Archive for the ‘所得税・法人税’ Category

法人税脱税事件の実刑判決事例紹介

2025-05-28
実刑

日本では脱税事件の有罪率は極めて高いものの、多くは執行猶予付き判決にとどまり、実刑(執行猶予なしの懲役刑)が言い渡されるのは脱税額が巨額であったり常習性がある場合です。法人税に関する脱税で実刑判決に至った代表的な事例を、概要と判決内容・量刑理由とともに紹介します。

銀座「丸源ビル」オーナーによる10億円超の法人税脱税事件(2018年)

事件概要: かつて「銀座の不動産王」と呼ばれた「丸源ビル」オーナーは、自身が社長を務めていたビル管理会社のテナント賃貸収入の一部を除外する手口で、2011~2013年の3年間に計約35億円の所得を隠し、法人税約10億6000万円を免れたとして起訴されました。被告人は初公判で全面否認し、公判中に弁護団を何度も交代するなど長期裁判となりました。

判決内容: 東京地方裁判所は被告人に対し懲役4年及び罰金2億4000万円の実刑判決を言い渡しました(求刑は懲役5年・罰金3億円)。判決理由で裁判長は、「脱税規模は極めて大きく、所得隠しの手口も巧妙。被告は売上や経費を自身の思うままに操作し、納税義務をないがしろにした」と被告人の犯行態度を厳しく非難しました。巨額かつ悪質な脱税であること、起訴後も反省や納税が見られなかったことが実刑・長期懲役の主因となりました。

税理士による法人税脱税ほう助事件(2020年)

事件概要: 税理士で会社社長の被告人は、首都圏の2社が所得隠しを行って法人税の納付を免れた際、その事実を知りながら自らの管理する会社名義の口座に架空名目の資金を入金させる方法で脱税を手助けしました。具体的には、2社が計上した架空の雑損失や不動産手数料の支払いを装って、被告人の会社口座に資金を迂回入金させることで、両社の所得隠しを容易にしていたとされます。被告人は過去にも同様の法人税法違反ほう助で有罪判決(執行猶予付き)を受けており、その執行猶予期間中に再び本件犯行に及んでいました。

判決内容: 東京地方裁判所で判決が言い渡され、被告人に懲役10か月および罰金800万円の刑が科されました。全国で初めて法人税法違反のほう助犯に対して実刑判決が出たケースでもあります。量刑理由としては、過去の前科があり執行猶予中の再犯だった悪質性が決定的でした。裁判所は「一度有罪判決を受けながら再び脱税ほう助に及んだ点は看過できない」として、再犯抑止の観点から実刑が相当と判断したものとみられます。

まとめ

国税庁の公表データによれば、近年の脱税事件で実刑判決にまで至るケースは毎年数件程度です。例えば令和5年度中に一審判決があった脱税事件83件では、うち9人(約11%)が実刑判決を受けています。実刑となる懲役期間の平均は約16ヶ月で、最長は前述の銀座ビルオーナー事件の懲役4年でした。一般に「ほ脱額が合計3億円を超える場合には、全額納付していても実刑判決となる場合が多い」とも言われており、巨額・悪質な脱税には厳罰が科される傾向があります。実刑判決が確定すればただちに服役が必要となり、執行猶予付き判決と比べて社会的制裁も一層深刻なものとなります。 脱税を疑われた場合には、早期に弁護士に相談し、実刑判決という重い判決を受けることがないように活動してもらいましょう。

法人税脱税手口の傾向と分析

2025-04-30
告発

前回まで東京国税局が法人税法違反で告発した事例を過去10年間分見てきましたが、今回はそこから見えてくる脱税の手口と傾向について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。

脱税の手口

過去10年の告発事例を通じて、脱税の手口は概ね「売上の除外(収入隠し)」と「架空経費・架空原価の計上」に大別できます。建設業や不動産業では下請代金の循環取引や架空発注による原価水増し、IT・サービス業では架空外注費の計上による利益圧縮が典型です。現金商売の業種(クラブ、飲食店など)では売上の一部を現金でプールして申告しない手口も根強く、実際「鬼滅の刃」制作会社の事件ではカフェ売上を金庫に隠匿する古典的手法で多額の所得を隠していました。

告発が多い業種

業種的には、不正が発覚・告発された件数が多いのは不動産業、建設業、クラブ・バー経営などで、2015年度の全国データでも「建設業15件」「不動産業12件」「クラブ・バー7件」が上位を占めました。東京国税局管内でも不動産・建設関連の告発が目立ち、土地取引や受注工事を巡る所得隠しが後を絶たない状況です。一方で近年はIT企業やコンテンツ産業(アニメ制作会社など)も告発事例が散見され、脱税の摘発対象が新分野にも広がっていることがわかります。

