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東京国税局が過去10年間に法人税法違反で告発した件数や主な事例に関して、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。今回は令和になって以降の主な告発事例について取り上げます。
2019年(令和元年度)
法人税法違反の告発件数は29件と増加しました。景気拡大に伴い脱税額も大型化する傾向が見られ、この年は2億円規模の脱税事件が発生しています。例えば、投資用不動産の販売コンサル会社などが2016年7月期~2018年7月期に架空の仕入れ計上で約4億9400万円の所得を隠し、法人税と地方法人税あわせ約1億1,900万円を免れた事件では、東京国税局が同社と経営者らを告発し、その後東京地検特捜部が在宅起訴しました。手口は架空の商品の仕入計上による所得圧縮で、不動産関連業者による典型的な脱税スキームでした。
2020年(令和2年度)
告発件数はやや減少し22件でしたが、有名企業の脱税事件が明るみに出ました。人気アニメ「鬼滅の刃」の制作会社と社長が、2015年と2017~2018年分の売上を帳簿上少なく見せかける手口で約4億4600万円の所得を隠し、法人税約1億1,000万円と消費税約2,900万円を脱税したとして2020年に東京国税局から告発されました。具体的には、アニメ関連カフェ等4店舗の売上金の一部を社長自宅の金庫に保管し申告しないという方法で、不正資金は作品制作資金にも流用されていたとされています。本件は起訴後に社長が法人税法違反罪などを認め、東京地裁で懲役1年8月・執行猶予3年、法人に罰金3,000万円の有罪判決となりました。
2021年(令和3年度)
告発件数は12件と大きく減少しました。コロナ禍で強制調査の着手自体が減った影響とみられますが、それでも悪質な事案は存在します。渋谷区のIT企業役員(インターネット広告代理店経営)が架空外注費を計上して約1億9,000万円もの法人税を脱税した事件では、東京国税局が法人税法違反容疑で告発し話題となりました。同氏は複数の関連会社間で架空取引を装い経費を水増ししており、脱税により得た資金は個人の預金等に留保されていたとみられます。告発後、当局の調査への協力や修正申告が行われたものの、最終的には起訴され有罪判決は免れませんでした。
2022年(令和4年度)
法人税法違反での告発件数は21件に増加しました。手口を見ると、引き続き架空経費計上や売上除外が中心ですが、新たな業種での発覚もあります。東京国税局は2022年6月、ITシステム開発会社とその代表者を、架空の業務委託費計上によって2019~2021年の3年間で約2億1,100万円の所得を隠し法人税約5,100万円を脱税した容疑で告発しました。代表者は取引先名義の偽造請求書を作成して支出を装っており、不正資金は高級時計の購入などに充てられていました。本件は告発発表後、代表者が「申告・納税をほぼ済ませた」とコメントし謝罪する異例の展開となりましたが、悪質性は高く起訴に至ったとみられます。
2023年(令和5年度)
東京国税局管内では約20~25件程度の法人税法違反告発があった模様です(査察全体の告発件数41件のうち約6割が法人税法違反との推計)。業種では引き続き不動産業やIT関連業のほか、国際的な租税回避事案も取り沙汰されています。この年の注目事例として、東京国税局が2023年に大手予備校元社長を約5億7千万円の所得無申告(法人役員報酬の隠匿)で告発した事件や、海外取引を利用した所得隠し事案などが挙げられます。
2024年(令和6年度)
現時点で公表されている情報は限定的ですが、2024年初までに判明した事例として、東京国税局が不動産会社による架空の有価証券売却損計上による法人税約5,100万円の脱税容疑を告発したことが報じられています(告発日は2025年2月26日付)。近年はこのように巧妙な経済取引を装った手口も散見されており、引き続き厳正な査察が行われています。