取締役の横領が発覚した場合の税務上の問題~①~

取締役が横領をしていた場合の税務上の問題について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が2回にわたり解説します。

取締役の横領

取締役が会社のお金を横領した場合には、その取締役には業務上横領罪が成立します。
業務上横領罪は10年以下の懲役刑が定められており、警察に告訴することで、取締役に刑事処罰を受けさせることができます。
また、横領されたお金は当然会社にとって損害となるため、取締役に対して損害賠償を請求することができます。
さらに、取締役の横領により会社の資金繰りが悪くなったり、株式が下落するなどの損害が生じた場合には、当該取締役に対する責任を追及するだけでなく、株主から代表取締役やその他の取締役などに対して監督をする義務を行ったとして、任務懈怠責任を追及されることもあります。
このように、取締役が横領をした場合には、さまざまな責任を問うことができます。
では、税務上はどのような問題が生じるでしょうか。
具体例を参考に検討していきましょう。

具体例

具体例①
大阪市北区に本店を置く株式会社Xで経理を担当していた取締役のAさんは、X社から貸与されていた会社のクレジットカードを私的な飲食や息子に対するおもちゃなどの私的な目的のために使用していました。
しかし、Aさんは、私的に使用した部分について「接待交際費」などの名目で経費として計上し、X社の確定申告を行っていました。

具体例②
兵庫県西宮市に本店を置く株式会社Yの代表取締役Bさんは、Y社の売り上げの一部をBさん名義の個人口座に移し、私的に利用するとともに、個人口座に移した金額については売り上げから除外して確定申告を行っていました。

税務上の問題1~損金として計上できるか~

具体例①について

Aさんが会社から貸与されていたクレジットカードを私的に使用していたことは、Aさんが取締役であることから特別背任にあたる可能性が高いといえます。
そして、私的に使用しているにも関わらず、支払った金額について「接待交際費」と偽りの名目で経費計上していることから、実際には経費計上できないものを経費計上していたということになり、X社は過少申告をしていたということになります。
ここで、会社は損失を実際に被っているのであるから、損金として計上できるのではないか、過少申告とはいえないのではないかということが問題となります。
しかし、Aさんの不法行為によりX社は損害を被っていることになるため、X社はAさんに対して損害賠償請求権を取得しているといえます。
そうすると、損害賠償請求権はX社にとって利益となり、損失と利益を同時に計上するのが原則となっているため(最判昭和43年10月17日)、損金のみを計上することはできないことになり、過少申告となることは変わらなくなってしまいます。

もっとも、Aさんに対する損害賠償請求をしたとしても、Aさんに資力がない場合には、X社は賠償を受けられないことになってしまいます。
そうすると、X社としては、Aさんから賠償を受けられないのに、損金として計上できず、損しか残らないということになります。
そこで、最近では、相手方の資力等を考慮して、損害賠償請求権の実現性が客観的に疑わしい場合には、損失の発生のみを計上すればよいという考え方が有力となっています。
この考え方によれば、Aさんに資力がない場合には、Aさんから実際に返還された金額や返還を約束された金額を利益として計上し、それ以外の部分については、損金として計上できることになります。

Aさんの資力がどれくらいあるかや損金と益金の関係などの調査やアドバイスを受けるためにも、X社としては、早急に税理士や弁護士などの専門家に依頼すべきです。

具体例②について

BさんはY社の代表であり、Y社の売り上げを除外して個人口座に入金しているため、Bさんには業務上横領罪が成立します。
また、そもそも売り上げを除外して申告していますので、過少申告となります。
具体例②の場合には、代表者が横領をしているため、具体例①と違い後述のとおり役員賞与として損金算入ができません。

会社代表者が不法に会社のお金を着服していた場合には、早急に専門家に相談しましょう。

~②に続く~

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