Archive for the ‘所得税・法人税’ Category

【事例解説】所得税法違反の共犯者として裁判に!

2024-11-20
告発

所得税法違反の共犯者として刑事裁判にかけられた事例について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します(事例はフィクションです。)。

1 参考事例

Xさんは、福岡県内にある建設業を営むAさんのもとで、経理として働いていました。
Xさんは、Aさんから、経理に関してはほとんど全て任されており、確定申告も実質的には全てXさんが行っていました。
Xさんは、Aさんの指示のもと、架空の経費を計上し、過少に所得を申告し、その結果、Aさんは所得税を数千万円免れていました
なお、Xさんは、Aさんの脱税に関し、一切、直接的な利益を受け取っていませんでした。
Xさんは、逮捕はされませんでしたが、Aさんと共犯(法律上は共同正犯)であるとして、所得税法違反で刑事裁判にかけられることになり、弁護士に相談することにしました。
(参考裁判例:新潟地方裁判所令和6年6月5日判決・令和6年(わ)第47号)

2 所得税法違反について

そもそも所得税は、所定の期間における収益から必要経費を控除した額(これが所得になります。)に対して課される税金です。
参考事例において、Aさんは、この必要経費をかさ増しすることによって、低い所得を申告した上で、その所得に課される税金のみを納めているため、所得税法違反となります(所得税法238条1項)。

3 Xさんの立ち位置について

参考事例において、Xさんは、所得税法違反の共犯、つまり一緒になったとして刑事裁判にかけられています。
もっとも、XさんとAさんの関係性は、実際には、Aさんから半ば強制的にさせられたのか、Xさん自身も何かしらの利益を受け取っていたのか、そもそもXさんは脱税について認識がなかったのかなど、事業者(会社も同様)によって様々なものが想定されます。
参考事例のような共犯事件においては、多かれ少なかれこの点が問題となる事案がほとんどです。

4 弁護活動について

そこで、Xさんとしては、どのような立ち位置だったのか、それを法律的にはどのような説明をしていくべきなのかを慎重に検討すべきです。
そして、Xさんがどのような説明をしていくべきかは、参考事例のように裁判になった後ではなく、捜査を受ける段階から問題となります。
ですので、Xさんとしては、Aさんに税務調査が入るなどして、今後、脱税の容疑がかけられる可能性が出てきた段階で、弁護士に相談し、今後、取調べなどでどのように説明していくか、アドバイスを受ける必要があります。
上に挙げた新潟地裁の判決においても、Xさんのような立ち位置の人に対し、その「関与なくしては成り立たなかった」として、懲役刑が科され、執行猶予が付されています。

5 最後に

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、脱税事件に強い弁護士が所属し、多数の脱税事件を取り扱っています。脱税の共犯に疑われているなどで不安に感じていらっしゃる方は、初回の相談は無料ですので、お気軽にお問い合わせください。

【報道解説】人気漫画「薬屋のひとりごと」作画担当の女性に所得税法違反で有罪判決

2024-07-31
判決

人気漫画の作画担当の女性に対し、福岡地方裁判所が所得税法違反で有罪判決を下した事件について、報道をもとに弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。

【報道の内容】

所得税4700万円を脱税したとして、人気漫画「薬屋のひとりごと」 作画を担当する漫画家の女に24日、懲役10か月、執行猶予3年、罰金1100万円の判決が言い渡されました。
所得税法違反の罪に問われていたのは、「ねこクラゲ」のペンネームで人気漫画「薬屋のひとりごと」の作画を担当する福岡市の漫画家です。
起訴状によりますと、被告は2019年から3年間のおよそ2億6000万円の所得期限までに確定申告せず所得税4700万円の納付を免れた罪に問われていました。
判決で裁判官は「作画を担当する漫画が人気を博したため多額の所得を得るようになったにもかかわらず、3年間にわたり確定申告を行わず、およそ4700万円の所得税を免れた」と認定しました。
そして「事務作業が極めて不得手で金銭への関心が薄く、年齢相応の社会制度に対する理解も不足した被告が急激に人気漫画家となり、確定申告の重要性を軽く見て目の前の仕事やプライベートを優先させ、事務作業から逃げ続けた結果」と指摘しました。
その一方で「2022年に修正申告を行い加算税などをすでに納付していること、後悔と反省をし、税理士に依頼して2022年度以降は確定申告を行っていて、再度、脱税行為に及ぶ可能性は低い」として、懲役10か月、執行猶予3年、罰金1100万円の判決を言い渡しました。
被告は初公判で起訴内容を認めた上で「免れようという気持ちはなく、数年分をまとめて申告しようと思っていた」と話していました。
検察側は冒頭陳述で「漫画の原稿の締め切りを優先し、確定申告の書類整理がおっくうだった」「脱税した金を実家の建て替えに使った」などと指摘し、懲役10か月、罰金1400万円を求刑していました。
裁判官は判決公判の最後に「これからはうっかりでしたということでは済まされないので、いろんなことに気をつけて生活してください」と言葉をかけました。
(令和6年7月24日付Yahoo!ニュース https://news.yahoo.co.jp/articles/967e997ddc708351a6d77e934171b38a3216e406 一部プライバシー保護のため改変しています)

