【裁判例解説】脱税指南により支払ったコンサル料が損害として認められた事例

脱税手法を指南したコンサルティング会社に支払った業務委託料を損害として認定した実際の事件について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。

判決の概要

1.事案の概要
Aさんが代表取締役を務めるコンサルティング会社に、節税の手法に関する業務委託料(コンサルティング料)を支払ったBさんが、「指南された節税手法が違法な脱税手法であったのに、合法であるとの虚偽の説明をして、顧客に業務委託料を支払わせる事業を行うという任務懈怠行為に及んだ」と主張して、Aさんに対して会社法429条1項に基づく損害賠償として、コンサルティング会社に支払った業務委託料に相当する損害金約1482万円などの支払いを求めた。

2.判決
一部認容、一部棄却
※請求額の半分にあたる約741万円等の支払いを命じられた。

3.裁判所が認定した事実関係
・Aさんのコンサルティング会社は、節税のために利益を減らしたい顧客に対して、減らしたい利益と同じ額の請求書を発行し、その金額をコンサルティング会社に振り込んでもらい、その後、コンサルティング会社が取得するコンサルティング料を控除して現金を顧客に戻すという事業を行っており、顧客がコンサルティング会社に振り込む費用を顧客ではなくコンサルティング会社が用意する現金を利用することもあった。
・コンサルティング会社が提供する節税に関するコンサルティング業務は、実際には、顧客に課されるべき税金を減額する効果のないものであった。
・Bさんは、コンサルティング会社の従業員から上記コンサルティング業務は適法であると説明されて勧誘され、同社にコンサルティング業務を依頼することにした。
コンサルティング会社から現金8000万円を渡されたBさんは、自分の口座に8000万円を入金し、その口座からコンサルティング会社に8000万円を振り込んだ。
・Bさんは、コンサルティング料として、約1347万円をコンサルティング会社に現金で交付した。
・コンサルティング会社からコンサルティング料等として8000万円を請求する請求書がBさんに送られ、Bさんは確定申告で同請求書に基づき8000万円を経費として計上した。

4.裁判所が下した争点に関する判断
①争点1:Aさんに悪意又は重過失による任務懈怠があるかどうか
判断:コンサルティング会社の従業員が、適法な節税であるとの虚偽の事実を述べてBさんを勧誘して当該方法を実行させたのであるから、従業員の行為は不法行為に該当する。そして、従業員はコンサルティング会社の事業の一環として勧誘などをしているので、コンサルティング会社の代表取締役であるAさんには、従業員が違法に税金を免れる方法を適法な節税であると説明して勧誘したことについて、少なくとも重大な過失があったといえる。

②争点2:Bさんの損害額等はいくらか
判断:Bさんはコンサルティング料として約1347万円を支払っており、Aさんの任務懈怠行為により、同額の損害を被ったといえる。もっとも、8000万円を自ら負担していないにもかかわらず8000万円を経費として計上するという手法は、いかにも不自然不合理な内容の手法であるから、Bさんが違法な手法とまでは認識していなかったとしても、Bさんには相当な過失があるといえるため、5割を過失相殺する。

解説

今回の裁判例は、脱税指南を受けて実際に脱税をしていた人から、脱税指南をしていたコンサルティング会社社長に対して損害賠償を請求した事件です。
脱税指南をしていたコンサルティング会社と代表者については、令和元年及び2年に名古屋国税局により名古屋地方検察庁に告発がなされています。
令和3年6月に名古屋国税局が報道発表した資料によれば、「異業種交流会や節税セミナーなどと称して集めた複数の顧客に対し脱税を持ち掛け、顧客の脱税を指南することにより、多額の報酬を得ていたのに、法人税及び消費税の申告義務を認識しながら確定申告を一切せずに納税を免れていた」という内容で単純無申告逋脱犯として告発されています。

今回の裁判例で注目すべき点は、①コンサルティング業務の内容が脱税指南という違法な内容のものであった場合に、このコンサルティング業務を適法と虚偽の説明をして勧誘する行為が不法行為にあたるとされたこと、②会社の業務として行っていたことに対し代表者には重大な過失による任務懈怠責任が生じるとされたこと、③違法なものとの認識がない場合でも顧客側には5割の過失が認められたことです
なお、Aさん側は、Bさんの過失相殺以外に、Bさんが違法な手法とわかりながらコンサル料を支払っているとして民法708条類推適用の主張もしていたようです。
民法708条は不法な原因のために給付をした者はその返還を請求できないというもので、今回の手法を違法とBさんが認識していれば同条の類推適用もありえたといえます。
しかし、本件では、コンサル会社から税理士を紹介されたり、適法だとの説明を受けたりしていることからBさんには違法であるとの確定的な認識はなかったとされ、民法708条類推適用はされていません。

Aさんは名古屋国税局から刑事告発をされているため、刑事罰を受ける可能性があるほか、脱税した金額に対する追徴課税が課せられます。
この場合には、無申告加算税ではなく重加算税が課せられることになると思われます。
また、Aさんに刑事罰が科せられる場合には、罰金も併科される可能性が高いといえます。
そのため、Aさんは、罰金、追徴課税のほか、この裁判で認められた損害賠償金も支払う必要があるということになります。

国税庁が令和4年11月に発表した「事業所得を有する個人の1件当たりの申告漏れ所得金額が高額な上位10業種」において「経営コンサルタント」が第1位となっています
そのため、今後コンサルティング業界は国税庁が目をつけやすくなっている業界といえますから、脱税の疑いをもたれないためにも、税務処理は専門家を入れてこれまで以上に慎重に行っていく必要があるでしょう。

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