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【事件解説】名古屋国税局が「頂き女子りりちゃん」を告発

2024-06-26
報道

いわゆる「頂き女子りりちゃん」を名古屋国税局が告発した事件について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。

事件の概要

恋愛感情に付け込んで男性をから得た詐取金を税務申告せず、約4000万円を脱税したとして、名古屋国税局は、いわゆる「頂き女子りりちゃん」ことA氏を所得税法違反容疑で名古屋地検に刑事告発しました(2024年1月31日付け発表)。
A氏は、SNS上で「頂き女子りりちゃん」を名乗り、中年男性に対して「困窮している」などと嘘をついて金銭的な支援を受ける方法を発信。名古屋地検は、2021年3月~2023年8月に、この方法で複数の男性から1億5000万円以上をだまし取ったなどとして詐欺、詐欺幇助の罪で、先にA氏を起訴しており、A氏は公判中でした。名古屋国税局によると、A氏が得た詐取金のうち2021年~2022年に得た詐取金計約1億1000万円分が告発の対象となり、A氏は、同詐取金の税務申告を怠ったことで、所得税約4000万円を免れた疑いがあるとのことです。A氏は、脱税で得たとされる資金はホストクラブなどに使っていました。
2024年1月31日、朝日新聞デジタルの記事より。一部改変)

詐欺によって得た利益も課税対象になるか

犯罪等違法な手段で金銭を得たとした場合、正直に税の申告をする者などいないように思われます。しかし、A氏がだまし取った金銭は所得に該当します。
この点、所得税基本通達36-1は、「法36条1項に規定する『収入金額とすべき金額』又は『総収入金額に算入すべき金額』は、その収入の基因となった行為が適法であるか否かを問わない」と規定しており、今回のように犯罪によって得た利益も適法な手段で得た利益と同様に所得と見なされるからです。
A氏は、だまし取った金銭をホストクラブで費消しているとのことであり、納税できない可能性が高いですが、お金がないからといって脱税が許されるというものではありません。

刑事告発後の経過について

本事件では、所得税法違反で名古屋地検に告発がなされています。
告発された後、本件脱税事件も起訴され、A氏は、2024年3月15日の公判期日で、脱税事件の起訴内容を認めました。そして、この日、A氏は、検察官から懲役13年及び罰金1200万円を求刑され、同年4月22日、名古屋地裁は、A氏に対して懲役9年及び罰金800万円の実刑判決を言い渡しました(もっとも、その後、A氏が控訴したことで判決はまだ確定していません)。
本件は、詐欺罪の被害額が大きいため、詐欺罪だけでも実刑の事案ですが、脱税以外にも立件された事件がある場合、他に立件された事件が本件のように脱税と密接に関連するケースでは、そうでないケースと比較してより犯情が悪くなります。したがって、脱税にプラスして脱税に密接に関連する事件が立件された場合、事件全体の量刑が実刑となる可能性が高くなるといえます。常に法律を遵守し、適法な手段で利益を得、適正に納税することが大切であることはいうまでもありません。

罰金の額は、脱税額の20~30パーセントであるのが通常

本件では、A氏に対し、罰金800万円が言い渡されています。詐欺罪には、懲役刑しかなく罰金刑はありませんので、この罰金800万円は、脱税の事件に関してのものです。
脱税の金額約4000万円に対して罰金額800万円が言い渡されており、罰金額が脱税の金額の約20パーセントであることから、通常の量刑の相場に沿った罰金額だといえます。

刑事告発を受けたら

脱税事件によって刑事告発をされたら、すぐに弁護士に相談しましょう。
告発を受けた場合には刑事手続が開始されます。刑事事件に強い弁護士に依頼をすることで、不起訴を勝ち取れたり、刑事裁判の結果が軽くなる可能性が出てきます。

【事件解説】東京国税局が不動産会社の実質経営者と公認会計士を告発

2024-04-10
報道

港区白金の再開発事業にからみ不動産業者の実質経営者と公認会計士を東京国税局が告発した事件について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。

事件の概要

不動産の売買で得た所得を隠し、約1億700万円を脱税したとして、東京国税局査察部は、不動産会社A社(東京都港区、解散)の実質経営者B氏と関与税理士だった公認会計士C氏を法人税法違反の疑いで東京地検に告発していたことがわかった。
関係者によると、A社は港区白金の再開発事業にからむ不動産取引などで多額の利益を上げたが、架空の経費を計上するなどの方法で、2021年8月期までの2年間に計約4億3700万円の所得を隠し、法人税約1億700万円を脱税した疑いがある。
隠した所得は、実質経営者B氏の口座や実質経営者B氏が代表取締役を務める別法人の金庫で管理していたとみられ、公認会計士C氏は、不正と知りながらA社の税務業務を担っていたという。
取材に対し、実質経営者B氏は、「国税局の指導に従い、修正申告を済ませた。今後は適切に申告納税する。」と答え、公認会計士C氏は「職業会計人としての責任を感じている。」と答えたという。
(2024年1月29日、読売新聞オンラインの記事より。一部改変)

