事例④: 架空経費で所得圧縮 – ブリーダー親子に有罪判決(執行猶予付き)

実刑判決の例ではありませんが、悪質な所得隠し手口として参考になるのが、ペットブリーダー業を営む親子による脱税事件です。
こちらは新潟地方裁判所 令和4年10月7日判決(報道発表日ベース)で、親子それぞれに有罪判決が言い渡されています。
被告人は父(ブリーダー経営者)と娘(事業手伝い)で、コロナ禍のペットブームに乗って売上が急増したにもかかわらず、その所得約1億6000万円を意図的に申告せず、犬猫の餌代を架空計上するなどの方法で経費を水増しし、結果的に約6100万円もの所得税を免れたとされています。
国税当局の査察により告発され、両被告は逮捕・起訴されました。
その後の裁判で、新潟地裁は父親に懲役1年・執行猶予3年・罰金1500万円、娘に懲役10か月・執行猶予3年(罰金なし)という判決を言い渡しています。
判決理由では、親子が役割を分担し組織的に脱税の指示と実行を行った点、コロナ禍の特需による利益をほぼ丸ごと隠ぺいした点などから「刑事責任は重い」と指摘されています。
「餌代の架空計上」という手口は比較的単純ながら巧妙で、売上規模の拡大に比例して脱税額も巨額となった悪質な事案でした。
しかし本件では、執行猶予が付されています。
考えられる理由として、両被告人が起訴事実を大筋で認め反省の態度を示したこと、起訴後にある程度の修正申告や追納の意思を示した可能性、そして前科がなかった点が挙げられます。
実際、裁判官は「脱税額は甚大で強い非難に値する」としつつも、高齢の父親が初犯であること、娘も従属的立場だったこと、そして何より犯行を認めていることを考慮し、両名に対する実刑は避けました(いずれも執行猶予3年)。
このように、脱税額が1億円未満規模でも刑事告発・有罪判決に至ること、また執行猶予付きとはいえ経営者本人に懲役刑と高額の罰金が科され社会的制裁を受けることがお分かりいただけるでしょう。
被告人らの職業は中小規模のブリーダー経営者とその家族従業員であり、「自分たちは大企業ではないから大丈夫」という油断があったのかもしれません。
しかし結果的に信用を失い、多額の追徴課税(重加算税含む)や罰金支払いに追われることになりました。

~次回は、実刑判決を避けるためにはどうすればいいのかなどについて解説します~

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