脱税と時効~①~

脱税をしてしまった場合の時効について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が2回にわたって解説します。
第1回目は時効と除斥期間の違いや、賦課権の除斥期間、徴収権や還付請求権の時効について解説します。

時効と除斥期間

除斥期間:一定の権利について、法律で定められた期間内にその権利を行使しないと、権利が当然に消滅する場合の期間です。
時効:権利が一定期間行使されない時に、その権利を消滅させる制度です。

除斥期間と時効との違いは、主に以下の2つです。
①除斥期間には中断(完成猶予・更新)がないのに対して、時効には中断事由がある
②除斥期間は期間経過によって絶対的に権利が消滅するため当事者の援用を要しないが、時効は当事者の援用が必要

賦課権の除斥期間

賦課権とは、税務署長が納税義務の確定手続を行うことができる権利です。
賦課権の行使については、時効ではなく除斥期間が設けられています。
納税義務はあっても、未確定のまま賦課権の除斥期間を経過してしまった場合は、賦課権の行使による納税義務の確定はできないことになります。

①除斥期間の起算日
・申告納税方式の場合
法定納期限の翌日(ただし、還付請求申告書が提出されたものについては、その提出日の翌日)
・賦課課税方式の場合
ア 課税標準申告書の提出を要する国税の場合
提出期限の翌日
イ 課税標準申告書の提出を要しない場合
納付義務の成立した日の翌日

②除斥期間の長さ
3年の除斥期間
課税標準申告書の提出を要する国税で申告書の提出があったもの(納付すべき税額を減少させるものを除く)(国税通則法70条1項)
5年の除斥期間
更正、決定及び賦課決定(3年の除斥期間に該当するものを除く)(国税通則法70条1項)
7年の除斥期間
偽りその他不正の行為により、税額の全部若しくは一部を免れ若しくは還付を受けた国税についての更正決定等又は偽りその他不正の行為により、その課税期間において生じた純損失等の金額が過大である納税申告書を提出していた場合における純損失等の金額についての更正(10年の除斥期間にあたるものを除く)(国税通則法70条5項)
10年の除斥期間
法人税にかかる純損失等の金額で当該課税期間において生じたものを増加させ、若しくは減少させる更正又は当該金額があるものとする更正(国税通則法70条2項)

徴収権の消滅時効

徴収権とは、すでに確定して国税債権の履行を求め、収納することができる権利です。
私法上の債権に極めて似た性格を持つことから、国税の優先権(国税徴収法8条)と自力執行権(国税徴収法47条など)が認められている点を除いて、私債権と同様に扱うものとされており、時効制度がとられています
もっとも、徴収権の時効には、民法上の時効とは違い、①当事者は時効の援用を要せず、また、その利益を放棄することができなかったり消滅時効の絶対的効力)、②民法の中断事由のほかに特別の中断事由(完成猶予・更新)があります。

①消滅時効の起算日
国税の徴収権の消滅時効は5年です(国税通則法72条1項)。
この5年の起算日は、原則としてその国税の法定納期限の翌日となっています(同条)。

②時効の中断(完成猶予・更新)
民法では、時効の中断事由(完成猶予・更新)として①請求等、②差押え(強制執行等)仮差押え又は仮処分、③催告、④承認などを定めています。
国税の徴収権の消滅時効には、民法上の中断事由のほか、①納税申告、納税の猶予の申請又は換価の猶予の申請、延納の申請及び一部の納付、②税務署長によってなされる更正、決定、賦課決定、納税の告知、督促、交付要求についても中断事由(完成猶予・更新)として定められています(国税通則法73条1項)。

③消滅時効の停止
時効の停止とは、時効の完成を一定期間延長するものであり、中断とは異なり、停止の時までに進行した時効期間の効果は失われません。
国税の徴収権の時効は、延納納税の猶予又は徴収若しくは滞納処分に関する猶予をした国税について、その延納又は猶予がされている期間内は、停止します(国税通則法43条4項)。

還付金等の還付請求権の消滅時効

還付請求権とは、納税者が還付を求めるために申告などをして、納め過ぎた税金を返してもらう権利です。
還付請求権についても徴収権と同様に時効制度が採用されています。

①消滅時効の起算日
還付請求権の消滅時効は5年です(国税通則法74条1項)。
この5年の起算日は、その還付を請求することができる日(過誤納金の発生した時の翌日及び還付金の還付請求の日又は還付請求ができる日)です(同条)。

②時効の中断(完成猶予・更新)
納税者が行う還付を受けるための納税申告書、還付請求書の提出は、民法上の「催告」としての効力があり、また、税務署長から支払通知書などが還付請求者に送達されたときに、国の「承認」として時効が中断します。
また、徴収権の消滅時効にかかる中断に関する規定が準用されています(国税通則法74条2項)。

~次回に続く~

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