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情報照会のための手続の整備
近年の暗号資産取引やインターネットを利用した匿名性の高い取引の増加などにより、適正公平な課税を実現するためには、国税に関する調査を十全の物とする必要が出てきました。
その要請を受け、平成31年3月に国税通則法の一部が改正され、従来から事業者の協力を得て実施されていた任意の情報提供依頼にかかる権限が法令上明確化されたとともに、新たな情報照会のための手続が整備されました(「事業者等への協力要請」及び「特定業者等への報告の求め」)。
この改正法は令和2年1月1日に施行されています。
事業者等への協力要請
従来、国税庁等は、国税に関する調査について必要があるときは、官公署に対して、帳簿書類やその他の物件の閲覧や提供その他の協力を求めることができるとされていました。
しかし、事業者に対しては、税法上の根拠がなく、あくまでも事業者の任意に基づいて情報提供の依頼を実施してきました。
そのため、事業者からの協力が得られない場合があり、課税上の不公平が問題となっていました。
平成31年の国税通則法改正により、協力要請の対象に官公署のほか「事業者」が追加され、事業者に対しても法令上の根拠に基づき、国税に関する調査について必要があるときに、参考となるべき帳簿書類やその他の物件の閲覧や提供その他の協力を求めることができるようになりました(国税通則法74条の12第1項)。
あくまでも、「協力の要請」なので罰則はありませんが、根拠規定が明文化されたことにより、個人情報保護法16条3項1号及び23条1項1号における「法令に基づく場合」に該当し、個人情報保護法上の制限の対象外となることが明確となりました。
特定事業者等への報告の求め
平成31年の改正により、「所轄国税局長は、特定取引の相手方となり、又は特定取引の場を提供する事業者又は官公署(これらを「特定事業者等」という)に、特定取引者に係る特定事項について、特定取引者の範囲を定め、60日を超えない範囲内においてその準備に通常要する日数を勘案して定める日までに、報告することを求めることができる」とされました(国税通則法74条の7の2第1項)。
既存の税務調査の手続については、近年のインターネットを利用した匿名性の高い取引を行う者を特定する手段として活用することが困難とされていたため、調査の相手方を特定せずに、課税対象となるべき匿名性の高い所得を適切に把握するための手続として、この特定事業者等に対し報告を求める制度が創設されました。
特定事業者等への報告の求めは、「事業者等への協力要請」を行ったにもかかわらず、事業者等が要請に応じない場合に、必要な資料情報を適切に収集するために行使するものとされています。
もっとも、事業者等の事務負担を考慮して制度の慎重な運用を図る見地より、事業者等に対して報告を求めることができる場合及び報告を求める事項は限定されています。
たとえば、特定事業者等に該当する条件となる「特定取引」とは、電子情報処理組織(インターネット)を使用して行われる事業者等との取引等のうち、この報告の求めによらなければ取引をしている者を特定することが困難な取引とされています(国税通則法74条の7の2第3項2号)。
また、所轄国税局長が報告を求める「特定事項」は、
- 対象者の氏名(法人については名称)
- 住所又は居所
- 個人番号又は法人番号
に限定されます(国税通則法74条の7の2第3項4号)。
そして、この報告を求めることができる場合は、国税に関する調査について必要がある場合において、一定の無申告者の存在が認められる場合や税法違反の事実が推測される場合に限定されています(国税通則法74条の7の2第2項)。
この報告の求めは、国税に関する法律に基づく「処分」に該当するとされているため、報告を求められた事業者等が当該報告の求めに不服がある場合には、不服申立(再調査の請求、審査請求)や訴訟をすることができます(国税通則法75条1項、114条)。
また、この報告の求めについては、正当な理由なく拒否した場合や虚偽報告をした場合には「1年以下の懲役又は50万円以下の罰金」という罰則が設けられています(国税通則法128条3号)。
適正公平な課税のために、情報照会手続の整備がなされていますが、事業者にとっての負担は増えてしまう可能性があります。また、正当な理由なく報告を拒否してしまうと刑事罰が科されてしまう可能性があります。
協力要請にどのように対応したらよいか、報告の求めに対してどう対応したらよいかについて不安な方は、一度専門家である弁護士や税理士に相談されることをお勧めします。