どのような罪に問われたのか

報道によると、被告人の女性は、3年間で約2億6000万円の所得を期限までに確定申告していないことにより、所得税約4700万円の納付を免れた罪に問われたとされています。
所得税法には、所得税を免れた罪については大きく分けて2つの罪が規定されています。
一つは、いわゆる「虚偽逋脱犯」と言われる、「偽りその他不正の行為により、所得税を免れた」場合に問われる罪です。
もう一つは、「単純逋脱犯」と言われる、「偽りその他不正の行為によらずに、単に所得税を免れた」場合に問われる罪です。
虚偽逋脱犯の場合には、偽りその他不正の行為によって所得税を免れているので、脱税の認識が強く認められ、悪質性が高いといえることから、「10年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。」と定められています(所得税法238条1項)。
一方、単純逋脱犯の場合には、所得を殊更に隠したり、虚偽帳簿を作成したりといった明らかに納税を免れようとする強い意思が現れているような行為をしていないなど、悪質性が低いと思われることから、「5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。」と定められています(所得税法238条3項)。
今回の事件では、確定申告を怠って所得税を免れていますが、「偽りその他不正の行為」という話が出てきていないので、「単純逋脱犯」の罪のうち単純無申告逋脱犯として罪に問われたと考えられます。
しかし、そうすると、法律では500万円以下と罰金の額が定められているのに、判決では罰金1400万円とされているのはなぜなのかという問題が出てきます。
この罰金の金額については、所得税法238条4項で、「免れた所得税の額が500万円を超えるときは、情状により、罰金は、500万円を超えその免れた所得税の額に相当する金額以下とすることができる。」とされています。
そのため、今回の事件でも、免れた所得税の額は約4700万円となっていますので、罰金の上限額を4700万円まで引き上げることができ、そのため、1400万円の罰金刑を科すことができたのです。

判決の重さは妥当なのか

検察官は懲役10カ月、罰金1400万円を求刑しています。
求刑とは、検察官が裁判官に対して、「これくらいの重さの判決を下してほしい」というお願いをすることで、裁判官は検察官の求刑をもとに判決の重さを検討することがほとんどです。
裁判官は検察官の求刑に縛られるわけではないので、検察官の求刑を超えてより重い判決を下すこともできますが、多くの場合には求刑よりも軽い判決が下されます。
今回の事件でも、懲役10カ月に執行猶予3年つけており、罰金も1100万円となっています。
懲役刑は上限5年まで下せますが、被告人が初犯であり、修正申告を行って加算税も含めて免れた所得税をすでに納付していること、うっかりということであり強く脱税しようと思っての犯行ではなかったことなどが考慮されて、検察官も懲役10月を求刑したと考えられます。
また、罰金刑については、免れた税額の2~3割程度とされることが多いようです。
今回の判決でも免れた所得税の約2割ちょっとの罰金刑を下しているので、相場のとおりということができるでしょう。

脱税で刑事裁判を受けることになったら

脱税事件で刑事裁判を受けることになった場合、100%有罪となっています。
そのため、できるだけ軽い刑罰で済むように活動していくことが必要です。
前科の有無や動機も重要ですが、修正申告や納税を行っているかなどは事後的な事情の中でも特に重要な事情となります。
裁判になる前から、修正申告や納税に向けた活動を開始しておくことによって、裁判で有利になります。
また、裁判になる前の捜査段階でどういった内容を供述するのかも非常に重要です。
捜査でしゃべった内容は、基本的に裁判で証拠となるため、なんでもかんでもしゃべっていると、思っていたよりも重い刑罰を受けることになりかねません。
そのため、脱税事件の捜査を受けることになったら早急に弁護士を付けてしっかり対応していきましょう。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は、脱税事件を多く扱っている全国でもめずらしい法律事務所です。
初回相談は無料ですので、脱税事件でお困りの方は、一度ご相談にお越しください。

【事件解説】名古屋国税局が「頂き女子りりちゃん」を告発

2024-06-26
報道

いわゆる「頂き女子りりちゃん」を名古屋国税局が告発した事件について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。

