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所得税法違反による脱税で実刑判決となった事例③

2025-07-30
実刑

所得税法違反で実刑判決を受けた事例を紹介するとともに、実刑判決を避けるためにはどうしたらよいかを弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説していきます。全3回のうち、最終回の今回は、実刑判決を避けるためにはどうすればよいのかを中心に解説します。

実刑判決を避けるために重要な「反省」と「納税」

これまで紹介してきた事例から明らかなように、たとえ所得税の無申告・過少申告による脱税であっても、悪質性が高ければ実刑判決が現実のものとなります。
では、逮捕・起訴されてしまった後に実刑を避ける余地はあるのでしょうか。
絶対ではありませんが、裁判で情状が考慮され執行猶予付き判決(実刑回避)となるためには、以下の点が重視されます。

①速やかな納税措置
起訴後でも遅すぎることはありません。可能な限り早く修正申告を行い、免れた税額や加算税の納付に努めることが肝要です。
実際に、ある事件では被告人が脱税分と重加算税を既に納付済みであることが考慮され、懲役刑に執行猶予が付されたケースもあります。
納税義務の履行は反省の具体的な証左として評価されやすく、「社会復帰後も更生して納税を続ける意思あり」と裁判官に示す効果があります。

②深い反省と再発防止の誓約
被告人自身が犯行を認めているか、法廷でどれだけ真摯に謝罪・反省を述べるかも重要です。
脱税額が高額でも全額を納付し関与を認めて猛省していると裁判所が判断すれば、執行猶予を付して更生の機会を与えることがあります。
逆に「バレないと思った」「他にもやっている人がいる」などと言い訳したり反省が見られなかったりすれば、裁判官の心証は悪化し実刑可能性が高まります。

③初犯かつ社会的更生状況
前科がない初犯であること、家族や雇用主など周囲からの支援が期待でき、更生環境が整っていることも情状として有利に働きます。
一般的に前科がなく反省している初犯者は執行猶予となる場合が多い傾向です。
ただし再犯者や、過去に税務署の指摘で修正申告をしたのにまた隠ぺいを繰り返したようなケース(事例①のように前科猶予中の再犯)は極めて厳しく扱われ、執行猶予は期待しにくくなります
また、脱税に関する前科ではなく、たとえば薬物に関する前科などであったとしても、初犯の方に比べると厳しい判断が出やすくなります。
さらに、すでに前科の執行猶予が満了しており、かつ、起訴をされた脱税の期間には含まれていなかったとしても、前科の執行猶予中から脱税行為に手を染めていたという内容が裁判で明らかになった場合には、かなり厳しく判断されることになります。
実際に、弊所で担当した脱税事件では、起訴されたのは直近3年間の脱税でしたが、薬物前科執行猶予中であった6年前にも脱税行為に手を染めていたということが考慮されて、実刑判決を受けた事案があります。この事案では、前科がなければ執行猶予が付けられてもおかしくはありませんでした。
弁護活動としては、上記の点を踏まえて被告人の反省文提出、税務当局との交渉による納税の実施、再発防止策の準備(税理士をつけ修正申告や納税をする誓約等)、家族の監督誓約書の提出などが考えられます。
実際、裁判例を見ても脱税額そのものだけでなく「犯行後にどう対応したか」が量刑に反映されています。巧妙な無申告による所得隠しであっても追徴税を完納したことで執行猶予となっている例もあります。

まとめ

無申告・過少申告による脱税は、「うっかりミス」では済まされない重大な犯罪です。
判決年月日や裁判所名は異なれど、紹介した事例はいずれも悪質な税逃れに対し裁判所が毅然とした態度で臨んだものです。
逮捕された被疑者本人やご家族にとっては大変な精神的負担でしょうが、まずは事実関係を認めた上で専門家(弁護士・税理士)の力を借り、一日も早く適正な納税と再発防止策を講じることが肝要です。
それが結果的に情状酌量につながり、執行猶予獲得や刑の減軽につながる可能性があります。
判決が出るまでのプロセスは苦難ですが、適切な対応次第でその後の人生を立て直す余地は残されています。
「逃れ得た税より失うものの方が大きい」――本記事の事例が示す教訓を胸に、真摯な反省と更生への努力を続けることが何より重要です。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、所得税法違反で告発された方など、刑事裁判になりそうで不安な方の相談を随時受け付けています。
初回のご相談は無料ですので、不安な方は一度弊所までお電話下さい。

所得税法違反による脱税で実刑判決となった事例②

2025-07-23
実刑

所得税法違反で実刑判決を受けた事例を紹介するとともに、実刑判決を避けるためにはどうしたらよいかを弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説していきます。全3回のうち、2回目の今回は、実刑判決になった事例や実刑と執行猶予を分ける基準となるような事例について紹介します。

