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脱税をしてしまった場合の時効について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が前回に続いて解説します。
第2回目は、刑事事件化してしまった場合の時効について解説します。
刑事事件の時効(公訴時効)
いままで見てきた時効や除斥期間はあくまでも納税に関する時効でした。
しかし、脱税で査察調査が入り、刑事告発された場合には、刑事事件になってしまいます。
刑事事件になってしまった場合には、これまで見てきた時効とは別の時効(公訴時効)が定められています。
公訴時効とは、犯罪が終わった時から一定の期間を経過すると、犯人を処罰することができなくなるという制度です。
たとえば、脱税事件の中でもっとも重い刑罰が定められている「ほ脱犯」(偽りその他不正の行為により、税金の納付を免れ又は還付を受けた場合)では、「10年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金又はこれの併科」という罰則が定められています(例:所得税法238条1項、法人税法159条1項、消費税法64条1項、相続税法68条1項)。
この「ほ脱犯」の公訴時効は、「人を死亡させた罪であつて禁錮以上の刑に当たるもの以外の罪」のうち「長期15年未満の懲役又は禁錮に当たる罪」に当たるため、公訴時効は「7年」ということになります(刑事訴訟法250条2項4号)。
また、公訴時効の起算点は、「犯罪行為が終わった時」となっています(刑事訴訟法252条)。
つまり、偽りその他不正の行為によって税金の納付を免れたり還付を受けたりした時から7年を経過する時までに公訴提起(起訴)がされなかった場合には、罪に問うことができなくなるということです。
各税法上、上記のほ脱犯以外にも、偽りその他の不正の行為により税金の納付を免れたとは言えないものの、法定の期限までに申告書を提出しないことにより税金の納付を免れた場合には「5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金又はこれの併科」という罰則が定められており(例:所得税法238条3項、法人税法159条3項、消費税法64条5項、相続税法68条3項)、この場合は「人を死亡させた罪であつて禁錮以上の刑に当たるもの以外の罪」のうち「長期10年未満の懲役又は禁錮に当たる罪」に当たるため、公訴時効は「5年」となります(刑事訴訟法250条2項5号)。
その他、「長期5年未満の懲役若しくは禁錮又は罰金に当たる罪」の場合には、公訴時効は「3年」となります。
公訴時効の停止
公訴時効を考えるにあたって注意しないといけないのは、「海外にいる間は公訴時効が進行しない」ということです。
「犯人が国外にいる場合又は犯人が逃げ隠れているため有効に起訴状の謄本の送達若しくは略式命令の告知ができなかつた場合には、時効は、その国外にいる期間又は逃げ隠れている期間その進行を停止する。」(刑事訴訟法255条1項)とされており、海外にいる期間を除いて公訴時効期間を経過する必要があります。
例えば金密輸事件の場合には、何度も海外に渡航して金を購入し、購入した金を密輸して消費税を免れたうえ、金を本邦で売却することにより消費税分の利益を得ることになりますが、この場合には、消費税及び所得税のほ脱犯として処罰を受ける可能性があります。
この場合、海外に渡航して金を購入する際には国外にいることになりますので、公訴時効の期間にはその期間が含まれないことになります。
そのため、公訴時効が完成しているか否かを判断するにあたっては、海外にどれくらいの期間いたのかを正確に把握しておく必要があります。
まとめ
このように、脱税の場合には、課税に関する時効や除斥期間だけでなく刑事事件化した場合には別途公訴時効も考えなければなりません。
また、時効や除斥期間は比較的長い期間が設定されていますし、徴収権などの時効には中断事由が定められており、容易に時効完成を狙うことはできないようになっています。
長期間にわたって脱税をしてしまった。悪意はなかったが申告を忘れてしまっていたというような場合には、どの部分について課税や罪に問われることになるのかを専門家に相談してみるのがいいでしょう。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、刑事事件を見据えた一貫したアドバイスを差し上げることができますので、一度お電話ください。