事件の概要

恋愛感情に付け込んで男性をから得た詐取金を税務申告せず、約4000万円を脱税したとして、名古屋国税局は、いわゆる「頂き女子りりちゃん」ことA氏を所得税法違反容疑で名古屋地検に刑事告発しました(2024年1月31日付け発表)。
A氏は、SNS上で「頂き女子りりちゃん」を名乗り、中年男性に対して「困窮している」などと嘘をついて金銭的な支援を受ける方法を発信。名古屋地検は、2021年3月~2023年8月に、この方法で複数の男性から1億5000万円以上をだまし取ったなどとして詐欺、詐欺幇助の罪で、先にA氏を起訴しており、A氏は公判中でした。名古屋国税局によると、A氏が得た詐取金のうち2021年~2022年に得た詐取金計約1億1000万円分が告発の対象となり、A氏は、同詐取金の税務申告を怠ったことで、所得税約4000万円を免れた疑いがあるとのことです。A氏は、脱税で得たとされる資金はホストクラブなどに使っていました。
2024年1月31日、朝日新聞デジタルの記事より。一部改変)

詐欺によって得た利益も課税対象になるか

犯罪等違法な手段で金銭を得たとした場合、正直に税の申告をする者などいないように思われます。しかし、A氏がだまし取った金銭は所得に該当します。
この点、所得税基本通達36-1は、「法36条1項に規定する『収入金額とすべき金額』又は『総収入金額に算入すべき金額』は、その収入の基因となった行為が適法であるか否かを問わない」と規定しており、今回のように犯罪によって得た利益も適法な手段で得た利益と同様に所得と見なされるからです。
A氏は、だまし取った金銭をホストクラブで費消しているとのことであり、納税できない可能性が高いですが、お金がないからといって脱税が許されるというものではありません。

刑事告発後の経過について

本事件では、所得税法違反で名古屋地検に告発がなされています。
告発された後、本件脱税事件も起訴され、A氏は、2024年3月15日の公判期日で、脱税事件の起訴内容を認めました。そして、この日、A氏は、検察官から懲役13年及び罰金1200万円を求刑され、同年4月22日、名古屋地裁は、A氏に対して懲役9年及び罰金800万円の実刑判決を言い渡しました(もっとも、その後、A氏が控訴したことで判決はまだ確定していません)。
本件は、詐欺罪の被害額が大きいため、詐欺罪だけでも実刑の事案ですが、脱税以外にも立件された事件がある場合、他に立件された事件が本件のように脱税と密接に関連するケースでは、そうでないケースと比較してより犯情が悪くなります。したがって、脱税にプラスして脱税に密接に関連する事件が立件された場合、事件全体の量刑が実刑となる可能性が高くなるといえます。常に法律を遵守し、適法な手段で利益を得、適正に納税することが大切であることはいうまでもありません。

罰金の額は、脱税額の20~30パーセントであるのが通常

本件では、A氏に対し、罰金800万円が言い渡されています。詐欺罪には、懲役刑しかなく罰金刑はありませんので、この罰金800万円は、脱税の事件に関してのものです。
脱税の金額約4000万円に対して罰金額800万円が言い渡されており、罰金額が脱税の金額の約20パーセントであることから、通常の量刑の相場に沿った罰金額だといえます。

刑事告発を受けたら

脱税事件によって刑事告発をされたら、すぐに弁護士に相談しましょう。
告発を受けた場合には刑事手続が開始されます。刑事事件に強い弁護士に依頼をすることで、不起訴を勝ち取れたり、刑事裁判の結果が軽くなる可能性が出てきます。

アンダーバリュー取引は脱税です

2024-06-05
脱税捜査

輸入時のアンダーバリュー取引について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。

アンダーバリュー取引とは

財務省貿易統計によると、2022年の日本の輸出入総額は、輸出が約98兆1736億1千万円、輸入が約118兆5031億5千万円で、輸出入ともに過去最多となりました。
輸入貨物の場合、関税や消費税がかかります。アンダーバリュー取引とは、輸入時に実際の取引価格よりも安い価格で税関に申告し、関税や消費税を安く抑えようとする不正な取引のことです。
関税や消費税は、申告価格に対して課せられます。そのため、仮に真実の売買契約では、商品の単価を10ドルで契約し、輸入者は、輸出者に対してその金額を支払うにもかかわらず、輸出者の請求書(インボイス)に商品は8ドルと記載してあり、その価格で輸入申告すれば、差額である2ドルには関税や消費税がかからないことになります。