法人税は法人の所得に課される税金

本事件の実質経営者B氏は、不動産業を営んでいたということですが、免れた税金は法人税となっています。
所得税も法人税も、同じく、「所得」に対する課税です。すなわち、法人税は、法人の「所得」税です。
所得の金額は、具体的には益金の額から損金の額を控除した金額のことになります。

名義上の代表者と実質経営者の違いとは

法人税法において、名義上の代表者と実質経営者の違いは重要です。ここでは、それぞれの役割と脱税に対する処罰について説明します。
名義上の代表者は、法人の登記簿の役職であり、会社法やその他の法令に基づいて選任された役員です。名義上の代表者は、法人の経営に直接関与せず、法人の名義を借りているだけである場合があります。
実質経営者は、法人の実際の経営に従事しており、その意思決定に大きな影響力を持っている者です。実質経営者は、法人の利益や財務に直接的に関与しています。
脱税行為に対する処罰は、名義上の代表者と実質経営者とでは異なります。実質経営者が脱税を行った場合、法人の経営に直接的に関与しているため、脱税額によっては、処罰される可能性があります。一方名義上の代表者の場合、法人の経営に実質的に関与している場合であれば処罰される可能性がありますが、法人の名義を借りているだけの場合、処罰の対象となることは少ないです。

刑事告発

本事件では、法人税法違反で東京地検に告発がなされています。
脱税の方法には種々ありますが、本件では、架空の経費を計上し、実際の経費より多い経費にみせかけるなどの方法で、所得を少なくして脱税をしていたと考えられます。
ここでいう告発とは、国税局が査察調査の結果、刑事罰を与える必要があると考えた場合に、検察庁に刑事裁判にかけること(起訴)を求めて訴え出ることです。
告発は、基本的に脱税をしてしまった人や会社が所在する地域を管轄する地方検察庁に対して行われます。
告発を受けた検察庁は、その後刑事事件として捜査を開始します。
そして捜査が終われば起訴するか不起訴にするかを決定しますが、国税局から告発を受けた事件で起訴される確率は約80%くらいといわれています。
なお、今回の報道では、既に修正申告を済ませているとされています。
修正申告とは、確定申告で過小な申告を行っていた場合に、正しい内容に修正して申告するものです。告発された後、検察官が起訴するか否かを決めますが、その判断に際し、既に修正申告をしているかどうかということは重要な事実です。
起訴された場合には、刑事裁判が始まります。
多くの場合、法人の実質経営者等には執行猶予付きの判決が下されますが、懲役刑のみならず、罰金刑が課される場合もあります。
罰金の額は、法人税や所得税の場合、脱税額の20~30パーセントであるのが通常であり、本事例では、約1億700万円の法人税を免れたということから、2000~3000万円くらいの罰金額が予想されます。

刑事告発を受けたら

脱税事件によって刑事告発をされたら、すぐに弁護士に相談しましょう。
告発を受けた場合には刑事手続が開始されます。刑事事件に強い弁護士に依頼をすることで、不起訴を勝ち取れたり、刑事裁判の結果が軽くなる可能性が出てきます。

【事件解説】海外取引をめぐる脱税事件の捜査を詳しく解説

2024-02-28
脱税捜査

海外取引をめぐる脱税事件の捜査について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が具体例を交えながら詳しく解説します。

事件の概要

甲は、PC関連機器の製造販売等を目的とするA会社の代表取締役として、同社の業務を統括していたものであるが、A社の業務に関して法人税を免れようと企て、令和3年7月7日から令和5年6月30日までの2事業年度において、外国(C国)所在のX社からゲームソフトの版権を購入したと仮装して架空外注加工費数億円を計上するなどの方法により所得を過少に申告して法人税を免れたという海外取引をめぐる事案です(実在しないフィクションの事案です。)

甲は海外取引であればバレないと思っていた・・・

本件の脱税スキームは架空外注加工費の計上による期末利益の圧縮という極めてシンプルなものではありましたが、甲としては、海外の取引先であれば、査察は反面調査が難しいであろうし、検察の強制捜査も海外には及ばないだろうと考えていたので、かなりの自信をもっていたようでした。確かに、査察の調査も検察の捜査も、主権の及ぶ国内での活動が原則です。しかし、査察や検察は、そんなに甘いものではありませんでした・・・この事案、どのように脱税工作が暴かれていったのでしょうか・・・。
その内幕を見ていきましょう,

こうして事実は明らかにされていった・・・

甲は、査察に対して、X社からゲームソフトの版権を購入したのは事実であり、これによって計上した経費は正しい会計処理によっていると主張し、その主張に見合う契約書やその版権によって作成したソフトウェアのサンプルなども提出するなどしていました。
しかし,査察は以下のような事実をつかみました。
①A社がX社宛てに送金した資金の送金名目が版権購入代金などではなく、事務用品購入、家具購入などとなっていたこと
②上記①のX社宛ての送金の一部が、外国銀行の甲名義の預金口座に移されて、株式購入に充てられるなどしていたこと
③甲が提出したX社との契約書に記載された契約金額と実際の支払額が一致しておらず、契約金額自体の合理的算出根拠が判然としないこと
などの事実が次々と明らかになっていきました。
そして、これらの事実調査と並行して、国際的に企業リサーチを行っている民間信用調査機関に調査を依頼したところ、C国にX社の商業登記はなく、会社番号もC国の現地法人である別会社であることが判明しました。