事例②: ネット販売収入を無申告 – 虚偽の住民登録で所在隠し

大阪地方裁判所 令和2年9月14日判決(第6刑事部)は、インターネット上の物品販売業で得た事業所得を申告せず脱税した被告に対し、懲役1年および罰金800万円の判決を言い渡しました。
被告人は個人事業主(ネット通販業者)で、売上を無申告のまま所得税を免れただけでなく、居住地を偽装する目的で虚偽の住民登録まで行っていました。
確定申告を一切せず所在をくらますこの手口により、納税義務の追及を長期間逃れようとした悪質性が認定されています。
裁判所は「納税者としての規範意識が極めて低く、計画的かつ悪質」と断じていますが、被告人に前科がないこと、加算税を含めた全額の納税を終えていることを考慮され、執行猶予が付されています。
なお、判決では罰金不納の場合の労役場留置(罰金未納により労役場で服役する期間)についても言及されており、経済的にも厳しい姿勢が示されています。
被告人の職業はネット通販業で比較的若年の個人事業者と推測されますが、裁判所は「申告納税制度の根幹を揺るがす犯行」として強い非難を表明しています。

事例③: 巨額の所得隠し – 銀座ビルオーナーに懲役4年

脱税額が桁違いに大きい場合、初犯でも実刑が避けられないことがあります。
その典型例が、東京地方裁判所 平成30年11月20日判決で有罪となった東京・銀座のビルオーナーの事件です。
被告人(当時86歳)は繁華街ビルのオーナー収入などで約10億6000万円もの所得を隠し、法人税法違反の罪に問われました(※個人オーナーでしたが、ビル収入を管理する法人を通じて納税を免れた可能性があります)。
裁判所は「極めて巧妙かつ長期にわたる犯行で、悪質性が顕著」として、被告人に対し懲役4年および罰金2億4000万円の実刑判決を宣告しました(検察の求刑は懲役5年・罰金3億円)
この量刑は近年の所得税・法人税ほ脱事案としては最長クラスであり、被告人が高齢であったにもかかわらず実刑が選択された点で注目されます。
判決理由では、「被告人はビル収益の大半を申告せず、架空の経費計上など巧みな手段で巨額の税負担を免れてきた。その犯情の悪質さは強い非難に値し、社会的影響も看過できない」と指摘されました。
被告人は高齢ゆえ体調面を酌む余地もあり得ましたが、それ以上に10億円超という脱税規模と納税義務軽視の態度が重視され、実刑は避けられませんでした。
なお、この事件では法人名義での犯行でしたが、実質的経営者である被告人個人に懲役刑が科されています。
被告人はビル経営以外にも資産家として多額の収入があったと見られますが、公判では明確な弁解はなく、最終的に追徴課税分も含め莫大な納税を迫られることになりました。
家族にとっても資産差押え等の経済的影響は免れず、社会的信用の失墜という代償も非常に大きい事例です。

事例④: 架空経費で所得圧縮 – ブリーダー親子に有罪判決(執行猶予付き)

実刑判決の例ではありませんが、悪質な所得隠し手口として参考になるのが、ペットブリーダー業を営む親子による脱税事件です。
こちらは新潟地方裁判所 令和4年10月7日判決(報道発表日ベース)で、親子それぞれに有罪判決が言い渡されています。
被告人は父(ブリーダー経営者)と娘(事業手伝い)で、コロナ禍のペットブームに乗って売上が急増したにもかかわらず、その所得約1億6000万円を意図的に申告せず、犬猫の餌代を架空計上するなどの方法で経費を水増しし、結果的に約6100万円もの所得税を免れたとされています。
国税当局の査察により告発され、両被告は逮捕・起訴されました。
その後の裁判で、新潟地裁は父親に懲役1年・執行猶予3年・罰金1500万円、娘に懲役10か月・執行猶予3年(罰金なし)という判決を言い渡しています。
判決理由では、親子が役割を分担し組織的に脱税の指示と実行を行った点、コロナ禍の特需による利益をほぼ丸ごと隠ぺいした点などから「刑事責任は重い」と指摘されています。
「餌代の架空計上」という手口は比較的単純ながら巧妙で、売上規模の拡大に比例して脱税額も巨額となった悪質な事案でした。
しかし本件では、執行猶予が付されています。
考えられる理由として、両被告人が起訴事実を大筋で認め反省の態度を示したこと、起訴後にある程度の修正申告や追納の意思を示した可能性、そして前科がなかった点が挙げられます。
実際、裁判官は「脱税額は甚大で強い非難に値する」としつつも、高齢の父親が初犯であること、娘も従属的立場だったこと、そして何より犯行を認めていることを考慮し、両名に対する実刑は避けました(いずれも執行猶予3年)。
このように、脱税額が1億円未満規模でも刑事告発・有罪判決に至ること、また執行猶予付きとはいえ経営者本人に懲役刑と高額の罰金が科され社会的制裁を受けることがお分かりいただけるでしょう。
被告人らの職業は中小規模のブリーダー経営者とその家族従業員であり、「自分たちは大企業ではないから大丈夫」という油断があったのかもしれません。
しかし結果的に信用を失い、多額の追徴課税(重加算税含む)や罰金支払いに追われることになりました。

