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消費税の不正還付事案について、手口や告発事例、不正が発覚した場合の対応などについて、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所がシリーズで解説します。
第2回目の今回は、国税庁による告発事例を紹介します。
国税庁や各国税局は、不正還付を行った事案について積極的に刑事告発(検察庁に告発)し、その内容を報道発表等で公表しています。以下に、実際に発覚した不正還付の事例をいくつか取り上げ、その手口等を紹介します。
架空の革製品輸出で消費税還付を詐取した事例
大阪国税局は2024年2月、輸出免税制度を悪用して消費税約3,300万円の還付金を不正受給したとして、神戸市の元貿易業の男性を消費税法違反などの疑いで神戸地方検察庁に告発しました。
この男性は、2020年1月〜2022年12月に国内で仕入れた革製品をあたかも海外に輸出したように装い、架空の輸出取引を申告して還付金を受け取っていた疑いがあります。追徴税額(本税と重加算税を含む)は約4,400万円に上り、不正還付額(約3,300万円)を大きく上回る額を徴収されています。
これは架空輸出を用いた典型的な不正還付事件であり、国税局査察部の調査により発覚・告発に至ったものです。
パワーストーン架空仕入れスキームによる還付未遂事件
大阪国税局は令和4年度に、複数企業が共謀したパワーストーン仕入れを装う不正還付未遂事件を告発しています。
この事件では、B社ほか数社が不正指南者の指示のもと、各社の代表者から高額なパワーストーンを購入したと偽り、架空の課税仕入れを計上して還付申告を行っていました。
還付が成功すれば国庫から多額の消費税が騙し取られるところでしたが、税務当局がスキームを解明し、法人および代表者、さらに黒幕である指南役までを含め刑事告発しています。
これは、複数の事業者とブローカー的存在が組んだ組織的脱税スキームの一例であり、国税庁が「重点事案」として対処したケースです。
偽装化粧品輸出(実態は飲料水)による巨額不正還付事件
東京国税局が調査したある事件では、東京都内の化粧品卸売会社が複数の輸出代行業者と結託し、実際には市販のミネラルウォーターを高級化粧品に偽装して巨額の輸出取引を装う手口が発覚しました。
この会社は「約2年間で総額370億円相当の高級化粧品を仕入れて輸出業者へ販売した」と虚偽申告し、輸出業者側は「その化粧品を香港に輸出した」として消費税の還付を受けていたのです。
しかし税務調査の結果、実際に取引されていたのは市価が僅かなボトル飲料水であり、売買記録や請求書類はすべて架空と判明しました。
東京国税局はこの会社に対し約35億円もの追徴課税(還付された消費税約30億円+重加算税等)を行い、共謀した輸出業者約10社にも合計9億円の追徴課税処分を下しました。
この事件は刑事告発に関する報道はありませんが、関与事業者は免税店の許可取消や厳しい行政処分も受けています。
実際、東京国税局は2023年2月までに同様の不正を行っていた都内の免税店約10店舗の免税販売許可を剥奪する処分を行っています。
その他の事例
上記以外にも、免税店で架空の外国人客に大量購入させたよう装うケース、輸出用の中古車台数を水増しして申告した中小企業の事件(2016~18年で約1.39億円の不正還付、2021年に名古屋地検が社長ら逮捕)など、不正還付の事例は全国で報告されています。
いずれも共通するのは、「実態のない取引」を作り出すことで消費税の計算構造を逆手に取り、還付という形で税金を不正に入手しようとする点です。
国税当局はこうした事案に対し、精密な取引追跡や帳簿類の押収・解析を駆使して実態解明を行い、悪質性が高いと判断すれば積極的に刑事告発しています。
続きは第3回で
今回は消費税不正還付に関して国税局が実際に告発した事例を紹介しました。
第3回では、不正還付が発覚した場合のペナルティについて解説します。