告発、そして検察による強制捜査・・・

甲は、虚偽弁解を維持し続けたため、査察から刑事告発をされ、検察の捜査が始まりました。そして、甲は逮捕・勾留されて、検事による取調べにおいて事実を追及され、結局、「A会社に多額の利益が出ていたことから、今後の事業拡張の資金に充てようと考えて、海外取引による架空計上であればバレることもあるまいとの甘い見通しから今回の事件を起こした」旨の自白をするに至り、結局、起訴されて、有罪判決を受けました。

まとめ

海外取引を利用した脱税は、発覚し難いように思いますが、紹介した事案のように、国税局による査察調査や検察による脱税捜査は、そんなに甘いものではありません。いったん犯則嫌疑者としての容疑がかけらると、水面下において相当期間にわたって重厚な犯則調査が行われ、事実関係がどんどん暴かれていきます。
このような段階に至っては、もはや税理士だけでは対応できません。犯則調査は将来の告発、起訴にもつながる重要な局面ですので、少しでも早く刑事事件を専門に取り扱う弁護士に相談し、弁護士と税理士がチームを組んで対応できる態勢を立てた方がよいでしょう。

【報道解説】水道工事などを担う会社が所得隠し

2024-01-10
国税局

水道工事などを担う会社が所得隠しをしていたという報道について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。

1 報道の内容について

水道工事などを担う会社とその代表が1億2000万円を超える所得を隠し脱税したとして、東京国税局に刑事告発されました。
東京・板橋区にある水道工事会社とその代表(46)は、去年2月までの3年間で約1億2700万円の所得を隠し、法人税など2900万円ほどを脱税した疑いがもたれています。
関係者によりますと、代表は架空の外注費を計上するなどして所得を小さく見せかけていました。
不正に得た資金は現金で保管していたほか、高級外車の購入に充てていたということです。
ANNの取材に対し、代表は弁護士を通じて修正申告を済ませたとしたうえで「反省している。二度としない」とコメントしています。
令和5年12月5日 ABEMA TIMES-Yahoo!ニュース より抜粋)

2 所得隠しとは

報道で問題となっている法人税は、税額を算出するための基礎となる金額課税標準と呼ばれます。)を、「各事業年度の所得の金額」としています(法人税法21条)。
ここにいう「各事業年度の所得の金額」とは、「当該事業年度の益金の額から当該事業年度の損金の額を控除した金額」をいいます(同法22条1項)。
益金と損金の具体的な内容については、それぞれ法22条2項と3項に定められていますが、ごく簡単にいうと、益金とは収益の額をいい、損金とは損失の額をいいます。
なお、すべての収益や損失が益金、損金に含まれるわけではないことは注意が必要です。
今回取り上げた報道においては、架空の外注費を計上するなどして所得を小さく見せかけていたとされています。
これは、実際には支払っていないのにもかかわらず、外注費(たとえば、他の事業者に、とある工事の一部の施工をしてもらった際の費用など)を支出しており、その分、損金を増やした結果、所得が小さく見せかけることによって、所得を隠していたということになります。

3 刑事告発について

報道された会社と代表者は、国税局に刑事告発されたとされています。
刑事告発されると、今後、事件が検察庁に引き継がれ、取調べを受けるなどした後に、刑事裁判にかけられるかどうかが判断されることになります。
偽りその他不正の行為によって、法人税を免れた場合、代表者については、10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金(または罰金を併科)とされています。
なお、免れた法人税が1000万円を超える場合、罰金の上限がその免れた金額となる可能性もあります。
また、今回の報道の事案では、法人税だけではなく、地方税も関わってきますし、場合によっては消費税も関わってくることも考えられます。

4 弁護活動について

今回の報道では、既に修正申告を済ませているとされています。
修正申告とは、確定申告で過少な申告を行っていた場合に、正しい内容に修正して申告するものです(国税通則法19条)。
告発された後、検察官が刑事裁判にかけるかどうかを決めますが、その際に修正申告をしているかどうかというのは重要な事情になってきます。
ですから、国税局による査察が入るなどした段階で、早期に修正申告をするということは重要です。
もっとも、脱税事案といっても、先ほど話したように、法人税だけではなく、他の税金も関わってきますので、脱税事件に強い弁護士のアドバイスが必要になりますし、さらには、査察対応の経験のある税理士のサポートも必要になります。
また、修正申告をした後についても、たとえば事業をどうするのか、精算するのであればその手続が必要になりますし、雇用している従業員をどうするのかなど様々な問題があります。
事案に応じた柔軟な対応が必要になり、弁護士のサポートが必要であることに変わりはありません。