アンダーバリュ―取引は法律に違反する行為である

実際の取引価格を故意に偽って申告することは明らかな虚偽申告であり、脱税です。このような事態は通常考えられないのではないかとの疑問もあろうかと思います。しかし、貿易取引は、商慣習の異なる国との間の取引なので、国によっては、このようなアンダーバリュー取引がまかり通っている国もあり、そのような国から輸入する場合、なかには、輸出者が輸入者のことを思って好意でアンダーバリューのインボイスを送ってくる可能性があるので要注意です。
財務省によると、令和4事務年度に輸入者に対して行われた税関の事後調査によると、申告漏れ等に係る追徴税額は約98億1千万円(前事務年度比152.1%)であり、そのうち主な申告漏れ等の事例としてアンダーバリュー取引が指摘されているところです(税関が行う事後調査とは、輸入者の場合、輸入された貨物に係る申告・納税が適正に行われているか否かを調査するために税関職員が個別に訪問し、帳簿や書類等の確認を行う調査のことをいいます。)。
また、輸入者が、たとえインボイスの記載価格が実際の取引価格よりも低い価格と気づかずに申告した場合でも、税関にみつかれば過少申告として加算税が課されたりすることになります。こうした事態を避けるためには、実際の取引価格とインボイスに記載された価格を正確に合わせ、正しい価格の申告をすることを徹底する必要があります。もし、申告後にアンダーバリューに気付いたときには、すぐに修正申告をしましょう。
逆に、自社が輸出者であり、海外の輸入者から、「アンダーバリューのインボイスを発行して欲しい。」と言われる可能性もあります。しかし、このようなアンダーバリュー取引は、いずれの国でも違法ですから、相手の要求に応ずれば、違法行為に加担することになります。したがって、きっぱりと断ることが必要です。

アンダーバリュー取引であることが発覚した場合

アンダーバリュー取引であることは、税務調査が入ったときにほぼ確実にばれます。インボイス等は、税務調査において確認しやすい書類だからです。
アンダーバリュー取引であることが発覚したときには、不足分の関税や消費税に加え、過少申告加算税と延滞税が課されます
また、仮装隠ぺいなど悪質性が高いと判断された場合には、過小申告加算税に代えて重加算税が課せられます。
アンダーバリュー取引を行っていた会社としてブラックリストに上げられ、今後の通関の際には、厳しいチェックが入ることになります。
さらに、納める額が大きく、悪質な輸入者であることが判明した場合、脱税事件として刑事事件として告発されることもあります。その場合、起訴されれば懲役刑や罰金刑を受ける可能性があります。

最後に

申告・納税しなければならないのにしていない方は、早めに税理士や弁護士といった専門家に相談しましょう。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、刑事事件を中心として扱っていますが、税法についても知識のある弁護士がそろっています。
初回の相談は無料ですので、一度ご相談にお越しください。

脱税工作のために支出金を出していた会社の問題

2024-05-29
不法な利益

脱税工作のための支出金を出していた会社における問題について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。

事例

X会社は、架空の経費を計上して所得を秘匿し、法人税を過少に申告しました。X会社は、架空の経費を計上することについて協力した者に手数料を支払っていましたが、この手数料の金額については、損金として所得から控除されると考えていました。

違法な支出も法人所得計算上、損金算入される?

違法な支出、たとえば、架空の経費を計上するため(脱税をするため)に、協力をしてもらった者に支払った手数料(脱税工作金)ついても法人所得計算上、損金算入されるのでしょうか。
この点が争われた事件で、最高裁判所は、「架空の経費を計上して所得を秘匿することは、事実に反する会計処理であり、公正処理基準に照らして否定されるべきものであるところ、右手数料は、架空の経費を計上するという会計処理に協力したことに対する対価として支出されたものであって、公正処理基準に反する処理により法人税を免れるための費用というべきであるから、このような支出を費用又は損失として損金の額に算入する会計処理もまた、公正処理基準に従ったものであるということはできないと解するのが相当である。」として、法人税法22条4項の「公正処理基準」を根拠に損金性を否定しました(最高裁平成6年9月16日第三小法廷決定・刑集48巻6号357頁)。
 本件は、不動産売買等を目的とする被告会社が架空造成費を計上して所得を秘匿し、法人税を過少に申告したとして法人税法違反で起訴された事案です。被告会社は、架空の土地造成工事に関する見積書等を提出するなどして脱税工作に協力した者に支払った「手数料」は被告会社の法人所得計算上、損金として所得から控除されるべきであると主張していたものです。

現在の立法

こうした判例を踏まえて、平成18年度の税制改正で、次のような条文が規定されました。
法人税法55条1項
内国法人が、その所得の金額若しくは欠損金額又は法人税の額の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装すること(以下「隠蔽仮装行為」という。)によりその法人税の負担を減少させ、又は減少させようとする場合には、当該隠蔽仮装行為に要する費用の額又は当該隠蔽仮装行為により生じる損失の額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない
この規定ができたことで、現在では、脱税工作金について法人所得計算上、損金算入できないことは明らかになっています。また、法人税法55条は、賄賂を渡すことなどについても、損金算入を認めていません。

条文に記載されていない違法支出について

もっとも、既に述べたように条文に明記されていれば別ですが、条文で損金に算入できないことが明確に記載されていない違法支出については、どうでしょうか。この点、損金算入が認められるか否かについて未だ争いがあるところです。条文が禁止していなければ損金算入できるという考えも成り立つと思います。他方で最高裁平成6年決定のように、法人税法では、その所得金額の計算においては、公正処理基準に従って会計処理を行うとされているので(法人税法22条4項)、公正でなければならないという点を強調すれば、広く一般に違法支出の損金算入は認められないと考えも成り立つと思います。