~次回は、実刑判決を避けるためにはどうすればいいのかなどについて解説します~

所得税法違反による脱税で実刑判決となった事例①

2025-07-16
実刑

所得税法違反で実刑判決を受けた事例を紹介するとともに、実刑判決を避けるためにはどうしたらよいかを弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説していきます。3回に分けて解説していきますので、第1回の今回は所得税法違反の概要と実刑判決に至るポイントを解説します。

所得税法違反の概要

所得税の申告を意図的にせず税金を免れる行為(無申告ほ脱)や、虚偽の申告で所得を少なく見せる行為(過少申告ほ脱)は犯罪であり、悪質な場合には懲役刑(実刑)が科されることがあります。
近年は、自営業者や副業収入を得る個人による所得隠しも増えており、「自分は大丈夫」と油断していると刑事告発・起訴されるケースも少なくありません。
実際、令和5年度(2023年)には脱税事件の有罪判決83件中9件で実刑判決が言い渡されており、実刑となった場合の懲役期間は平均1年3か月(15.6か月)、中には懲役4年の重い判決が下った例もあります。
以下、無申告または過少申告による脱税で実刑に至った主な事例を、判決年月日・裁判所、脱税額、手口の悪質性、判決内容、被告人の属性、反省状況などに着目して紹介します。

脱税で実刑判決に至るポイント(悪質性と量刑の傾向)

脱税事件の量刑は、単純な申告漏れ(過失)か意図的な所得隠し(故意犯)かで大きく異なります。
意図的な脱税が明らかになると、国税局査察部(マルサ)による強制調査を経て検察庁に告発され、刑事裁判で懲役刑・罰金刑が科されることになります。
所得税法では、偽の領収証を用いるなど不正行為による脱税(ほ脱罪)に「10年以下の懲役または1000万円以下の罰金(併科も可)」を、単なる無申告でも故意に納税を免れた場合(単純無申告ほ脱)に「5年以下の懲役または500万円以下の罰金」を科すと規定しています。
初犯か再犯か、脱税額や手口の巧妙さ、犯行期間、さらには犯行後の対応(修正申告や納税、反省の態度など)によって、執行猶予付き判決になるか実刑(猶予なし)となるかが左右されます。
一般に、脱税額が巨額であったり、長年にわたる計画的な犯行、偽装工作(架空経費の計上や名義口座の利用など)が認められると「悪質性が高い」と判断され、起訴後の対応によっては実刑判決が選択されます。
特に過去に税務指摘を受けても改善せず繰り返した場合や、税理士など専門家ぐるみの組織的犯行では厳罰が下りやすい傾向があります。
一方で、起訴後に速やかに修正申告を行い、脱税分の納税(本税や重加算税)を完納または一部納付した場合や、犯行を認め深く反省している場合には、裁判所が情状を考慮し執行猶予を付すケースも少なくありません。
以下の事例でも、各被告人の悪質性と情状が量刑に大きく影響している点に注目してください。

事例①: FX取引利益を無申告 – 前科執行猶予中の再犯で懲役刑

近年話題となったのが、FX(外国為替証拠金取引)による利益を無申告のまま隠し続け、実刑判決に至ったケースです。
令和4年度の国税庁「査察の概要」にも掲載された事例で、被告人は過去に所得税法違反で有罪(執行猶予付き)となったにもかかわらず、執行猶予期間中に再び多数の他人名義口座でFX取引を行い、その利益について一度も確定申告書を提出しませんでした。
こうした悪質な常習犯である点が重視され、国税当局は告発を決断。裁判所も「所得税の申告納税制度を軽視し、極めて悪質」と判断し、懲役1年4か月の実刑判決を言い渡しました(※罰金刑も併科)。
判決年月日や管轄裁判所は公表資料では明示されていませんが、本件は令和4年中に地裁レベルで言い渡されたものです。
被告人は個人投資家(副業的にFX取引を行っていた者)と思われ、前科がありながら犯行を繰り返した点に強い非難が集まりました。
なお、犯行態様も極めて巧妙で、数十もの口座を使った所得秘匿工作は「偽りその他不正の行為」にあたる悪質性が高い事案といえます。判決においては、被告人に有利な情状はほとんど認められず、執行猶予は付与されませんでした。