5 最後に

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、脱税事件に強い弁護士が所属し、法人税法違反など多数の事件を取り扱っています。法人税法違反の疑いがあるとして税務調査を受けた方は、初回の相談は無料ですので、お気軽にお問い合わせください。

【事件解説】東京国税局が医療機器販売会社と同社の代表取締役を告発

2023-12-27
国税局

医療機器販売会社と同社の代表取締役を東京国税局が告発した事件について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。

事件の概要

経費を水増しするなどして約1億円の所得を隠し、脱税したとして、東京国税局査察部が、医療機器販売会社であるA社と同社の代表取締役B氏を法人税法違反の疑いで横浜地検に告発していたことがわかった。
関係者によると、B氏は知人が関係する業者に手数料を支払ったように装ったり、金額を水増しした請求書を作らせたりして経費を膨らませ、2021年5月期までの3年間に約1億800万円の所得を隠し、約2900万円を脱税した疑いがある。得た資金は住宅ローンの返済などに充てていたという。
2023年5月22日、朝日新聞DIGITALの記事より。一部改変)

法人税は法人の所得に課される税金

本事件のB氏は、医療機器販売業を営んでいたということですが、免れた税金は法人税となっています。
所得税も法人税も、同じく、「所得」に対する課税です。すなわち、法人税は、法人の「所得」税です。
所得の金額は、具体的には益金の額から損金の額を控除した金額のことになります。

法人税の申告期限等

法人税の申告には、「確定申告」と「中間申告」があります。
確定申告は、事業年度ごとに行うもので、申告期限は事業年度終了の日(決算日)の翌日から2か月以内です。
この間に、納めるべき法人税額を申告し、納税まで完了する必要があります。
たとえば,3月31日決算の会社は、5月31日までに申告し、納税を完了しなければなりません。
さらに、事業年度が6か月を超えかつ前事業年度(12か月分)の確定法人税額が20万円を超える法人は、半期(6か月)ごとに中間申告も行う必要があります。
中間申告の期限は、事業開始の日から6か月を経過した日から2か月以内となっており、この日までに申告と納税を完了する必要があります。
確定申告の仕方がわからないなどの場合には、税理士などの専門家に相談しましょう。

刑事告発

本事件では、法人税法違反で横浜地検に告発がなされています。
脱税の方法には種々ありますが、本件では、経費の架空計上によって、実際の経費より多い経費にみせかけ、所得を少なくして脱税をしていたと考えられます。
ここでいう告発とは、国税局が査察調査の結果、刑事罰を与える必要があると考えた場合に、検察庁に刑事裁判にかけること(起訴)を求めて訴え出ることです。
告発は、基本的に脱税をしてしまった人や会社が所在する地域を管轄する地方検察庁に対して行われます。
なお、告発の対象は、事例のように3年間に限定されているのが通常です。
告発を受けた検察庁は、その後刑事事件として捜査を開始します。
場合によっては、被疑者を逮捕して身体拘束をしながら取り調べなどを行います。
そして捜査が終われば起訴するか不起訴にするかを決定します。
国税局から告発を受けた事件で起訴される確率は約70%くらいといわれています。
起訴された場合には、刑事裁判が始まります。
多くの場合、法人の代表者等には執行猶予付きの判決が下されますが、両罰規定によって法人(会社)にも罰金が課される場合が多いようです。
罰金の額は、法人税や所得税の場合、脱税額の20~30パーセントであるのが通常であり、本事例では、約2900万円の法人税を免れたということから、600~900万円くらいの罰金額が予想されます。

刑事告発を受けたら

脱税事件によって刑事告発をされたら、すぐに弁護士に相談しましょう。
告発を受けた場合には刑事手続が開始されます。刑事事件に強い弁護士に依頼をすることで、逮捕を避けることが出来たり、不起訴を勝ち取れたり、刑事裁判の結果が軽くなる可能性が出てきます。

見積額を費用として計上することができるのか

2023-12-20
見積もり

完成工事原価の見積額を費用(損金)として計上した場合における問題について、事例を参考に、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。

1 事例


大阪府大阪市に本社を置く建設会社X社は、令和4年の確定申告において、令和4年に大阪市と契約をした公共工事(以下、「本件工事」といいます。)の完成工事原価見積額約1億円を、費用として計上しました。
X社は税務調査を受けることになりましたが、上記のことが不安で、担当者が、弁護士に相談することになりました。

2 完成工事原価の見積額を費用として計上することの可否


完成工事原価とは、請負工事契約に基づく工事の原価を意味し、請負による収益に対応する原価の額には、その請負の目的となった物の完成または役務の履行のために要した材料費、労務費、外注費および経費の額の合計額のほか、その受注または引渡しをするために直接要したすべての費用の額が含まれます。
通常、請負工事を発注する際、事前に、どれくらいの費用(これが完成工事原価)がかかるか見積もりを出します。
その上で、請負契約を締結しますが、実際に、工事が完成するのは、事業年度をまたぐこともあります。
そのような場合、当該事業年度の収益が大きいと、完成工事原価の見積額を費用として計上し、課税対象となる所得を減らせないかということが問題となります。
この点について、最判平成16年10月29日刑集58巻7号697頁は、売上原価等(ここに完成工事原価も含まれます)を構成する費用の額の全部または一部が事業年度終了の日までに確定していない場合、すなわち債務が未確定である場合にも、①近い将来に当該未確定の費用を支出することが相当程度の確実性をもって見込まれておりかつ②事業年度末日の現況によりその金額を適正に見積もることが可能であったという事情があるときには、収益と対応する売上原価等として損金算入することができるとしました。
仮にそうした事情が認められない場合には、法人税に違反するということになります。