最後に

法人税法違反があるなどとして刑事事件化した場合には、脱税事件に強い弁護士のサポートが不可欠といえます。課税処分に不服がある場合にはこちらhttps://datsuzei-bengoshi.com/fufukumousitate/
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、刑事事件を中心として扱っていますが、税法についても知識のある弁護士がそろっています。
初回の相談は無料ですので、一度ご相談にお越しください。

【報道解説】単純無申告罪とは

2024-05-22
所得税

単純無申告罪として起訴されたとする報道について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。

1 報道の内容

 漫画家としての所得を申告せず4700万円を脱税したとして、福岡地検は漫画家池田恵理香容疑者(36)を所得税法違反(単純無申告)で福岡地裁に在宅起訴した。2日付。

 起訴状などによると、池田容疑者は2019年から21年までの3年間で、出版社からの原稿料や印税収入で計約2億6000万円の所得があったが、期限までに確定申告書を提出せず、所得税約4700万円を脱税したとしている。

 関係者によると、池田容疑者はペンネーム「ねこクラゲ」で活動し、月刊誌で連載中の人気漫画「薬屋のひとりごと」の作画を担当している。

引用:読売新聞オンライン「『薬屋のひとりごと』作画の漫画家、4700万円脱税で在宅起訴…2億6000万円申告せず」(2024.4.5)
https://www.yomiuri.co.jp/national/20240405-OYT1T50048/

2 単純無申告罪とは

報道にある、所得税法上の単純無申告罪とは、正当な理由なく納税申告書(確定申告書等)をその提出期限までに提出しないことで成立する犯罪であり、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する(ただし、情状により、その刑を免除することができるとされています)とされています(所得税法241条)。

報道にありますように、収入(報道では原稿料や印税収入)が発生している場合、所定の日までに納税すべき額を確定させるための手続として、確定申告を行う必要があります。
これを怠った場合、単純無申告罪として、処罰の対象となります。

3 確定申告書の提出を怠った場合の対応・注意点・弁護活動

所定の期限までに確定申告書を提出しなかった場合、上記のように刑罰を科される可能性があります。
なお、正当な理由がある場合には、単純無申告罪は成立しないことになりますが、少なくとも確定申告をする必要があることをしらなかったということでは、正当な理由があるということになりません。

それ以外にも、本来納付すべきだった税金に加え、ペナルティとしてかされる税金(延滞税や加算税と呼ばれます。)を納付する義務が生じます。
そこで、確定申告書の提出を怠った場合には、なるべく早期に、自ら正しい申告(修正申告と呼ばれます。)を行い、ペナルティとして課される税金を含めた税金を納めていくという対応が考えられます。

こうした修正申告を早期に行うことによって、(報道のように刑事裁判になった後は)より有利な判決を求めていくことが可能となります。
さらに、報道とは異なり、刑事裁判となる前であれば、本来納付すべき税金の額や申告を怠っていた期間などにもよるとは思いますが、早期に修正申告、納税をすることにより、弁護士が、検察官に対し、不起訴や正式な裁判手続によらずに罰金刑とするように求めていくという動きが考えられます。

もっとも、修正申告をするといっても、事案に応じて様々な検討をする必要があります。
報道においては、所得税のみが問題となっているようですが、それとは異なり、消費税や住民税も問題となるような場合において、すべての税金を、ペナルティとして課されるものも含めて一度に支払うだけのお金がないとき、どの税金を優先して対応していくのか検討する必要があります。
そういった場合においては、弁護士が、刑事事件における見通しなどを踏まえて、場合によっては税理士さんと協力しながら対応していく必要があります。

4 最後に


弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、脱税事件に強い弁護士が所属し、所得税法違反など多数の事件を取り扱っています。脱税事件の容疑を掛けられ、刑事裁判に掛けられた方、税務署による調査などが入ってしまい不安の方、初回の相談は無料ですので、お気軽にお問い合わせください。

【裁判例解説】無利息で貸し付けたのに収益が発生?

2024-04-17
無利息貸付

無利息で貸付を行った際にも、利息相当額の収益を計上しなければならないかが争点となった事例について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。

1 事例

株式会社X(以下、「X社」といいます。)は、子会社である株式会社T(以下、「T社」といいます。)に対し、その事業達成を援助する目的で、期間を3か年に限り、4000万円を限度として、「無利息」で融資する契約を締結しました。
そして、X社は、この契約に基づき、T社に対して、○年度において、2000万円を融資しました。
これに対し、税務署長Yは、X社の融資について、通常当事者間で行われる融資における利率による利息相当額を収益として計上する旨の更正処分をしました。
(なお、事例につきましては、実際の裁判例を若干修正、簡略化しています。)