~次回は実刑判決になった事例などを紹介します~

法人税脱税事件の実刑判決事例紹介

2025-05-28
実刑

日本では脱税事件の有罪率は極めて高いものの、多くは執行猶予付き判決にとどまり、実刑(執行猶予なしの懲役刑)が言い渡されるのは脱税額が巨額であったり常習性がある場合です。法人税に関する脱税で実刑判決に至った代表的な事例を、概要と判決内容・量刑理由とともに紹介します。

銀座「丸源ビル」オーナーによる10億円超の法人税脱税事件(2018年)

事件概要: かつて「銀座の不動産王」と呼ばれた「丸源ビル」オーナーは、自身が社長を務めていたビル管理会社のテナント賃貸収入の一部を除外する手口で、2011~2013年の3年間に計約35億円の所得を隠し、法人税約10億6000万円を免れたとして起訴されました。被告人は初公判で全面否認し、公判中に弁護団を何度も交代するなど長期裁判となりました。

判決内容: 東京地方裁判所は被告人に対し懲役4年及び罰金2億4000万円の実刑判決を言い渡しました(求刑は懲役5年・罰金3億円)。判決理由で裁判長は、「脱税規模は極めて大きく、所得隠しの手口も巧妙。被告は売上や経費を自身の思うままに操作し、納税義務をないがしろにした」と被告人の犯行態度を厳しく非難しました。巨額かつ悪質な脱税であること、起訴後も反省や納税が見られなかったことが実刑・長期懲役の主因となりました。

税理士による法人税脱税ほう助事件(2020年)

事件概要: 税理士で会社社長の被告人は、首都圏の2社が所得隠しを行って法人税の納付を免れた際、その事実を知りながら自らの管理する会社名義の口座に架空名目の資金を入金させる方法で脱税を手助けしました。具体的には、2社が計上した架空の雑損失や不動産手数料の支払いを装って、被告人の会社口座に資金を迂回入金させることで、両社の所得隠しを容易にしていたとされます。被告人は過去にも同様の法人税法違反ほう助で有罪判決(執行猶予付き)を受けており、その執行猶予期間中に再び本件犯行に及んでいました。

判決内容: 東京地方裁判所で判決が言い渡され、被告人に懲役10か月および罰金800万円の刑が科されました。全国で初めて法人税法違反のほう助犯に対して実刑判決が出たケースでもあります。量刑理由としては、過去の前科があり執行猶予中の再犯だった悪質性が決定的でした。裁判所は「一度有罪判決を受けながら再び脱税ほう助に及んだ点は看過できない」として、再犯抑止の観点から実刑が相当と判断したものとみられます。

まとめ

国税庁の公表データによれば、近年の脱税事件で実刑判決にまで至るケースは毎年数件程度です。例えば令和5年度中に一審判決があった脱税事件83件では、うち9人(約11%)が実刑判決を受けています。実刑となる懲役期間の平均は約16ヶ月で、最長は前述の銀座ビルオーナー事件の懲役4年でした。一般に「ほ脱額が合計3億円を超える場合には、全額納付していても実刑判決となる場合が多い」とも言われており、巨額・悪質な脱税には厳罰が科される傾向があります。実刑判決が確定すればただちに服役が必要となり、執行猶予付き判決と比べて社会的制裁も一層深刻なものとなります。 脱税を疑われた場合には、早期に弁護士に相談し、実刑判決という重い判決を受けることがないように活動してもらいましょう。

法人税脱税手口の傾向と分析

2025-04-30
告発

前回まで東京国税局が法人税法違反で告発した事例を過去10年間分見てきましたが、今回はそこから見えてくる脱税の手口と傾向について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。

脱税の手口

過去10年の告発事例を通じて、脱税の手口は概ね「売上の除外(収入隠し)」と「架空経費・架空原価の計上」に大別できます。建設業や不動産業では下請代金の循環取引や架空発注による原価水増し、IT・サービス業では架空外注費の計上による利益圧縮が典型です。現金商売の業種(クラブ、飲食店など)では売上の一部を現金でプールして申告しない手口も根強く、実際「鬼滅の刃」制作会社の事件ではカフェ売上を金庫に隠匿する古典的手法で多額の所得を隠していました。

告発が多い業種

業種的には、不正が発覚・告発された件数が多いのは不動産業、建設業、クラブ・バー経営などで、2015年度の全国データでも「建設業15件」「不動産業12件」「クラブ・バー7件」が上位を占めました。東京国税局管内でも不動産・建設関連の告発が目立ち、土地取引や受注工事を巡る所得隠しが後を絶たない状況です。一方で近年はIT企業やコンテンツ産業(アニメ制作会社など)も告発事例が散見され、脱税の摘発対象が新分野にも広がっていることがわかります。