3 税務調査等における弁護活動


X社としては、税務調査において、本件工事について、見積額を費用として計上していることが問題となった場合、まず、そうした見積額を費用として計上することができるか検討する必要があります。
その上で、費用計上できると判断される場合には、①近い将来に、その費用を支出することが相当程度確実であること、②事業年度末日の現況によりその金額を適正に見積もることが可能であったことを説明していくことになります。
具体的には、契約に至った経緯や契約内容、工事の進捗状況等を説明したり、見積もりの算定根拠を、資料に基づき説明していったりすることが考えられます。
一方で、本件工事に関する見積額を費用として計上することが認められないと判断される場合には、早期に修正申告をすることが考えられます。
税務調査などにおける説明や修正申告については、基本的に税理士が行っていくことになりますが、法的な判断が必要になりますので、弁護士のアドバイスのもと、上記のような対応をしていく必要性はあります。
また、その他にも法人税法違反があるなどして、刑事事件化した場合においては、弁護士が対応する必要があります。
その際には、脱税事件や税金関係に強い弁護士のサポートが不可欠ともいえます。

4 最後に


弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、脱税事件に強い弁護士が所属し、法人税法違反など多数の事件を取り扱っています。法人税法違反の疑いがあるとして税務調査を受けた方は、初回の相談は無料ですので、お気軽にお問い合わせください。

収賄罪と課税

2023-11-29
収賄

収賄した金銭は課税対象となるでしょうか?犯罪行為によって得た利益に対する課税について弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。※併せてこちらもご覧ください(業務上横領と課税

事例

国会議員であるAさんは、職務に関し、長年の友人である個人事業主Bさんから、2000万円の金銭を受け取りました。Aさんは、この金を遊興費等に費消しましたが、賄賂だと思っていたお金なので確定申告はしませんでした。
(フィクションです)

解説

Aさんについては、職務に関して金銭を受けとっていますので、少なくとも単純収賄罪(刑法197条1項前段)が成立します。

収賄した金銭は、所得税の課税対象となるか

収賄した金銭が不法な原因による利得であることは疑いありません。もっとも、この点について、所得税基本通達36-1は、「法第36条1項に規定する『収入金額とすべき金額』又は『総収入金額に算入すべき金額』は、その収入の基因となった行為が適法であるかどうかを問わない」と規定しています。
したがって、本件のAさんが収賄によって得た金銭についても原則として所得税が課税されることになります。
ただ、ここで「原則として」課税されると述べた趣旨は、汚職の罪については、刑法197条の5により、「収受した賄賂はこれを没収する。その全部又は一部を没収することができないときは、その価額を追徴する。」と規定されていますので、本件が刑事事件になっており、近く有罪判決を受け、没収追徴を受ける見込みがある場合には、せっかく課税しても、没収追徴のときに課税を取り消す必要がある関係上、例外的に判決まで課税を保留することが行われることがあるからです。

一時所得か雑所得か

次にAさんが収賄によって得た利益が、「一時所得」なのか「雑所得」なのかが、問題となります。
この点、所得税法34条1項は、一時所得について、「一時所得とは、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得及び譲渡所得以外の所得のうち、営利を目的とする継続的所得から生じた所得以外の一時の所得で労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないものをいう。」と規定しています。そして、同法35条1項は、雑所得について、「雑所得とは、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得及び一時所得のいずれにも該当しない所得をいう。」と規定しています。
そうすると、収賄した金銭は、「職務に対して収受した賄賂」と解されますから、税法上は、役務の対価といえ雑所得として課税されるものと考えられます。
雑所得の場合、課税所得金額は、雑所得の金額-必要経費=雑所得の課税所得金額という計算式で求めます。
本件のAさんの場合、2000万円-0円=2000万円となり、Bさんから受け取った2000万円全額が課税所得金額となります。1800万円を超え4000万円以下の所得税の税率は40%、控除額は279万6000円です。
そのため、Aさんに課税される所得額は、2000万円×0.4-279万6000円=520万4000円となります。

