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輸出事業における消費税還付について、その仕組みなどを複数回にわたって紹介します。3回目の今回は業種による消費税還付の状況や特別なケースの紹介、不正に消費税還付を受けたことにより告発を受けた事例の紹介などを行います。
業種による消費税還付の状況
①製造業の場合
メーカーの場合、製品を海外に輸出すれば売上に対する消費税は0%ですが、生産に必要な原材料費や設備投資には国内で消費税を支払います。輸出比率が高い製造業者ほど、支払った消費税額が預かった消費税額を上回りやすく、多額の還付を受ける傾向があります。
実際、日本を代表する自動車メーカー等の大企業は毎年巨額の消費税還付を受けており、2022年度には輸出大企業上位20社で合計約1兆9千億円もの消費税が国から還付されたとの推計もあります。
②貿易会社の場合
貿易会社でも、例えば、国内メーカーから商品を税込仕入して輸出すれば、仕入時の消費税分が丸ごと還付対象となります。貿易業者にとって消費税還付は重要な資金源とも言え、適切な手続きによりキャッシュフローを確保することができます。
③サービス業の場合
サービス業においても、提供先が海外(非居住者)でサービスの消費が国外で完結する場合は輸出免税が適用されます。
国際通信サービス、国際輸送サービス、海外法人向けのコンサルティングやエンジニアリング、ソフトウェア・デザインの提供、特許やライセンス供与などは非居住者に対する役務提供として消費税が免税になります。
その結果、国内で要した人件費以外の経費(オフィス賃料や機器購入費用など)に含まれる消費税の還付を受けられます。例えば日本のIT企業が海外企業と契約して開発サービスを提供する場合、売上に消費税は発生しませんが、国内で購入したパソコンやソフトウェア、通信費等の消費税は全て控除・還付されます。
一方、旅行業やホテル業など訪日外国人相手のサービスは、そのサービス提供が日本国内で行われ直接便益を享受させるもののため免税にならず、通常通り課税となります。
このようにサービス業でも取引の性質によって消費税の扱いが異なり、国外向けサービスを主とする事業者は輸出産業同様に還付を受けるケースがあります。
特別なケース
特別なケースや過去の事例としては、事業構造や取引形態に起因する消費税還付があります。例えば、設立初年度に巨額の設備投資を行った場合です。工場建設や大型機械の購入などで一時的に多額の消費税を支払うと、売上が立つ前でもその分の消費税は還付申告により取り戻すことができます。実際、赤字や経費過多の場合、預かった消費税より支払った消費税が多くなり還付を受けられます。
また、不動産業でオフィスビル等を購入したケースでは、購入時に支払った消費税がテナントへの課税賃貸料収入より大きければ還付となります。不動産の用途によっては課税売上が見込めず本来控除できないケースもあるため、一部では還付を得る目的で物件の用途変更を行うようなスキームが問題視されたこともあります。この分野について税制改正で調整措置が講じられ、意図的な還付取得を防ぐルールが整備されています。
日本の国税局の告発事例
消費税還付制度を悪用した不正行為に対しては、国税庁が厳しい姿勢で臨んでいます。国税庁によれば、不正は年々巧妙化しており、国税局は消費税還付申告に対する調査を強化しています。
近年明らかになった大規模不正の一例に、調剤薬局チェーンによる架空取引を利用した消費税不正還付事件があります。
このケースでは、処方箋医薬品販売が主で本来は非課税売上(社会保険診療)となる薬局グループが、グループ内で実態のない医薬品売買をでっち上げ、課税売上割合を意図的に引き上げていました。
課税売上割合を水増しすることで、本来控除できないはずの非課税売上対応仕入に係る消費税まで控除し、結果として約16億円もの消費税を不正に還付申告していたのです。
この不正は札幌国税局が関連会社の調査で疑いを掴み、大阪国税局や東京国税局と連携した広域調査によって発覚しました。
グループ企業は追徴課税として重加算税を含む約23億円を修正申告し、国税当局から告発される事態となっています。
国税庁全体で見ても、この大阪国税局管内の事例は規模が突出しており、当局が不正還付に警鐘を鳴らす契機となりました。
他にも架空の輸出取引を装った不正還付の事例があります。例えば2019年12月23日の津地方裁判所の判決では、ある企業が存在しない輸出免税売上と架空の課税仕入を計上し、不正に消費税還付を受けていた事実が認定されています。
このように、実際には輸出していないにもかかわらず書類を偽装して還付金を騙し取る手口は過去にも発生しており、国税当局は偽装された輸出許可証や取引請求書の発見に努めています。
不正還付が発覚した場合、消費税法違反(偽りその他不正行為による還付受領)として告発され、裁判で有罪となれば重い罰則が科されます。加えて、追徴税として重加算税が付されるなど経済的不利益も非常に大きくなります。
国税局は近年、還付申告に対する審査を一層厳格化しています。特に高額還付が継続する輸出企業や、不自然な取引を含む申告には重点的に実地調査を実施し、不正の摘発に力を入れています。
国税庁の統計でも還付申告に対する調査件数や追徴事例が報告されており、不正抑止の効果もあってか年々不正件数自体は横這いから微減傾向にあります。
いずれにせよ、正当な輸出取引に基づく還付は適法に受けられますが、虚偽の還付申請は高確率で発覚し告発リスクを伴うことに留意すべきです。適切な範囲で消費税還付制度を利用しつつ、法令遵守のもと健全な資金繰りに役立てることが重要です。