脱税額の規模

脱税額の規模について見ると、1件あたりの脱税額は平均で数千万円から1億円程度です。平成27年度には全国平均で約9,700万円(告発分)でしたが、その後若干減少しつつも、おおむね1件あたり1億円前後で推移しています。東京国税局管内では令和4年度の告発事案1件あたり脱税額が9,100万円と全国平均(8,800万円)よりやや高く、首都圏ゆえに金額の大きな悪質事例が多いことを示唆します。実際にここ数年でも脱税額1億円超の案件が複数摘発されており、金額規模の大きな脱税への査察強化がうかがえます。

処分の状況

処分の状況については、東京国税局査察部が告発に踏み切るのは悪質かつ多額の事案に限られるため、告発後は原則起訴(刑事裁判)されています。令和元年度のデータでは告発案件の起訴率は約85%に達し、起訴された場合の有罪率はほぼ100%(執行猶予付き判決を含め、全件有罪)となっています。実刑判決が出るケースもあり、例えば平成27年度に一審判決があった133件のうち2件では実刑判決(懲役刑)が科されています。悪質な法人税ほ脱に厳しい姿勢です。不起訴となるケースは極めて珍しく、東京国税局では1991年以降ほとんど例がありません。

総括

総じて、この10年間で東京国税局管内の法人税法違反による告発事例は「伝統的な手口による脱税の摘発」が中心ですが、告発件数は景気動向や社会状況で増減しつつも概ね毎年数十件規模で推移しています。不動産・建設業等の常連業種に加え、新興業種にもメスが入る傾向が見られ、脱税手口もより巧妙化・多様化していると言えます。しかし、国税当局も近年は消費税の不正還付や国際的租税回避スキームなど時流に即した重点分野に対して調査を強化しており、悪質なほ脱には継続して刑事告発を行う方針が示されています。その抑止効果もあってか、直近では脱税総額自体は一時期より低水準に抑えられています。いずれにせよ、「申告納税制度を揺るがす悪質な脱税者には一罰百戒をもって臨む」という東京国税局査察部の姿勢は一貫しており、今後も様々な業種・手口の脱税事案が告発される可能性があります。適正な申告納税の重要性を再認識させるこれらの事例は、経営者にとって他山の石と言えるでしょう。

過去10年の東京国税局が法人税法違反で告発した件数と主な事例②

2025-04-23
告発

東京国税局が過去10年間に法人税法違反で告発した件数や主な事例に関して、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。今回は令和になって以降の主な告発事例について取り上げます。

2019年(令和元年度)

法人税法違反の告発件数は29件と増加しました。景気拡大に伴い脱税額も大型化する傾向が見られ、この年は2億円規模の脱税事件が発生しています。例えば、投資用不動産の販売コンサル会社などが2016年7月期~2018年7月期に架空の仕入れ計上で約4億9400万円の所得を隠し、法人税と地方法人税あわせ約1億1,900万円を免れた事件では、東京国税局が同社と経営者らを告発し、その後東京地検特捜部が在宅起訴しました。手口は架空の商品の仕入計上による所得圧縮で、不動産関連業者による典型的な脱税スキームでした。

2020年(令和2年度)

告発件数はやや減少し22件でしたが、有名企業の脱税事件が明るみに出ました。人気アニメ「鬼滅の刃」の制作会社と社長が、2015年と2017~2018年分の売上を帳簿上少なく見せかける手口で約4億4600万円の所得を隠し、法人税約1億1,000万円と消費税約2,900万円を脱税したとして2020年に東京国税局から告発されました。具体的には、アニメ関連カフェ等4店舗の売上金の一部を社長自宅の金庫に保管し申告しないという方法で、不正資金は作品制作資金にも流用されていたとされています。本件は起訴後に社長が法人税法違反罪などを認め、東京地裁で懲役1年8月・執行猶予3年、法人に罰金3,000万円の有罪判決となりました。

2021年(令和3年度)

告発件数は12件と大きく減少しました。コロナ禍で強制調査の着手自体が減った影響とみられますが、それでも悪質な事案は存在します。渋谷区のIT企業役員(インターネット広告代理店経営)が架空外注費を計上して約1億9,000万円もの法人税を脱税した事件では、東京国税局が法人税法違反容疑で告発し話題となりました。同氏は複数の関連会社間で架空取引を装い経費を水増ししており、脱税により得た資金は個人の預金等に留保されていたとみられます。告発後、当局の調査への協力や修正申告が行われたものの、最終的には起訴され有罪判決は免れませんでした。