2 争点~法人税法22条2項

法人税法21条1項において、法人の「各事業年度の所得の金額」は、「当該事業年度の益金の額」-「当該事業年度の損金の額」とされています。
その上で、同条2項において、益金の額に算入すべき金額には、「無償による資産の譲渡又は役務の提供」により生じた収益を含むとしています。
こうした法律からすれば、X社のT社に対する融資は、無償による役務の提供として、利息相当額の収益が発生しているものとも考えることができることから問題となりました。
なお、現在、この点については、平成30年に法人税法が改正され、22条の2が設けられ、法律上の解決がなされていますが、この後紹介する裁判例は、またそのような規定がない頃の判断です。

3 裁判所の見解について

この点が問題となった大阪高裁昭和53年3月30日判決(判時925号51頁)は、X社が行ったのが無利息の融資であったとしても、X社には、通常、当事者間で行われる利息相当額の収益があり、その分を計上する必要があるとしました。
その上で、X社のそうした収益は、X社がT社に無償で給付(すなわち寄付)したであるとし、法人税法37条1、7項により、一定限度を超える寄付については損金計上できないとしました。
実際の判決文は、次のとおりです。
「資産の無償譲渡、役務の無償提供は、実質的にみた場合、資産の有償譲渡、役務の有償提供によって得た代償を無償で給付したのと同じである」とした上で、「営利法人が金銭(元本)を無利息の約定で他に貸付けた場合には、借主からこれと対価的意義を有するものと認められる経済的利益の供与を受けているか、あるいは、他に当該営利法人がこれを受けることなく右果実相当額の利益を手離すことを首肯するに足りる何らかの合理的な経済目的その他の事情が存する場合でないかぎり、当該貸付がなされる場合にその当事者間で通常ありうべき利率による金銭相当額の経済的利益が借主に移転したものとして顕在化したといいうるのであり、右利率による金銭相当額の経済的利益が無償で借主に提供されたものとしてこれが当該法人の収益として認識される」。

4 現在の法律―法人税法22条の2第4項

先ほども少し触れましたが、現在は、法人の資産の販売・譲渡、役務の提供において、原則として、その販売・譲渡をした資産の引渡時の価額、その提供した役務について通常得るべき対価の額に相当する金額を収益とするという法律が設けられています(法人税法22条の2第4項)。

5 予想される問題点・弁護活動

以上のような裁判例、法人税法22条の2第4項の規定からすれば、たとえば、無償で第三者に会社の資産を譲った場合においても、その資産の引渡時の価格を収益として計上する必要があることになり、これを怠ると、法人税法違反(場合によっては消費税法違反も)となります。
こうしたことは、税務調査の場面で問題になることが考えられますし、他にも脱税をしており、査察を受けている場面でも問題になることも考えられます。
もっとも、大阪高裁が指摘するように、①対価的意義を有する経済的利益の供与を受けていたり、②対価を受けることがなく利益を手離すことに合理的な経済目的がある場合には、収益として計上する必要がないという解釈も可能です。
そこで、こうした点が問題になった場合には、弁護士に的確なアドバイスを受け、仮に収益として計上する必要がある場合には、その旨の修正申告をするといったことが考えられます。

5 最後に

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、脱税事件に強い弁護士が所属し、法人税法違反など多数の事件を取り扱っています。法人税法違反の疑いがあるとして税務調査を受けた方は、初回の相談は無料ですので、お気軽にお問い合わせください。

【制度解説】青色申告制度

2024-03-27

青色申告制度について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。

1 青色申告とは

青色申告とは、税務署長の承認を受けて、青色の申告書を用いて行う納税申告のことをいいます。
各事業年度の所得に対する法人税や不動産所得・事業所得または山林所得を生ずる業務を行う個人の所得税などについて認められています。
青色申告は、帳簿書類を基礎とした正確な申告を勧めるための制度であり、青色申告を行うことに対する特典が用意されています。

2 青色申告における特典

青色申告を行うことによって享受できる特典には、次のようなものがあります。
青色申告を行った者に対しては、青色申告特別控除という制度が設けられており、簡単にいえば、支払うべき税金を減らすことができます。
また、所得税法・法人税法および租税特別措置法の規定の多くは、青色申告の場合に限って適用されることになっています。
こうしたことと同様に、青色申告と白色申告(通常の納税申告)を通じて適用される措置についても、青色申告を行った者により多くの利益が与えられているものもあります。
つまり、青色申告を行った者だけが税制上の優遇措置を受けることができるとされています。
その他、青色申告に対し、更正(間違った申告内容を正すことです)が行われる場合、推計によって行うことができないといった違いもあります。

3 青色申告を行うためには

先ほども少し説明しましたが、青色申告を行うためには所轄税務署長の承認を受ける必要があります。
この承認を受けようとする者は、一定の事項を記載した申告書を税務署長に提出する必要があります。