Aさんは今後どうなるか

Aさんは、収賄しているため、このことが警察などの捜査機関に発覚すれば、収賄罪の被疑者として逮捕され取り調べを受けたり、刑事裁判で有罪の判決を受けて前科が付く可能性があります。
このこととは別に、Aさんには収賄によって得た利益について確定申告をしていないので、税金の問題があり、無申告又過少申告についてのペナルティを別途受ける可能性があります。
確定申告期限内に一切の所得について確定申告がなされていなかった場合には無申告加算税、一部だけしか確定申告をしていなかった場合には、過少申告加算税がペナルティとして課されます。
また、仮装隠ぺいなど悪質性が高いと判断された場合には、無申告加算税又は過少申告加算税に代えて重加算税が課せられます。
さらに、納税が遅れると、その期間に応じた「延滞税」の支払いが求められます。
なお、Bさんについては、贈賄罪(刑法198条)が成立しますが、所得税法45条2項には、賄賂として支出した金額は、不動産所得、事業所得、山林所得又は雑所得の金額の計算上必要経費に算入されないと明文で規定されており、贈賄を行った者も、前科が付く可能性とともに、税金の問題があることに注意する必要があります。

まとめ

Aさんのように犯罪によって得られた利益も課税対象になりますので、確定申告をしていなければ、収賄の罪とは別に所得税法違反など税法違反の罪にも問われてしまう可能性があります。
そのため、犯罪行為によって利益を得ている場合には、その犯罪だけではなく税金の問題についても考慮しておく必要があります。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、刑事事件を中心として扱っていますが、税法についても知識のある弁護士がそろっています。
初回の相談は無料ですので、一度ご相談にお越しください。

【ニュース解説】東京国税局がフォートナイト運営企業に税務調査し約35億円の追徴課税

2023-11-15
追徴課税

フォートナイトを運営する企業に対し、東京国税局が税務調査を実施し、追徴課税を課したというニュースについて、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。

【ニュースの内容】

 東京国税局は,人気ゲームを配信するアメリカノースカロライナ州に本社のある企業で世界各地に40以上のオフィスがある企業に対し,その海外子会社に税務調査を執行した。
 その結果,同国税局は,同子会社が2020年12月までの3年間で約30億円の申告漏れをしていたことを発見して指摘した。

 申告漏れの内容は,同社の配信するオンラインゲームで,日本人ユーザーが支払った,同ゲームのアイテム購入代金などの一部に係る消費税が計上されていなかったというもの。
 追徴税額は,過少申告加算税を含めると,約35億円となるという。

 関連ニュース記事(令和5年11月1日付YAHOOニュース「課金収入300億円申告計上せず フォートナイト会社に35億円追徴 東京国税局」)

【フォートナイトとはどんなゲーム】
 


 ゲームは,スマートフォン,パソコン,ゲーム専用端末などどれでもでプレイできる。プレイヤーは,銃を中心とした武器をゲーム内キャラクターに持たせて,これをプレイヤーが操作してゆき,現れてくる敵キャラクターを武器を使って倒すというゲーム。
 世界中で数億人のユーザー(プレイヤー)がいるとされている超人気ゲームだ。
 この種のオンラインゲームは,キャラクターの能力向上やプレイ時間短縮のため課金されることが多いが,フォートナイトでは,キャラクターやその装備品の見た目を変えるといったゲームのプレイ自体とは直接関係しない品物(アイテム)が主な課金の対象とされているという。
 日本には,大人から子供達を含め幅広いファンがいるという。

【課税の対象】

 ゲームは,基本的に無料で配信されているが,上記のようにゲーム内で使えるアイテムを購入した際には課金される。
 東京国税局は,同社のルクセンブルクにある子会社が,日本に向けて「フォートナイト」を配信して課金していることを把握して税務調査を開始した。その結果,課金収入約300億円について,前記子会社に消費税の申告納税義務があるのに申告に計上されていないとして約30億円の申告漏れを指摘したという。

【親会社のコメント】

 親会社は,取材に対し,「日本の税務当局による定期的な調査の中で,弊社側の不注意により一部の消費税が未払いの状態にあることを認識できました。東京国税局の指摘を受けてすでに税の納付をしました。」とコメントした。(関連記事:令和5年11月1日付日本経済新聞「フォートナイト開発元、ゲーム課金巡り消費税35億円追徴」)

【海外の会社まで追及して逃げ得を許さない,国税当局のすごさ】

 今回,税務調査により,人気オンラインゲームをめぐりその配信会社に対して,高額の申告漏れを特定するに至った。東京国税局は,海外にいる親会社側の担当者に対し,web会議で面談するなどして効率的に調査を進め,比較的短期間で修正申告に至ったとみられる。
 この点について,元国税庁国際業務課のOBによれば「企業のコンプライアンスの重視は,国際的風潮であり,世界的な有名企業であれば,脱税によるイメージダウンは避けたいはずである。税務調査担当者は,その弱みをうまく突き,協力的姿勢を引き出したのではないか。web会議で面談するのも調査手法の新たな向上だ。」と話す。
 国税庁は,世界各国の税務当局と租税条約に基づいて情報交換をしており,日本と関係する海外企業の資金の流れについても注視している。ただ,海外企業の税務調査は,地理的遠隔,使用言語の壁といった国内企業に対するそれとは格段の困難を伴う。今回のような数十億円規模の追徴課税は異例であり,国税当局の面目躍如だ。
  