2022年(令和4年度)

法人税法違反での告発件数は21件に増加しました。手口を見ると、引き続き架空経費計上や売上除外が中心ですが、新たな業種での発覚もあります。東京国税局は2022年6月、ITシステム開発会社とその代表者を、架空の業務委託費計上によって2019~2021年の3年間で約2億1,100万円の所得を隠し法人税約5,100万円を脱税した容疑で告発しました。代表者は取引先名義の偽造請求書を作成して支出を装っており、不正資金は高級時計の購入などに充てられていました。本件は告発発表後、代表者が「申告・納税をほぼ済ませた」とコメントし謝罪する異例の展開となりましたが、悪質性は高く起訴に至ったとみられます。

2023年(令和5年度)

東京国税局管内では約20~25件程度の法人税法違反告発があった模様です(査察全体の告発件数41件のうち約6割が法人税法違反との推計)。業種では引き続き不動産業やIT関連業のほか、国際的な租税回避事案も取り沙汰されています。この年の注目事例として、東京国税局が2023年に大手予備校元社長を約5億7千万円の所得無申告(法人役員報酬の隠匿)で告発した事件や、海外取引を利用した所得隠し事案などが挙げられます。

2024年(令和6年度)

現時点で公表されている情報は限定的ですが、2024年初までに判明した事例として、東京国税局が不動産会社による架空の有価証券売却損計上による法人税約5,100万円の脱税容疑を告発したことが報じられています(告発日は2025年2月26日付)。近年はこのように巧妙な経済取引を装った手口も散見されており、引き続き厳正な査察が行われています。

過去10年の東京国税局が法人税法違反で告発した件数と主な事例①

2025-04-16
告発

東京国税局が過去10年間に法人税法違反で告発した件数や主な事例に関して、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。今回は告発件数の推移と平成30年度までの主な告発事例を取り上げます。

東京国税局による告発件数の推移

東京国税局査察部(いわゆるマルサ)が法人税法違反で検察庁に告発した法人は、過去10年間で毎年20~30件前後にのぼります。2019年度には37件と近年最多水準となり、コロナ禍の影響を受けた2021年度には12件まで減少しましたが、2022年度は41件中21件が法人税法違反事案で再び増加しています。以下、各年の主な告発事例をまとめます。

2015年(平成27年度)

法人税法違反の告発は20件前後とみられます。例えば、不動産業者による架空経費計上で約1億円の所得を隠し、法人税約2,400万円を脱税したケースがあり、東京国税局が不動産会社実質経営者を法人税法違反容疑で告発しました。手口は架空の外注費や経費を計上して所得を圧縮する典型的なものです。告発後、この事案は極めて異例ながら不起訴処分となり(起訴猶予)、東京国税局で告発後に不起訴になったのは約26年ぶりと報じられています
(通常、告発事案はほぼ必ず起訴されています)。

2016年(平成28年度)

告発件数は20件程度で、大口の脱税事件がいくつか告発されています。この年は不動産投資会社グループによる大規模な架空経費計上が発覚しました。東京・中央区の不動産会社など関連2社とその実質オーナーの男性が、架空の業務委託費を計上する手口で約8,400万円の法人税を免れた疑いで告発されています。取引先やダミー会社に一旦支払ったように装い、その資金をキックバックさせる循環取引で所得を隠したもので、不動産業界の悪質な脱税事例として取り上げられました。

2017年(平成29年度)

告発件数は20件弱とみられます。業種別では建設・不動産関連が目立ちました。例えば、土木工事業者が売上の一部を除外し3年間で約3,800万円の法人税を免れた事件や、不動産会社が架空経費によって法人税約5,100万円を脱税した事件などが報じられています。手口はいずれも売上除外や架空経費計上で所得を簿外にプールする古典的なものでした。これらは後に起訴され、裁判で有罪判決が下っています。

2018年(平成30年度)

法人税法違反での告発は18件でした。主な事例の一つに、東京都下水道局から下水管調査業務を受注していた都内の関連会社グループ5社が、売上を一部申告せず2015~2018年に計約1億2,800万円の法人税等を脱税した事件があります。東京国税局はこれら5社と関係者を告発し、隠匿した所得の一部は役員報酬名目で流用されていたと指摘されました。手口は売上除外による所得隠しで、公共事業受注企業による脱税として問題視されました。なお、この年には六本木の高級クラブ元経営者が所得税・消費税約1億円を脱税した事件もありましたが、こちらは法人ではなく個人事業の所得隠し事案です。