脱税額の規模

脱税額の規模について見ると、1件あたりの脱税額は平均で数千万円から1億円程度です。平成27年度には全国平均で約9,700万円(告発分)でしたが、その後若干減少しつつも、おおむね1件あたり1億円前後で推移しています。東京国税局管内では令和4年度の告発事案1件あたり脱税額が9,100万円と全国平均(8,800万円)よりやや高く、首都圏ゆえに金額の大きな悪質事例が多いことを示唆します。実際にここ数年でも脱税額1億円超の案件が複数摘発されており、金額規模の大きな脱税への査察強化がうかがえます。

処分の状況

処分の状況については、東京国税局査察部が告発に踏み切るのは悪質かつ多額の事案に限られるため、告発後は原則起訴(刑事裁判)されています。令和元年度のデータでは告発案件の起訴率は約85%に達し、起訴された場合の有罪率はほぼ100%(執行猶予付き判決を含め、全件有罪)となっています。実刑判決が出るケースもあり、例えば平成27年度に一審判決があった133件のうち2件では実刑判決(懲役刑)が科されています。悪質な法人税ほ脱に厳しい姿勢です。不起訴となるケースは極めて珍しく、東京国税局では1991年以降ほとんど例がありません。

総括

総じて、この10年間で東京国税局管内の法人税法違反による告発事例は「伝統的な手口による脱税の摘発」が中心ですが、告発件数は景気動向や社会状況で増減しつつも概ね毎年数十件規模で推移しています。不動産・建設業等の常連業種に加え、新興業種にもメスが入る傾向が見られ、脱税手口もより巧妙化・多様化していると言えます。しかし、国税当局も近年は消費税の不正還付や国際的租税回避スキームなど時流に即した重点分野に対して調査を強化しており、悪質なほ脱には継続して刑事告発を行う方針が示されています。その抑止効果もあってか、直近では脱税総額自体は一時期より低水準に抑えられています。いずれにせよ、「申告納税制度を揺るがす悪質な脱税者には一罰百戒をもって臨む」という東京国税局査察部の姿勢は一貫しており、今後も様々な業種・手口の脱税事案が告発される可能性があります。適正な申告納税の重要性を再認識させるこれらの事例は、経営者にとって他山の石と言えるでしょう。

過去10年の東京国税局が法人税法違反で告発した件数と主な事例②

2025-04-23
告発

東京国税局が過去10年間に法人税法違反で告発した件数や主な事例に関して、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。今回は令和になって以降の主な告発事例について取り上げます。

2019年(令和元年度)

法人税法違反の告発件数は29件と増加しました。景気拡大に伴い脱税額も大型化する傾向が見られ、この年は2億円規模の脱税事件が発生しています。例えば、投資用不動産の販売コンサル会社などが2016年7月期~2018年7月期に架空の仕入れ計上で約4億9400万円の所得を隠し、法人税と地方法人税あわせ約1億1,900万円を免れた事件では、東京国税局が同社と経営者らを告発し、その後東京地検特捜部が在宅起訴しました。手口は架空の商品の仕入計上による所得圧縮で、不動産関連業者による典型的な脱税スキームでした。

2020年(令和2年度)

告発件数はやや減少し22件でしたが、有名企業の脱税事件が明るみに出ました。人気アニメ「鬼滅の刃」の制作会社と社長が、2015年と2017~2018年分の売上を帳簿上少なく見せかける手口で約4億4600万円の所得を隠し、法人税約1億1,000万円と消費税約2,900万円を脱税したとして2020年に東京国税局から告発されました。具体的には、アニメ関連カフェ等4店舗の売上金の一部を社長自宅の金庫に保管し申告しないという方法で、不正資金は作品制作資金にも流用されていたとされています。本件は起訴後に社長が法人税法違反罪などを認め、東京地裁で懲役1年8月・執行猶予3年、法人に罰金3,000万円の有罪判決となりました。

2021年(令和3年度)

告発件数は12件と大きく減少しました。コロナ禍で強制調査の着手自体が減った影響とみられますが、それでも悪質な事案は存在します。渋谷区のIT企業役員(インターネット広告代理店経営)が架空外注費を計上して約1億9,000万円もの法人税を脱税した事件では、東京国税局が法人税法違反容疑で告発し話題となりました。同氏は複数の関連会社間で架空取引を装い経費を水増ししており、脱税により得た資金は個人の預金等に留保されていたとみられます。告発後、当局の調査への協力や修正申告が行われたものの、最終的には起訴され有罪判決は免れませんでした。