【今後の動向】

 オンラインゲーム,アプリ,音楽の配信などのインターネット上のサービスは急速に拡大している。日本の総務省の情報通信白書によると,モバイル端末向けアプリの売上高は2024年に387億ドルとなる見込みであり,2015年の5倍超になると予想されている。
 東京国税局は,2017年海外に拠点を置くゲームアプリの開発・配信業者に着目して消費税を申告していない約数百社をリストアップし,このうち日本での売上高が多いと見込まれる会社に絞って納税義務があることを通知する文書を送付して啓蒙した。しかし,その反応は芳しくなかった。
 国は,納税義務を果たさない海外事業者の「逃げ得」を許さないため,2021年度の税制改正でその事業者と取引のあるプラットフォーム運営事業者などを「特定納税管理人」に指定できることを定めた。これは国税当局と納税者間の書類授受を「特定納税管理人」に担わせる仕組みであり,税務調査の端緒を付けたものとして大きい。国税幹部は,「海外当局と連携し,売上高の大きな事業者を中心に粘り強く対応する。」と話しており,税徴収の公正,適正な実現に注力することを明らかにしており,世界規模の自主申告の適正化が図られている。
 今後もその動向に注目し,海外事業者のコンプライアンス遵守が実現されることが望まれる。

業務上横領と課税

2023-11-01

業務上横領によって得た利益についても課税対象となるでしょうか?犯罪行為によって得た利益に対する課税について弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。

事例

福岡県福岡市にある会社で経理を担当していたAさんは、会社のために保管していた現金を着服し、1年間で合計4500万円ほど横領していました。
会社の売り上げと決算書の内容に不審な点があることから、会社に福岡国税局資料調査課から税務調査が入り、Aさんの業務上横領が発覚しました。
今後のことが不安になったAさんは弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所の無料相談を利用することにしました。
(フィクションです)

解説

業務上横領によって得た利益は所得税の課税対象となるか

業務上横領によって得た利益は、違法な行為によって得た利益といえるため、所得と言えるでしょうか。
この点について、所得税基本通達36-1は、「法第36条1項に規定する『収入金額とすべき金額』又は『総収入金額に算入すべき金額』は、その収入の基因となった行為が適法であるかどうかを問わない」と規定しています。
したがって、本件のAさんが業務上横領によって得た利益についても所得として確定申告をする必要があるということになります。

一時所得か雑所得か

次にAさんが業務上横領によって得た利益が、「一時所得」なのか「雑所得」なのかが、税額を計算するベースとなる「課税所得金額」に大きな差がでるため問題となります。

①一時所得の場合
(一時所得の金額-必要経費-特別控除額)×2分の1=一時所得の課税所得金額
という計算式で求めます。
本件のAさんの場合、(4500万-0円-50万)÷2=2225万円となり、2225万円が一時所得の課税所得金額となります。
※一時所得の金額から経費を差し引いた金額が50万円以上の場合、特別控除額は50万円
Aさんに他に収入がない場合には、総所得金額も2225万円となるため、所得税の税率は40%となります。
また、この場合の所得税の控除額は279万6000円です。
そのため、Aさんに課税される所得税は2225万×0.4-279万6000円=610万4000円となります。

②雑所得の場合
雑所得の金額-必要経費=雑所得の課税所得金額
という計算式で求めます。
本件のAさんの場合、4500万-0円=4500万円となり、4500万円が課税所得金額となります。
4000万円を超えている場合の所得税の税率は45%控除額は479万6000円です。
そのため、Aさんに課税される所得税は4500万×0.45-479万6000円=1545万4000円となります。

このように、一時所得か雑所得かでは、所得税の額に2倍以上の差が出てしまうことになります。
では、本件のAさんの場合には一時所得と雑所得のいずれに当たる可能性が高いでしょうか。
この点について、最高裁は「所得税法上、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得および譲渡所得以外の所得で、営利を目的とする継続的行為から生じた所得は、一時所得ではなく雑所得に区分されるところ、営利を目的とする継続的行為から生じた所得であるか否かは、文理に照らし、行為の期間、回数、頻度その他の態様、利益発生の規模、期間その他の状況等の事情を総合考慮して判断するのが相当である」と判示しています(最判平成29年12月15日)。
そのため、一時所得か雑所得かの区別は、ほかの8種類の所得に当たらないことを前提として、「営利を目的とする継続的行為から生じた所得」といえるか否かが主な基準となっているということができるでしょう。
本件のAさんの場合には、1度に4500万円を着服したのであれば、継続的行為とは明らかにいえないので、一時所得に当たるということになるでしょう。
一方、何回かに分けて着服していた場合には、行為の期間や回数、頻度そのほかの態様など判例が示している考慮要素をもとに判断していくことになり、一概にどちらに当たるということは難しいといえます。

一時所得に当たるのか否かについては、このように様々な考慮要素をもとに判断していくことになるため、一度専門家に相談してみるのがよいでしょう。

Aさんは今後どうなるか

Aさんは、会社のお金を業務上横領しているため、会社が警察などの捜査機関に被害届の提出や告訴をすれば、業務上横領の被疑者として取り調べを受けたり、刑事裁判で有罪の判決を受けて前科が付く可能性があります。
業務上横領の金額が多額ですので、会社と示談ができなければ実刑となる可能性が高いといえるでしょう。
一方、会社が被害届の提出など刑事事件化をしなかったとしても、会社から業務上横領によって失われた利益を返還するよう、損害賠償請求をされる可能性もあります。

