このページの目次
1 不起訴の種類について
まず不起訴になる場合として大きく分けて起訴猶予での不起訴と、嫌疑なし・嫌疑不十分での起訴があります(その他にも不起訴の種類はありますが脱税事件では珍しいので詳細な説明は割愛します)。
以下ではそれぞれの不起訴の類型について説明していきます。
2 起訴猶予について
被疑事実が明白な場合において、被疑者の性格、年齢及び境遇、犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の状況により訴追を必要としないときにする処分を起訴猶予といいます。
不起訴処分の中で圧倒的な割合(90%程度)を占めており、事件の約60%が起訴猶予処分により終結します。
起訴猶予に当たって考慮される事項は、主に
- 犯人に関する事項
- 犯罪行為に関する事項
- 犯行後の状況に関する事項
です。
①犯人に関する事項とは前科、前歴の有無です。前科、前歴がなければ起訴猶予に傾きやすく、一方で特に同種前科・前歴がある場合には起訴される可能性が高まります。
次に、②犯罪行為に関する事項については、犯罪行為の内容が悪質であればあるほど起訴の可能性が高まります。
更に、③犯行後の状況については、法律が被害や法益侵害と考えていることに対して事後的にそれを回復しているかが重要になります。
脱税事件で事実を争わない場合に不起訴を勝ち取るには基本的にこの起訴猶予を狙うことになります。
特に脱税事件の起訴、不起訴の判断の上で重要なのは①の脱税を繰り返し、または組織的にやっていたかという事情や、②の脱税額や回数、脱税態様の悪質性などが重視される傾向にあるようです。
ですので、まずはしっかりとした取調べ対応を行うことで、以上の事情についてなるべく被疑者の有利に認定されるように取調べなどの捜査に対応する必要があります。
また脱税事件では、事後的に法益侵害を回復する方法として修正申告及び修正申告に基づく納税が挙げられます。
これを行うことで、③犯行後の状況に関する事項として起訴不起訴の判断の際に有利に考慮してもらうことができます。
したがって、修正申告等は検察官が起訴の判断をする前に早急に行っていくことが重要になります。
3 嫌疑なし・嫌疑不十分
被疑事実につき、被疑者がその行為者でないことが明白なとき、又は犯罪事実を認定すべき証拠のないことが明白なとき、又は犯罪事実を認定すべき証拠の無いことが明白なときを「嫌疑なし」といいます。
一方、被疑事実につき、犯罪の成立を認定すべき証拠が不十分なときにする処分を「嫌疑不十分」といいます。
無罪の証拠を集めたり、捜査機関が収集した証拠の信用性が低いことなどを主張したりして、不起訴が相当であると検察官を説得することが重要です。
特に脱税事件でよくあるケースとしては、納税額やそのもとになる資料に誤った記載があったとしても、脱税をする意図で粉飾をしたわけではなく、単なる誤った記載であると認定される場合があります。
そのような場合には脱税の故意がないとして脱税犯として処罰されることはありません。
そして嫌疑なし・嫌疑不十分での不起訴を狙うために重要なのは取調べへの対応と検察官との処分交渉になります。
取調べの対応については、取調べで聞かれることを事前に弁護士と打ち合わせた上で、何を話して、何を話さないか、話すとしてもどのように弁解していくのかを準備して臨むことで、取調べで不利な事実を話すことや、不利な調書にサインするといったことをしないようにすることが重要になります。
検察官との処分交渉については、脱税の事実が認められないことを客観的な証拠や本人の言い分に沿って検察官に対して主張し、説明していくことで検察官を不起訴の方向に説得することを目指していきます。
4 最後に
以上のように、単に「不起訴を目指したい」と考えていても、個々の事情や証拠の有無によっても目指す方向性やそのために必要な行動が大きく異なっていることが分かっていただけたかと思います。
脱税事件の嫌疑をかけられた場合にはすぐに脱税事件に強い弁護士に相談して、今後目指していく方向性やそのためにどのような準備や活動を行うべきかアドバイスを受けることが重要です。