4 青色申告の承認の取消し

青色申告を行うために上記の承認を得たとしても、一定の事実が存在する場合には、税務署長は、その承認を取り消すことができるとされています(所得税法150条1項、法人税法127条1項)。
その一定の事実とは、
その年における帳簿書類の備え付け、記録または保存が財務省令で定めることころ、または電子帳簿保存法の関係規定にかかる財務省令で定めるところによって行われていないこと
その年における帳簿書類について税務署長の指示に従わなかったこと
その年における帳簿書類に取引の全部または一部を隠蔽しまたは仮想して記載・記録し、その他その記載・記録事項の全体についてその真実性を疑うに足りる相当の理由があること
確定申告書をその提出期限までに提出しなかったこと
連結納税の承認取消(④、⑤については法人税法のみ)
が挙げられます。
なお、現金売上の一部等を除外した帳簿書類を作成した上で内容虚偽の青色申告書を提出し、法定納期限までに納付すべき税の一部を納付しなかった場合において、青色申告承認処分が過去に遡って取り消され、先ほど説明した特典がなかったもの(たとえば、青色申告控除が受けられなくなるなど)として、その分についても納付すべき税額に含まれるかが問題となった事案において、判例は、その部分についても納付すべき税額に含まれるとしています(最高裁昭和49年9月20日判決・刑集28巻6号291頁)。
過去に遡って、その分の税金を納める必要があるとすれば、その金額は高額になる可能性も十分あります。
税務調査を受け、結局、青色申告の承認が取り消される可能性が出てしまった場合には、少しでも負担を減らすことができる道を模索する必要があります。
また、税務調査の結果、脱税しているとされた場合、その金額などのよっては、刑事責任を問われる可能性も出てきます。

5 最後に

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、脱税事件に強い弁護士が所属し、所得税法違反、法人税法違反など多数の事件を取り扱っています。税務調査を受けた方は、初回の相談は無料ですので、お気軽にお問い合わせください。

所得税における所得の帰属について

2024-03-20
所得税

所得税において所得が誰に帰属するか、すなわち所得の人的帰属の問題について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。

実質所得者課税の原則

所得の帰属とは、ある所得があった場合にそれを誰に帰属すべきかという問題です。
所得税における所得の帰属について、所得税法12条に、実質所得者課税の原則と呼ばれる規定が置かれており、「資産又は事業から生じる収益の法律上帰属するとみられる者が単なる名義人であって、その収益を享受せず、その者以外の者がその収益を享受する場合には、その収益は、これを享受する者に帰属するものとして、この法律を適用する」としています(なお、法人税法11条、消費税法13条にも同様の規定があります。)。
たとえば、その仕事の性質上、名義人の名義を借りて仕事をしている場合には、その名義を貸した名義人ではなく、借りた名義を利用して仕事をし、その利益を得ている人が申告、納税をする必要があることになります。

この規定の理解の仕方(解釈)には2つの見解がある

まず1つの考え方は、所得税法12条は、単なる名義人と法律上の真の所有者がいる場合に、法律上の真の所有者に課税することを定めたものと解する立場です。この考え方は、法律上の形式と法律上の実質を区別し、実質に即して帰属を判定すべきであるというものであり、法的帰属説といわれます。真の法律関係を明確にすべきことは、税法の場合に限らず全ての法領域において当然の要求ですから、この考え方によれば、実質所得者課税というのは税法独自の原則ではなく、当然のことを規定した確認規定ということになります。
もう1つの考え方は、所得税法12条は、法律上の所有権者と経済上「収益を享受する」者とがいる場合に、経済上「収益を享受する」者に課税することを定めたものと解する立場です。この考え方は、所得の法律上の帰属と経済上の帰属を区別し、経済上の帰属という面に着目して帰属を判定すべきであるというものであり、経済的帰属説といわれます。したがって、実質所得者課税の原則は、税法固有の原則であるということになります。
条文上はいずれの解釈も可能です。しかし、法的実質と経済的実質が異なる場合とは具体的にどのようなケースであるのか必ずしも明確ではありません。私法上の法律関係に応じて課税関係が決まる方が納税者の予測可能性が高まること等から、法的帰属説の考え方が通説とされています。

事業から得られる所得の帰属について

所得税基本通達12-2は、「事業主から生ずる収益を享受する者がだれであるかは、その事業を経営していると認められる者(「事業主」という。)がだれであるかにより判定するものとする。」と規定しており、事業から得られる収益は、基本的にはその事業の事業主(事業を経営している者)に帰属すると考えられますいます。)。法的帰属説の立場からは、「事業主」とは、法律的な意味でその事業を実質的に経営している者(経営主体)だということになります。
しかしながら、事業主が誰かの判断は必ずしも容易なことではありません。特に親族による家族経営の場合の事業主の判定には困難が伴います。そのため、課税実務においては、通達でいくつかの判断基準が規定されています。
所得税基本通達12-5によると、生計を一にする親族間における事業(農業を除く)の事業主がだれであるかの判定は、まず、その事業の経営方針の決定につき支配的影響力を有すると認められる者を事業の事業主と推定します。
次に、誰がその事業の経営方針決定につき支配的影響力を持つ者か明らかでないときは、原則として、「生計を主宰している者」が事業主と推定します。
この点は、判例があり、歯科医師の親子が親の歯科医院でともに診療に従事していた場合の事業主の判断が争われた事案(親子歯科医師事件)において、裁判所は、ある事業による収入はその経営主体であるものに帰したものと解すべきとした上で、従来父親が単独で経営していた事業に新たにその子が加わった場合においては、特段の事情のない限り父親が経営主体で子は単なる従業員としてその支配に入ったものと解するのが相当であるなどとして、医院の経営に支配的影響力を有しているのは父であり、その経営による本件収入は経営主体である父に帰すると判断しています(東京高判平成3年6月6日訴月38巻5号878頁)。この判決も上記通達と同様の考え方に立つものと考えられます。