2022年(令和4年度)

法人税法違反での告発件数は21件に増加しました。手口を見ると、引き続き架空経費計上や売上除外が中心ですが、新たな業種での発覚もあります。東京国税局は2022年6月、ITシステム開発会社とその代表者を、架空の業務委託費計上によって2019~2021年の3年間で約2億1,100万円の所得を隠し法人税約5,100万円を脱税した容疑で告発しました。代表者は取引先名義の偽造請求書を作成して支出を装っており、不正資金は高級時計の購入などに充てられていました。本件は告発発表後、代表者が「申告・納税をほぼ済ませた」とコメントし謝罪する異例の展開となりましたが、悪質性は高く起訴に至ったとみられます。

2023年(令和5年度)

東京国税局管内では約20~25件程度の法人税法違反告発があった模様です(査察全体の告発件数41件のうち約6割が法人税法違反との推計)。業種では引き続き不動産業やIT関連業のほか、国際的な租税回避事案も取り沙汰されています。この年の注目事例として、東京国税局が2023年に大手予備校元社長を約5億7千万円の所得無申告(法人役員報酬の隠匿)で告発した事件や、海外取引を利用した所得隠し事案などが挙げられます。

2024年(令和6年度)

現時点で公表されている情報は限定的ですが、2024年初までに判明した事例として、東京国税局が不動産会社による架空の有価証券売却損計上による法人税約5,100万円の脱税容疑を告発したことが報じられています(告発日は2025年2月26日付)。近年はこのように巧妙な経済取引を装った手口も散見されており、引き続き厳正な査察が行われています。

過去10年の東京国税局が法人税法違反で告発した件数と主な事例①

2025-04-16
告発

東京国税局が過去10年間に法人税法違反で告発した件数や主な事例に関して、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。今回は告発件数の推移と平成30年度までの主な告発事例を取り上げます。

東京国税局による告発件数の推移

東京国税局査察部(いわゆるマルサ)が法人税法違反で検察庁に告発した法人は、過去10年間で毎年20~30件前後にのぼります。2019年度には37件と近年最多水準となり、コロナ禍の影響を受けた2021年度には12件まで減少しましたが、2022年度は41件中21件が法人税法違反事案で再び増加しています。以下、各年の主な告発事例をまとめます。

2015年(平成27年度)

法人税法違反の告発は20件前後とみられます。例えば、不動産業者による架空経費計上で約1億円の所得を隠し、法人税約2,400万円を脱税したケースがあり、東京国税局が不動産会社実質経営者を法人税法違反容疑で告発しました。手口は架空の外注費や経費を計上して所得を圧縮する典型的なものです。告発後、この事案は極めて異例ながら不起訴処分となり(起訴猶予)、東京国税局で告発後に不起訴になったのは約26年ぶりと報じられています
(通常、告発事案はほぼ必ず起訴されています)。

2016年(平成28年度)

告発件数は20件程度で、大口の脱税事件がいくつか告発されています。この年は不動産投資会社グループによる大規模な架空経費計上が発覚しました。東京・中央区の不動産会社など関連2社とその実質オーナーの男性が、架空の業務委託費を計上する手口で約8,400万円の法人税を免れた疑いで告発されています。取引先やダミー会社に一旦支払ったように装い、その資金をキックバックさせる循環取引で所得を隠したもので、不動産業界の悪質な脱税事例として取り上げられました。

2017年(平成29年度)

告発件数は20件弱とみられます。業種別では建設・不動産関連が目立ちました。例えば、土木工事業者が売上の一部を除外し3年間で約3,800万円の法人税を免れた事件や、不動産会社が架空経費によって法人税約5,100万円を脱税した事件などが報じられています。手口はいずれも売上除外や架空経費計上で所得を簿外にプールする古典的なものでした。これらは後に起訴され、裁判で有罪判決が下っています。

2018年(平成30年度)

法人税法違反での告発は18件でした。主な事例の一つに、東京都下水道局から下水管調査業務を受注していた都内の関連会社グループ5社が、売上を一部申告せず2015~2018年に計約1億2,800万円の法人税等を脱税した事件があります。東京国税局はこれら5社と関係者を告発し、隠匿した所得の一部は役員報酬名目で流用されていたと指摘されました。手口は売上除外による所得隠しで、公共事業受注企業による脱税として問題視されました。なお、この年には六本木の高級クラブ元経営者が所得税・消費税約1億円を脱税した事件もありましたが、こちらは法人ではなく個人事業の所得隠し事案です。