このような会社との関係とは別に、Aさんは業務上横領によって得た利益について確定申告をしていないはずなので、無申告又過少申告についてのペナルティを別途受ける可能性があります。
確定申告期限内に一切の所得について確定申告がなされていなかった場合には無申告加算税、一部だけしか確定申告をしていなかった場合には、過少申告加算税がペナルティとして課されます。
また、仮装隠ぺいなど悪質性が高いと判断された場合には、無申告加算税又は過少申告加算税に代えて重加算税が課せられます。
さらに、納税が遅れると、その期間に応じた「延滞税」の支払いが求められます。

このほか、Aさんの場合には、税務調査が入っていますが、悪質性が高かったり脱税額が巨額になる場合には、査察調査に発展することもあります。
査察調査は財務調査と違い、強制的に調査をすることができ、最終的には刑事告発に至る場合が少なくありません。実際、査察調査から刑事告発される割合は約70%と言われています。

まとめ

Aさんのように犯罪によって得られた利益も課税対象になりますので、確定申告をしていなければ、業務上横領の罪とは別に所得税法違反など税法違反の罪にも問われてしまう可能性があります。
そのため、犯罪行為によって利益を得ている場合には、その犯罪だけではなく税金の問題についても考慮しておく必要があります。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、刑事事件を中心として扱っていますが、税法についても知識のある弁護士がそろっています。
初回の相談は無料ですので、一度ご相談にお越しください。

【裁判例解説】「偽りその他不正の行為」を行ったとは認められないとして無罪

2023-07-12

「偽りその他不正の行為」を行ったとは認められないとして無罪となった事件について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。

事案の概要

「夫が死亡したことによって全財産を相続したAが相続税を免れようと企て、相続財産から預貯金、株式等を除外する方法により相続税賦課額を減少させ、過少な金額を記載した内容虚偽の相続税申告書を提出し、もって不正の行為により、正規の相続税額との差額1億4090万円の税を免れた」として相続税法違反で起訴された事件

神戸地方裁判所が平成26年1月17日に宣告した判決では、Aの供述の信用性を肯定し、Aが「偽りその他不正の行為」を行ったとは認められないとして無罪となっています。
なお、同事件では検察官が控訴をし、控訴審ではAの供述の信用性が否定され、Aは逆転有罪となって、懲役1年6月執行猶予3年及び罰金2800万円が言い渡されています。

「偽りその他不正の行為」の意義

神戸地方裁判所の判決によれば、最高裁昭和42年11月8日大法廷判決により示されている「『偽りその他不正の行為』とは、逋脱の意図をもって、その手段として税の賦課徴収を不能もしくは著しく困難ならしめるような何らかの偽計その他の工作をいう」との解釈を引用し、これを本件のような過少申告事案にあてはめると、「(過少申告逋脱罪の成立には、)単に過少申告があったというだけでは足りず、税を不正に免れようとの意図(逋脱の意図)に基づき、その手段として、申告書に記載された課税物件が法令上のそれを満たさないものであると認識しながら、あえて過少な申告を行うことを要し、反対に、行為者が、そのような意図に基づかず、例えば不注意や事実の誤認、法令に関する不知や誤解などの理由によって過少申告を行った場合には、『偽りその他不正の行為』にはあたらないと解するのが相当である。」と述べています。

本判決の意味

逋脱罪が成立するために必要な「偽りその他不正の行為」という要件について、
税を不正に免れようとの意図(逋脱の意図)
不法な過少な申告であることの認識
過少申告の事実
の3つが必要としていると整理することができます。

逋脱罪の成立に関する故意の内容について、①及び②を必要としている点が重要なポイントとなります。
主観的な要素について、未必的な認識では足りず、確定的な認識が必要と考えているということができ、その意味で検察官が逋脱犯の立証をする上でハードルが高くなったといえるでしょう。

逋脱犯の弁護活動

この判決は、控訴審で逆転有罪となっていますが、控訴審では「偽りその他不正の行為」の意義について第一審判決の解釈を否定したわけではなく、Aの供述の信用性を安易に肯定して間違った事実を認定していることが問題視され、Aには確定的故意があったとして有罪となっています。
そのため、故意の内容として「偽りその他不正の行為」の認識がなかったという主張は、それが信用されれば無罪が勝ち取れる可能性があるということです。
供述の信用性の判断には、客観的証拠との一致だけではなく、税務調査や捜査における供述と変遷がないか、一貫しているかという点なども考慮されます。
ですので、調査や捜査の段階でどのように供述していくのかもしっかりと検討して臨む必要があります。
脱税を疑われた場合には、早急に専門家に相談し、適切なアドバイスをもらいましょう。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、初回相談は無料ですので、ご不安がある方は一度ご相談ください。

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