最後に

誰に課税されるのかという判断を間違うと、課税されるべき人の確定申告が間違いであったということになり、過少申告加算税などのペナルティを受ける可能性があります。所得の帰属について迷った場合には、税理士ないし弁護士等の専門家に早めに相談しましょう。(課税処分に納得ができない場合には、こちらの記事も参照してください。https://datsuzei-bengoshi.com/fufukumousitate/)

確定申告をしなかったことが重大な犯罪になる場合とは

2024-03-13
刑事事件

確定申告を怠った場合の刑事責任について、事例を参考に、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。

1 事例


一人親方として、内装工事などを行っていたAさんは、売上の管理を怠っていたため、売上を、自身の名義の口座に入れてもらう場合もあれば、妻であるBさんの口座に入れてもらうようにしていました。
Aさんは、開業以来、自身の名義の口座に入った分のみについて確定申告を行ってきましたが、次第に、申告して納付するのは馬鹿馬鹿しいと考えるようになり、令和○年分は確定申告をしませんでした。

2 確定申告をしないとどうなる?


所得税の納税義務は期間の経過によって成立し、一定の確定手続を経て納付すべき税額が確定します。
納付すべき税額を確定させる手続が確定申告と呼ばれるものです(所得税法120条1項)。
会社員のように源泉徴収される人は、その収入のみであれば確定申告を行う必要はありません。
しかし、今回の事例のような個人事業主として収入を得ている人や、会社員であっても副業や投資などで収入があった人については、確定申告を行う必要があります。
正当な理由がなく確定申告を行わない人については、単純不申告罪として、1年以下の懲役または50万円以下の罰金に処するとされています(所得税法241条本文)。
また、故意に確定申告書等を提出しないことにより租税を免れた場合、単純不申告逋脱(ほだつ)罪として、5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金(または罰金を併科)に処するとされています(所得税法238条3、4項)。

3 Aさんはさらに重い罪に問われる?


ところが、Aさんのような人が、上記の犯罪ではなく、(狭い意味での)逋脱罪(以下、単純に「逋脱罪」というときは、狭い意味での逋脱罪をいいます。)とされた事例があります。
この場合の法定刑は、10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金(または罰金を併科)とされています(所得税法238条1項)。
逋脱罪とは、「偽りその他不正の行為により」、所得税を免れた場合をいいます。
「偽りその他不正の行為」とは、逋脱の意図をもって、その手段として税の賦課徴収を不能もしくは著しく困難ならしめるようななんらかの偽計その他の工作を行うことをいいます。
そうすると、Aさんは、売上の一部を妻名義の口座に入れてもらっていたにすぎず、税の賦課徴収を不能もしくは著しく困難ならしめるようななんらかの偽計その他の工作を行ったとはいえないようにも思われます。
しかし、判例は、売上を帳簿に正確に記載していたところ、その一部を仮名・借名の預金口座に入金保管した事例で、逋脱罪の成立を認めました(最高裁平成6年9月13日決定・刑集48巻6号289頁)。
この決定では、「仮名又は借名の預金口座に売上金の一部を入金保管することは、税務当局による所得の把握を困難にさせるものであることに変わりはなく、ほ脱の意思に出たものと認められる以上、所得秘匿工作に当たる」としています。

4 予想される問題点・弁護活動


ここで注意すべきなのは、売上を仮名や借名の預金口座にて入金管理していたことで直ちに逋脱罪に該当するわけではないと考えられることです。
当然ですが、たまたま手違いでそうした預金口座に入金されていたということであれば、逋脱罪が成立しない可能性もあり、結局はケースバイケースと言わざるを得ません。
Aさんは、税務調査や査察を受け、さらには検察官へ告発されるということが考えられます。
そうした手続の中で、税務署、国税庁、検察庁にどのように説明していくかというのは非常に重要になり、弁護士によるアドバイスを事前に聞いて、そうした調査などに対応していく必要があります。

5 最後に


弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、脱税事件に強い弁護士が所属し、所得税法違反など多数の事件を取り扱っています。所得法違反の疑いがあるとして税務調査を受けた方は、初回の相談は無料ですので、お気軽にお問い合わせください。

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