【制度解説】保証債務の履行に伴う譲渡所得の特例

2025-01-15
税制度

譲渡所得とこの所得について保証債務の履行に伴う特例について見てみましょう。

所得の種類

所得税は、同じ個人の所得でも、その発生形態の違いから所得の種類を、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、譲渡所得など10種類に分けて、それぞれの所得の税金を負担する能力の違い等に応じて計算方法を変えるなどして税負担の公平を図っています。

 今回は、それらの所得のうち、譲渡所得とこの所得について保証債務の履行に伴う特例について見てみましょう。

譲渡所得とは

 譲渡所得とは、土地、借地権、家屋などの不動産のほか、機械器具、車両等の動産、特許権、漁業権、著作権などの無形固定資産の財産上の権利を移転させることにより、その対価として支払いを受けたものを指します。

 譲渡資産が、不動産であれば、その所有期間に応じて、長期譲渡所得、短期譲渡所得に分けられて課税されるなど、譲渡所得には細かいルールが定められています。いずれにしても資産の譲渡に対する対価が認識されれば、それは所得税として課税されることになります。

保証債務の特例

 このように本来であれば譲渡所得として課税されるところですが、一つの特例として、保証債務を履行するために資産を譲渡した場合に生じた譲渡所得に対しては所得税を課さないという定めがあります(所得税法64条2項)。

 中小企業では会社の代表取締役などが、会社の借り入れについて保証をするいわゆる経営者保証というのが非常に多いです。会社の経営が行き詰まれば、経営者は、自己の資産を処分してでも会社の借入金の返済をしなければなりません。保証債務を余儀なくされて資産を譲渡する一方で、結局、求償権は事実上画餅に過ぎないにもかかわらず、これに譲渡所得を課するというのあまりにおかしいというのが法の趣旨であると言われています。

問題点

 ただ、この定めは、過去に悪用されたこともありました。脱税請負人なる者らが、架空の保証債務を作出し、その履行を仮装して土地譲渡収入に対する譲渡所得の課税を免れるというものです。悪質なものには、保証債務の存在と履行を仮装するために、簡易裁判所における訴え提起前の和解(いわゆる即決和解)手続を利用して虚偽の和解調書を作成させたりするものもあったようです。なお、即決和解というのは、民事に関して争いのある事件について、民事訴訟を起こす前に、話合いによる解決ができた場合に、訴訟を起こすことなく、簡易裁判所に和解を申し立てて和解調書を作成してもらう手続きのことです。簡易裁判所においては、このような不正がないように、特に、即決和解の要件である紛争性については慎重に審査をしているところです。

 所得税法64条2項は、過去にこうした悪用事例があったことなどもあり、その適用に関して慎重な考え方もあるようですが、前述した立法趣旨からすれば、現下の経営者保証の実情などを踏まえ、適正妥当な解釈適用が望まれるところです。

暗号資産と課税

2024-12-25
税制度

暗号資産(資金決済法の改正で令和2年5月1日より呼称が仮装通貨から暗号資産に変更されました。)取引によって生じた利益は、課税対象となるでしょうか。暗号資産取引によって生じた利益に対する課税について弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。

事例

Aさんは、今年の4月にビットコイン(4ビット)を200万円で購入しました。その後、ビットコインが値上がりしたので、12月に240万円で売却しました。Aさんは、ビットコインも資産であり、その売却による所得は譲渡所得と考え、また、50万円の特別控除額を控除すると所得は0円になるので、確定申告をする必要はないと考えています。この考えは正しいのでしょうか。

(フィクションです)

解説

譲渡所得にいうところの資産は、他人に譲渡することができる有形、無形の資産を全て含むます。そうすると、ビットコインは、流通し、取引されていることから考えても、資産であることは明白であるように思えます。

しかしながら、現在の国税庁の見解は以下のようになっており、暗号資産取引については注意が必要です。

「問 暗号資産取引により生じた利益は、所得税法上の何所得に区分されますか。

答 暗号資産取引により生じた利益は、所得税の課税対象になり、原則として雑所得(その他雑所得)に区分されます。

暗号資産取引により生じた損益は、邦貨又は外貨との相対的な関係により認識される損益と認められますので、原則として雑所得(その他雑所得)に区分されます。

ただし、その年の暗号資産取引に係る収入金額が300万円を超える場合には、次の所得に区分されます。

・暗号資産取引に係る帳簿書類の保存がある場合・・・原則として事業所得

・暗号資産取引に係る帳簿書類の保存がない場合・・・原則として雑所得(業務に係る雑所得)

