このページの目次
1 はじめに
このページでは脱税事件で裁判所が無罪判決を出した事例について紹介します。
ただしあくまで裁判所が当該事例において無罪判決を出したに過ぎませんので、お客様の問題になっている事案が無罪や不起訴が見込める事案かどうかについては、弁護士に相談することをお勧めいたします。
相談では刑事事件や脱税事件の裁判例に精通した弁護士が、事情の聴き取りを行った上で見通しについてアドバイスさせていただきます。
2 平成26年11月10日大阪地裁決定
(1)事案の争点
検察官は被告人Aがクラブ「X」の実質的な経営者であり(なおXにはBという経営者もいたが検察官はAとBの共同経営であると主張していた)、源泉徴収義務を負っていたにもかかわらず、従業員であるホステス等に対して報酬を支払う際に報酬について所得税として源泉徴収して所得税として納付すべきであった、約8000万円について納付しなかったとして所得税法違反でAを起訴した。
これに対しAは、自身が源泉徴収を追う義務のあるXの経営者ではなく従業員に過ぎないとして、無罪であると主張した。
公判ではAが源泉徴収義務を負う者かどうか、具体的にはクラブXの経営者であるかが争点となった
(2)争点に対する判断
上記争点に対し裁判所は、AはクラブXの幹部従業員に過ぎず経営者には当たらないとしてAに対し無罪を言い渡した。
裁判所が、Aが経営者であることを否定した根拠としては、
- Xの営業による利得のうちAは5分の1かそれ以下しか利得をもらっていなかったこと
- AにはクラブXのホステスなどの採否に関して最終決定権を持っていなかったこと
- AはクラブXの前にBが経営していたクラブYに所属していたが、クラブYではAが共同経営者出なかったこと
は明らかであり、その後共同経営に変わったことを示すような事情はAとBの間にないことを挙げています。
(3)弁護士からのコメント
この事案では様々な客観的事情を総合してAがクラブXの経営者にあたるとは認められず、源泉徴収義務を負っていないことを認定しました。
判決によれば、捜査段階でのAの自白があったにもかかわらず、裁判所は上記のような理由からその信用性を否定しAが共同経営者出なかったと認定しました。
捜査段階で誤った調書にサインをしないのが大切ですが、仮に自白調書に誤ったサインしてしまったとしても、客観的事情を丁寧に主張することで本件のように無罪判決を獲得できる場合もあります。
3 平成25年3月1日東京地裁決定
(1)事案の争点
検察官は、Aが源泉徴収されずに海外口座に入庫等された株式賞与(いわゆるインセンティブ報酬)や株式等の譲渡収入、海外口座の利子収入を、この収入があったこと、この収入について源泉徴収されていないことを認識しながら源泉徴収票に基づいて本件の確定申告を行ったとして、所得に対する課税をまぬかれる故意をもって(ほ脱の故意をもって)、所得税約1億3000万円を免れたとして所得税法違反で起訴した。
これに対してAは株式報酬については既に会社において源泉徴収されていると考えており、株式等の譲渡収入についても故意に確定申告から漏らしたものではなく、いずれについてもほ脱の故意がなく所得税法違反は成立しないとして、無罪を主張した。
公判では上記のように、Aに過少申告のほ脱の故意の有無が争点となった。
(2)争点に対する判断
上記争点に対し裁判所は検察官の主張する証拠関係からして、過少申告の認識がなかったとするAの供出を否定することはできず、Aにほ脱の故意があったと認めるには合理的な疑いを入れる余地があるとして、Aに対して無罪を言い渡した。
裁判において検察官はAの送っている税理士とのメールの内容等から、Aが株式報酬について源泉徴収されていないことを認識しており、過少申告の認識が合ったことを主張していました。
しかし裁判所はその客観証拠のみでは、Aは税知識が不十分であり、株式報酬が源泉徴収に含まれていると誤解していたという言い分を排斥することができないとして、検察官の主張を認めなかった。
またその他の収入について確定申告をしていなかったことについても各種収入について失念していたとするAの言い分を検察官の主張する証拠関係から排斥することはできないとして、過少申告、申請漏れのいずれの件についても課税を免れる故意はなかったと判断した。
(3)弁護士からのコメント
この事件はAが自分の税知識の不十分さから過少申告をしてしまっていた事案のようです。確定申告の内容の誤りは誰にでも起こり得るものといえます。
しかしながらそのことから、本件のように故意に過少申告をしたのではないかと疑われて刑事事件の被疑者となることもあるのです。
その際には取調べに対して粘り強く故意はなかったのだと主張すること、早期に故意に過少申告したわけではないことを示す客観証拠を集めることが重要になります。
その上で起訴された場合については、検察官の立てるストーリーが客観証拠から認定されるものでないことを説得的に主張すること、裁判で調べられる証拠でも崩れない被告人側のストーリーを適切に組み立てることが無罪獲得のためには重要になります。