【制度解説】保証債務の履行に伴う譲渡所得の特例

2025-01-15
税制度

譲渡所得とこの所得について保証債務の履行に伴う特例について見てみましょう。

所得の種類

所得税は、同じ個人の所得でも、その発生形態の違いから所得の種類を、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、譲渡所得など10種類に分けて、それぞれの所得の税金を負担する能力の違い等に応じて計算方法を変えるなどして税負担の公平を図っています。

 今回は、それらの所得のうち、譲渡所得とこの所得について保証債務の履行に伴う特例について見てみましょう。

譲渡所得とは

 譲渡所得とは、土地、借地権、家屋などの不動産のほか、機械器具、車両等の動産、特許権、漁業権、著作権などの無形固定資産の財産上の権利を移転させることにより、その対価として支払いを受けたものを指します。

 譲渡資産が、不動産であれば、その所有期間に応じて、長期譲渡所得、短期譲渡所得に分けられて課税されるなど、譲渡所得には細かいルールが定められています。いずれにしても資産の譲渡に対する対価が認識されれば、それは所得税として課税されることになります。

保証債務の特例

 このように本来であれば譲渡所得として課税されるところですが、一つの特例として、保証債務を履行するために資産を譲渡した場合に生じた譲渡所得に対しては所得税を課さないという定めがあります(所得税法64条2項)。

 中小企業では会社の代表取締役などが、会社の借り入れについて保証をするいわゆる経営者保証というのが非常に多いです。会社の経営が行き詰まれば、経営者は、自己の資産を処分してでも会社の借入金の返済をしなければなりません。保証債務を余儀なくされて資産を譲渡する一方で、結局、求償権は事実上画餅に過ぎないにもかかわらず、これに譲渡所得を課するというのあまりにおかしいというのが法の趣旨であると言われています。

問題点

 ただ、この定めは、過去に悪用されたこともありました。脱税請負人なる者らが、架空の保証債務を作出し、その履行を仮装して土地譲渡収入に対する譲渡所得の課税を免れるというものです。悪質なものには、保証債務の存在と履行を仮装するために、簡易裁判所における訴え提起前の和解(いわゆる即決和解)手続を利用して虚偽の和解調書を作成させたりするものもあったようです。なお、即決和解というのは、民事に関して争いのある事件について、民事訴訟を起こす前に、話合いによる解決ができた場合に、訴訟を起こすことなく、簡易裁判所に和解を申し立てて和解調書を作成してもらう手続きのことです。簡易裁判所においては、このような不正がないように、特に、即決和解の要件である紛争性については慎重に審査をしているところです。

 所得税法64条2項は、過去にこうした悪用事例があったことなどもあり、その適用に関して慎重な考え方もあるようですが、前述した立法趣旨からすれば、現下の経営者保証の実情などを踏まえ、適正妥当な解釈適用が望まれるところです。

暗号資産と課税

2024-12-25
税制度

暗号資産(資金決済法の改正で令和2年5月1日より呼称が仮装通貨から暗号資産に変更されました。)取引によって生じた利益は、課税対象となるでしょうか。暗号資産取引によって生じた利益に対する課税について弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。

事例

Aさんは、今年の4月にビットコイン(4ビット)を200万円で購入しました。その後、ビットコインが値上がりしたので、12月に240万円で売却しました。Aさんは、ビットコインも資産であり、その売却による所得は譲渡所得と考え、また、50万円の特別控除額を控除すると所得は0円になるので、確定申告をする必要はないと考えています。この考えは正しいのでしょうか。

(フィクションです)

解説

譲渡所得にいうところの資産は、他人に譲渡することができる有形、無形の資産を全て含むます。そうすると、ビットコインは、流通し、取引されていることから考えても、資産であることは明白であるように思えます。

しかしながら、現在の国税庁の見解は以下のようになっており、暗号資産取引については注意が必要です。

「問 暗号資産取引により生じた利益は、所得税法上の何所得に区分されますか。

答 暗号資産取引により生じた利益は、所得税の課税対象になり、原則として雑所得(その他雑所得)に区分されます。

暗号資産取引により生じた損益は、邦貨又は外貨との相対的な関係により認識される損益と認められますので、原則として雑所得(その他雑所得)に区分されます。

ただし、その年の暗号資産取引に係る収入金額が300万円を超える場合には、次の所得に区分されます。

・暗号資産取引に係る帳簿書類の保存がある場合・・・原則として事業所得

・暗号資産取引に係る帳簿書類の保存がない場合・・・原則として雑所得(業務に係る雑所得)

なお、暗号資産取引が事業所得等の基因となる行為に付随したものである場合、例えば、事業所得者が、事業用資産として暗号資産を保有し、棚卸資産等の購入の際の決済手段として暗号資産を使用した場合には、事業所得に区分されます。」