なお、暗号資産取引が事業所得等の基因となる行為に付随したものである場合、例えば、事業所得者が、事業用資産として暗号資産を保有し、棚卸資産等の購入の際の決済手段として暗号資産を使用した場合には、事業所得に区分されます。」

【令和5年12月25日に国税庁が公表した「暗号資産等に関する税務上の取扱いについて(情報)】

国税庁の見解によると、Aさんは、確定申告をしなければならない。

仮装通貨取引による雑所得には、総合課税が適用されます。

また、仮装通貨の取引では源泉徴収は行われないため、納税者自ら確定申告という手続きを通じて税務署へ申告する必要があります。

本件の事例で,仮にAさんが会社員だった場合でも、仮装通貨取引による利益が20万円を超えるときには確定申告を行う必要があります。

暗号資産取引による所得について確定申告をしていない場合

暗号資産取引では、確定申告が必要であるのに、申告を忘れていたり、申告漏れがあった場合には、確定申告期限前であれば直ちに、申告漏れのない確定申告を行ってください。確定申告後であれば修正申告をする必要があります。

これを怠っていれば、税務調査の対象となり、申告をしていない金額が大きくなれば査察調査の対象となって、更に悪質性が高いと判断されれば刑事事件に発展してしまう場合もあります。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、刑事事件を中心として扱っていますが、税法についても知識のある弁護士がそろっています。 初回の相談は無料ですので、一度ご相談にお越しください。

【事件解説】大阪国税局が不動産会社と同会社の実質的経営者を告発

2024-12-04
告発

大阪市西区の不動産会社と同会社の実質的経営者を大阪国税局が告発した事件について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。

事件の概要

権利関係が複雑な土地を安く買い取って売却する際、入居者を立ち退かせるための業務委託料を架空計上し、法人税など計約7200万円を脱税したとして、大阪国税局が、大阪市西区の不動産会社であるA社と同会社の実質的経営者であるB氏を大阪地方検察庁に告発しました。告発容疑は、2022年7月までの1年間に、立ち退きに必要な業務委託料として架空の外注費を計上して約2億400万円の所得を隠し、法人税約5200万円を脱税した疑いであり、他にも消費税約2000万円の不正還付を受けた疑いがあります。B氏は、取材に対して「悪いことをしたと反省している。」と語り、既に修正申告済みということです。

(2024年10月2日、千葉日報の記事より。一部改変)

https://www.chibanippo.co.jp/newspack/20241002/1283003

消費税の不正受還付と国の対応

本事件では、脱税行為の一つとして架空外注費の計上がまず挙げられていますが、注目すべきは、消費税約2000万円の不正還付を受けた疑いもある点です。

消費税は、取引の各段階で課税され、商品やサービスなどの最終消費者が実質的に負担する仕組みです。消費税法では、事業者は「仕入税額控除方式」により消費税を納税するシステムが採られており、これは、事業者が売上の際に受領した消費税をそのまま納税するのではなく、原材料や商品を仕入れた際に支払った消費税額を控除した金額を納税するシステムです。そして、課税仕入れに係る消費税額が課税売上げを上回る場合には、還付を受けることができます消費税法52条1項)。

消費税不正受還付はこの仕組みを悪用したものであり、たとえば、そもそも消費税の課税仕入れの対象とならない従業員給与の一部を消費税の課税仕入れの対象となる外注費に仮装し、架空の請求書を作成するなどの方法によって課税仕入れに係る消費税額を過大に計上し、不正に還付を受けるなどの事案がみられるところです。

近年、消費税の仕組みを悪用した不正受還付事案が相次いでおり、国税庁によると、平成29年から令和3年度までの5年間の消費税不正受還付事案の告発件数は計57件であり、不正受還付額は計35億9000万円にのぼっています。

国税庁が発表した令和5年度査察の概要によっても、国税庁は、消費税の仕入税額控除制度や輸出免税制度を悪用した不正受還付事案は、いわば国庫金の詐取ともいえる悪質性の高い事案であるとして、不正受還付事案への対応を重点課題として位置付け、引き続き積極的に告発してゆくとありますので、注意が必要です。

