消費税不正還付事案の紹介と対応①(1/4)

消費税不正還付

消費税の不正還付事案について、手口や告発事例、不正が発覚した場合の対応などについて、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所がシリーズで解説します。
第1回目は、消費税不正還付の概要と、よくある不正還付の手口について、解説します。

消費税の不正還付とは?

消費税の不正還付とは、本来受け取る資格のない消費税の還付金を、虚偽の申告など不正な手段によってだまし取る行為です。
消費税は事業者が売上に係る消費税(預かった消費税)から仕入れに係る消費税(支払った消費税)を差し引いて納税し、不足があれば還付を受けられる仕組みです。
例えば、事業が赤字の場合や大きな設備投資をした場合、そして輸出取引を行う場合(輸出免税)には、支払った消費税が預かった消費税より多くなり、差額の還付を受けられます。
しかし、この制度を悪用して虚偽の取引をでっち上げ、本来は発生していない仕入税額控除事業者が課税売上に係る消費税額から、課税仕入れ等に係る消費税額を控除できる制度のこと。仕入れや経費で支払った消費税を差し引けるため、輸出取引のように売上の消費税が少ない場合は還付(払いすぎた税の返還)を受けることができる。)を水増しすることで還付金を騙し取る事例が後を絶ちません。
国税庁もこのような不正受還付事案は「いわば国庫金の詐取ともいえる悪質性の高い事案」であると位置付けており、重点的に摘発しています。平成30年度(2018年度)には過去5年で最多の6件・総額14億円規模の消費税不正還付事案を告発し、消費税不正還付事件で懲役4年6月の実刑判決が言い渡された例もあります。
近年も摘発件数は増加傾向にあり、令和4年度(2022年度)は16件もの不正還付事案が刑事告発されるなど、国税当局は厳しい姿勢で臨んでいます。

よくある不正還付の手口

消費税の不正還付は、主に仕入税額控除制度や輸出免税制度といった仕組みの盲点を突いて行われます。典型的な手口をいくつか紹介します。
①架空の輸出取引をでっち上げる(輸出免税の悪用)
輸出取引は消費税が課税されないため(輸出免税制度)、輸出業者は国内で仕入れた商品の消費税分を国から還付してもらえます。
この仕組みを悪用し、実際には存在しない輸出を装って還付を受けるケースがあります。
例えば、事業者が架空の輸出売上を計上し、本当は国内で消費されている商品を「海外に販売した」ことにして消費税の免税を受ける手口です。実際に、大阪国税局が告発した事例では、日用品の輸出販売等を行うA社が、不正協力者と共謀し、存在しない化粧品の仕入れをでっち上げ(架空の課税仕入れ)た上で、それら化粧品を輸出物品販売場(免税店)で外国人観光客に販売したように見せかけることで架空の免税売上を計上し、不正に消費税の還付申告を行っていました。
近年では、偽造した書類や他人のパスポート情報まで利用し、同じ高級腕時計を何度も輸出したように偽装する、あるいはコンビニの商品について偽のパスポート情報で免税販売記録を作成するといった巧妙なケースも発覚しています。これらはいずれも存在しない輸出(または免税販売)を装って仕入税額控除を受け、還付金を騙し取ろうとする悪質な手口です。
②架空の仕入取引を計上する(仕入税額控除の水増し)
もう一つ多い手口は、架空の仕入をでっち上げて支払った消費税を水増しし、還付額を吊り上げる方法です。
消費税の仕入税額控除とは、仕入や経費にかかった消費税額を売上にかかる消費税額から控除できる制度のことです。
不正行為者は、この控除額を大きく見せるために実際には購入していない商品を購入したことにし、偽造請求書や架空の領収書を用いて虚偽の申告を行います。
例えば、不正指南役の人物が複数の法人に「パワーストーンを仕入れたことにせよ」と指示し、各社が代表者個人からパワーストーンを購入したかのように仮装取引を行って架空の課税仕入れを計上したケースがあります。このケースでは、還付を受けようとした複数法人とその代表者だけでなく、スキームを考案した指南役まで含めて国税庁に告発されました。
また、キャッシュレス決済端末の販売会社が、仕入れた端末の台数を水増しして申告することで約2,400万円もの不正還付を受けていた疑いが明らかになっています。
このように架空仕入れによる水増しは、単独の会社でも行われますが、時には複数の事業者がグルになって架空の売買ネットワークを作り上げ、大規模な不正還付スキームに発展することもあります。

続きは第2回で

今回は消費税不正還付の概要とよくある手口について解説しました。
第2回では、国税庁による消費税不正還付の告発事例を紹介します。

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