【令和5年12月25日に国税庁が公表した「暗号資産等に関する税務上の取扱いについて(情報)】

国税庁の見解によると、Aさんは、確定申告をしなければならない。

仮装通貨取引による雑所得には、総合課税が適用されます。

また、仮装通貨の取引では源泉徴収は行われないため、納税者自ら確定申告という手続きを通じて税務署へ申告する必要があります。

本件の事例で,仮にAさんが会社員だった場合でも、仮装通貨取引による利益が20万円を超えるときには確定申告を行う必要があります。

暗号資産取引による所得について確定申告をしていない場合

暗号資産取引では、確定申告が必要であるのに、申告を忘れていたり、申告漏れがあった場合には、確定申告期限前であれば直ちに、申告漏れのない確定申告を行ってください。確定申告後であれば修正申告をする必要があります。

これを怠っていれば、税務調査の対象となり、申告をしていない金額が大きくなれば査察調査の対象となって、更に悪質性が高いと判断されれば刑事事件に発展してしまう場合もあります。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、刑事事件を中心として扱っていますが、税法についても知識のある弁護士がそろっています。 初回の相談は無料ですので、一度ご相談にお越しください。

【事件解説】大阪国税局が不動産会社と同会社の実質的経営者を告発

2024-12-04
告発

大阪市西区の不動産会社と同会社の実質的経営者を大阪国税局が告発した事件について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。

事件の概要

権利関係が複雑な土地を安く買い取って売却する際、入居者を立ち退かせるための業務委託料を架空計上し、法人税など計約7200万円を脱税したとして、大阪国税局が、大阪市西区の不動産会社であるA社と同会社の実質的経営者であるB氏を大阪地方検察庁に告発しました。告発容疑は、2022年7月までの1年間に、立ち退きに必要な業務委託料として架空の外注費を計上して約2億400万円の所得を隠し、法人税約5200万円を脱税した疑いであり、他にも消費税約2000万円の不正還付を受けた疑いがあります。B氏は、取材に対して「悪いことをしたと反省している。」と語り、既に修正申告済みということです。

(2024年10月2日、千葉日報の記事より。一部改変)

https://www.chibanippo.co.jp/newspack/20241002/1283003

消費税の不正受還付と国の対応

本事件では、脱税行為の一つとして架空外注費の計上がまず挙げられていますが、注目すべきは、消費税約2000万円の不正還付を受けた疑いもある点です。

消費税は、取引の各段階で課税され、商品やサービスなどの最終消費者が実質的に負担する仕組みです。消費税法では、事業者は「仕入税額控除方式」により消費税を納税するシステムが採られており、これは、事業者が売上の際に受領した消費税をそのまま納税するのではなく、原材料や商品を仕入れた際に支払った消費税額を控除した金額を納税するシステムです。そして、課税仕入れに係る消費税額が課税売上げを上回る場合には、還付を受けることができます消費税法52条1項)。

消費税不正受還付はこの仕組みを悪用したものであり、たとえば、そもそも消費税の課税仕入れの対象とならない従業員給与の一部を消費税の課税仕入れの対象となる外注費に仮装し、架空の請求書を作成するなどの方法によって課税仕入れに係る消費税額を過大に計上し、不正に還付を受けるなどの事案がみられるところです。

近年、消費税の仕組みを悪用した不正受還付事案が相次いでおり、国税庁によると、平成29年から令和3年度までの5年間の消費税不正受還付事案の告発件数は計57件であり、不正受還付額は計35億9000万円にのぼっています。

国税庁が発表した令和5年度査察の概要によっても、国税庁は、消費税の仕入税額控除制度や輸出免税制度を悪用した不正受還付事案は、いわば国庫金の詐取ともいえる悪質性の高い事案であるとして、不正受還付事案への対応を重点課題として位置付け、引き続き積極的に告発してゆくとありますので、注意が必要です。

刑事手続

B氏は、法人税法違反などの疑いで刑事告発を受けています。

刑事告発を受けた検察庁は、B氏を被疑者として取調べ、その後起訴するか否かを決めることになります。

最近では、刑事告発されると約8割から9割の高率で起訴されるに至っています。

また、起訴された場合には、刑事裁判が始まります。

国税局が令和6年に発表した資料によると、査察事件の第1審判決の状況は、令和5年度中の判決件数83件全てが有罪であり、有罪率は100%となっています。このことから一旦起訴されると有罪となる可能性は極めて高いのが実情です。

最後に

既にお話しましたように、ひとたび刑事告発をされてしまうと、極めて高い確率で起訴され、かつ、有罪となるという実情があります。ですから、脱税に関与してしまったという場合には、早急に弁護士に相談して刑事告発を避けるための活動をしていくのが極めて重要と考えられます。弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、脱税に関する相談を無料で行っていますので、気軽に早急にお問合せください。

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