刑事手続

B氏は、法人税法違反などの疑いで刑事告発を受けています。

刑事告発を受けた検察庁は、B氏を被疑者として取調べ、その後起訴するか否かを決めることになります。

最近では、刑事告発されると約8割から9割の高率で起訴されるに至っています。

また、起訴された場合には、刑事裁判が始まります。

国税局が令和6年に発表した資料によると、査察事件の第1審判決の状況は、令和5年度中の判決件数83件全てが有罪であり、有罪率は100%となっています。このことから一旦起訴されると有罪となる可能性は極めて高いのが実情です。

最後に

既にお話しましたように、ひとたび刑事告発をされてしまうと、極めて高い確率で起訴され、かつ、有罪となるという実情があります。ですから、脱税に関与してしまったという場合には、早急に弁護士に相談して刑事告発を避けるための活動をしていくのが極めて重要と考えられます。弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、脱税に関する相談を無料で行っていますので、気軽に早急にお問合せください。

【事例解説】所得税法違反の共犯者として裁判に!

2024-11-20
告発

所得税法違反の共犯者として刑事裁判にかけられた事例について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します(事例はフィクションです。)。

1 参考事例

Xさんは、福岡県内にある建設業を営むAさんのもとで、経理として働いていました。
Xさんは、Aさんから、経理に関してはほとんど全て任されており、確定申告も実質的には全てXさんが行っていました。
Xさんは、Aさんの指示のもと、架空の経費を計上し、過少に所得を申告し、その結果、Aさんは所得税を数千万円免れていました
なお、Xさんは、Aさんの脱税に関し、一切、直接的な利益を受け取っていませんでした。
Xさんは、逮捕はされませんでしたが、Aさんと共犯(法律上は共同正犯)であるとして、所得税法違反で刑事裁判にかけられることになり、弁護士に相談することにしました。
(参考裁判例:新潟地方裁判所令和6年6月5日判決・令和6年(わ)第47号)

2 所得税法違反について

そもそも所得税は、所定の期間における収益から必要経費を控除した額(これが所得になります。)に対して課される税金です。
参考事例において、Aさんは、この必要経費をかさ増しすることによって、低い所得を申告した上で、その所得に課される税金のみを納めているため、所得税法違反となります(所得税法238条1項)。

3 Xさんの立ち位置について

参考事例において、Xさんは、所得税法違反の共犯、つまり一緒になったとして刑事裁判にかけられています。
もっとも、XさんとAさんの関係性は、実際には、Aさんから半ば強制的にさせられたのか、Xさん自身も何かしらの利益を受け取っていたのか、そもそもXさんは脱税について認識がなかったのかなど、事業者(会社も同様)によって様々なものが想定されます。
参考事例のような共犯事件においては、多かれ少なかれこの点が問題となる事案がほとんどです。

4 弁護活動について

そこで、Xさんとしては、どのような立ち位置だったのか、それを法律的にはどのような説明をしていくべきなのかを慎重に検討すべきです。
そして、Xさんがどのような説明をしていくべきかは、参考事例のように裁判になった後ではなく、捜査を受ける段階から問題となります。
ですので、Xさんとしては、Aさんに税務調査が入るなどして、今後、脱税の容疑がかけられる可能性が出てきた段階で、弁護士に相談し、今後、取調べなどでどのように説明していくか、アドバイスを受ける必要があります。
上に挙げた新潟地裁の判決においても、Xさんのような立ち位置の人に対し、その「関与なくしては成り立たなかった」として、懲役刑が科され、執行猶予が付されています。

5 最後に

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、脱税事件に強い弁護士が所属し、多数の脱税事件を取り扱っています。脱税の共犯に疑われているなどで不安に感じていらっしゃる方は、初回の相談は無料ですので、お気軽にお問い合わせください。

【報道解説】人気漫画「薬屋のひとりごと」作画担当の女性に所得税法違反で有罪判決

2024-07-31
判決

人気漫画の作画担当の女性に対し、福岡地方裁判所が所得税法違反で有罪判決を下した事件について、報道をもとに弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。

【報道の内容】

所得税4700万円を脱税したとして、人気漫画「薬屋のひとりごと」 作画を担当する漫画家の女に24日、懲役10か月、執行猶予3年、罰金1100万円の判決が言い渡されました。
所得税法違反の罪に問われていたのは、「ねこクラゲ」のペンネームで人気漫画「薬屋のひとりごと」の作画を担当する福岡市の漫画家です。
起訴状によりますと、被告は2019年から3年間のおよそ2億6000万円の所得期限までに確定申告せず所得税4700万円の納付を免れた罪に問われていました。
判決で裁判官は「作画を担当する漫画が人気を博したため多額の所得を得るようになったにもかかわらず、3年間にわたり確定申告を行わず、およそ4700万円の所得税を免れた」と認定しました。
そして「事務作業が極めて不得手で金銭への関心が薄く、年齢相応の社会制度に対する理解も不足した被告が急激に人気漫画家となり、確定申告の重要性を軽く見て目の前の仕事やプライベートを優先させ、事務作業から逃げ続けた結果」と指摘しました。
その一方で「2022年に修正申告を行い加算税などをすでに納付していること、後悔と反省をし、税理士に依頼して2022年度以降は確定申告を行っていて、再度、脱税行為に及ぶ可能性は低い」として、懲役10か月、執行猶予3年、罰金1100万円の判決を言い渡しました。
被告は初公判で起訴内容を認めた上で「免れようという気持ちはなく、数年分をまとめて申告しようと思っていた」と話していました。
検察側は冒頭陳述で「漫画の原稿の締め切りを優先し、確定申告の書類整理がおっくうだった」「脱税した金を実家の建て替えに使った」などと指摘し、懲役10か月、罰金1400万円を求刑していました。
裁判官は判決公判の最後に「これからはうっかりでしたということでは済まされないので、いろんなことに気をつけて生活してください」と言葉をかけました。
(令和6年7月24日付Yahoo!ニュース https://news.yahoo.co.jp/articles/967e997ddc708351a6d77e934171b38a3216e406 一部プライバシー保護のため改変しています)

どのような罪に問われたのか

報道によると、被告人の女性は、3年間で約2億6000万円の所得を期限までに確定申告していないことにより、所得税約4700万円の納付を免れた罪に問われたとされています。
所得税法には、所得税を免れた罪については大きく分けて2つの罪が規定されています。
一つは、いわゆる「虚偽逋脱犯」と言われる、「偽りその他不正の行為により、所得税を免れた」場合に問われる罪です。
もう一つは、「単純逋脱犯」と言われる、「偽りその他不正の行為によらずに、単に所得税を免れた」場合に問われる罪です。
虚偽逋脱犯の場合には、偽りその他不正の行為によって所得税を免れているので、脱税の認識が強く認められ、悪質性が高いといえることから、「10年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。」と定められています(所得税法238条1項)。
一方、単純逋脱犯の場合には、所得を殊更に隠したり、虚偽帳簿を作成したりといった明らかに納税を免れようとする強い意思が現れているような行為をしていないなど、悪質性が低いと思われることから、「5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。」と定められています(所得税法238条3項)。
今回の事件では、確定申告を怠って所得税を免れていますが、「偽りその他不正の行為」という話が出てきていないので、「単純逋脱犯」の罪のうち単純無申告逋脱犯として罪に問われたと考えられます。
しかし、そうすると、法律では500万円以下と罰金の額が定められているのに、判決では罰金1400万円とされているのはなぜなのかという問題が出てきます。
この罰金の金額については、所得税法238条4項で、「免れた所得税の額が500万円を超えるときは、情状により、罰金は、500万円を超えその免れた所得税の額に相当する金額以下とすることができる。」とされています。
そのため、今回の事件でも、免れた所得税の額は約4700万円となっていますので、罰金の上限額を4700万円まで引き上げることができ、そのため、1400万円の罰金刑を科すことができたのです。

判決の重さは妥当なのか

検察官は懲役10カ月、罰金1400万円を求刑しています。
求刑とは、検察官が裁判官に対して、「これくらいの重さの判決を下してほしい」というお願いをすることで、裁判官は検察官の求刑をもとに判決の重さを検討することがほとんどです。
裁判官は検察官の求刑に縛られるわけではないので、検察官の求刑を超えてより重い判決を下すこともできますが、多くの場合には求刑よりも軽い判決が下されます。
今回の事件でも、懲役10カ月に執行猶予3年つけており、罰金も1100万円となっています。
懲役刑は上限5年まで下せますが、被告人が初犯であり、修正申告を行って加算税も含めて免れた所得税をすでに納付していること、うっかりということであり強く脱税しようと思っての犯行ではなかったことなどが考慮されて、検察官も懲役10月を求刑したと考えられます。
また、罰金刑については、免れた税額の2~3割程度とされることが多いようです。
今回の判決でも免れた所得税の約2割ちょっとの罰金刑を下しているので、相場のとおりということができるでしょう。

脱税で刑事裁判を受けることになったら

脱税事件で刑事裁判を受けることになった場合、100%有罪となっています。
そのため、できるだけ軽い刑罰で済むように活動していくことが必要です。
前科の有無や動機も重要ですが、修正申告や納税を行っているかなどは事後的な事情の中でも特に重要な事情となります。
裁判になる前から、修正申告や納税に向けた活動を開始しておくことによって、裁判で有利になります。
また、裁判になる前の捜査段階でどういった内容を供述するのかも非常に重要です。
捜査でしゃべった内容は、基本的に裁判で証拠となるため、なんでもかんでもしゃべっていると、思っていたよりも重い刑罰を受けることになりかねません。
そのため、脱税事件の捜査を受けることになったら早急に弁護士を付けてしっかり対応していきましょう。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は、脱税事件を多く扱っている全国でもめずらしい法律事務所です。
初回相談は無料ですので、脱税事件でお困りの方は、一度ご相談にお越しください。

【事件解説】名古屋国税局が「頂き女子りりちゃん」を告発

2024-06-26
報道

いわゆる「頂き女子りりちゃん」を名古屋国税局が告発した事件について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。

事件の概要

恋愛感情に付け込んで男性をから得た詐取金を税務申告せず、約4000万円を脱税したとして、名古屋国税局は、いわゆる「頂き女子りりちゃん」ことA氏を所得税法違反容疑で名古屋地検に刑事告発しました(2024年1月31日付け発表)。
A氏は、SNS上で「頂き女子りりちゃん」を名乗り、中年男性に対して「困窮している」などと嘘をついて金銭的な支援を受ける方法を発信。名古屋地検は、2021年3月~2023年8月に、この方法で複数の男性から1億5000万円以上をだまし取ったなどとして詐欺、詐欺幇助の罪で、先にA氏を起訴しており、A氏は公判中でした。名古屋国税局によると、A氏が得た詐取金のうち2021年~2022年に得た詐取金計約1億1000万円分が告発の対象となり、A氏は、同詐取金の税務申告を怠ったことで、所得税約4000万円を免れた疑いがあるとのことです。A氏は、脱税で得たとされる資金はホストクラブなどに使っていました。
2024年1月31日、朝日新聞デジタルの記事より。一部改変)

詐欺によって得た利益も課税対象になるか

犯罪等違法な手段で金銭を得たとした場合、正直に税の申告をする者などいないように思われます。しかし、A氏がだまし取った金銭は所得に該当します。
この点、所得税基本通達36-1は、「法36条1項に規定する『収入金額とすべき金額』又は『総収入金額に算入すべき金額』は、その収入の基因となった行為が適法であるか否かを問わない」と規定しており、今回のように犯罪によって得た利益も適法な手段で得た利益と同様に所得と見なされるからです。
A氏は、だまし取った金銭をホストクラブで費消しているとのことであり、納税できない可能性が高いですが、お金がないからといって脱税が許されるというものではありません。

刑事告発後の経過について

本事件では、所得税法違反で名古屋地検に告発がなされています。
告発された後、本件脱税事件も起訴され、A氏は、2024年3月15日の公判期日で、脱税事件の起訴内容を認めました。そして、この日、A氏は、検察官から懲役13年及び罰金1200万円を求刑され、同年4月22日、名古屋地裁は、A氏に対して懲役9年及び罰金800万円の実刑判決を言い渡しました(もっとも、その後、A氏が控訴したことで判決はまだ確定していません)。
本件は、詐欺罪の被害額が大きいため、詐欺罪だけでも実刑の事案ですが、脱税以外にも立件された事件がある場合、他に立件された事件が本件のように脱税と密接に関連するケースでは、そうでないケースと比較してより犯情が悪くなります。したがって、脱税にプラスして脱税に密接に関連する事件が立件された場合、事件全体の量刑が実刑となる可能性が高くなるといえます。常に法律を遵守し、適法な手段で利益を得、適正に納税することが大切であることはいうまでもありません。

罰金の額は、脱税額の20~30パーセントであるのが通常

本件では、A氏に対し、罰金800万円が言い渡されています。詐欺罪には、懲役刑しかなく罰金刑はありませんので、この罰金800万円は、脱税の事件に関してのものです。
脱税の金額約4000万円に対して罰金額800万円が言い渡されており、罰金額が脱税の金額の約20パーセントであることから、通常の量刑の相場に沿った罰金額だといえます。

刑事告発を受けたら

脱税事件によって刑事告発をされたら、すぐに弁護士に相談しましょう。
告発を受けた場合には刑事手続が開始されます。刑事事件に強い弁護士に依頼をすることで、不起訴を勝ち取れたり、刑事裁判の結果が軽くなる可能性が出てきます。

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