【制度解説】検察官による脱税捜査を詳しく解説

脱税捜査

検察官による脱税捜査について、国税犯則事件の調査と比較しながら具体例を交えて、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が詳しく解説します。

国税犯則調査とは

国税犯則調査とは、国税通則法に基づき、各国税局の調査査察部等に所属する国税査察官等によって行われ、任意調査と強制調査がありますが、その目的は、国税に関する犯則事件の証拠を収集して、犯則事実の有無及び犯則者を確定することにあり、最終的には、告発等により終了するものです。
犯則調査は、あくまで行政調査であり、公訴の提起、つまり起訴を目的とした捜査ではありませんが、国税査察官らによる質問、検査のほか、裁判官に対し、臨検捜索差押許可状等を請求し、それらの令状により捜索、差押えなどの強制手段を取ることができることや、それらの強制手段によって収集した証拠によって犯則事実の有無及び犯則者の確定をし、検察官への告発を経て刑事手続に移行するという点で、刑事手続と密接な関連を持つ手続であるということができます。ただし、国税査察官らによる強制調査では、逮捕、勾留、身体検査、鑑定留置等の対人的強制処分は認められていません

告発要否勘案協議会

国税査察官らによる犯則調査は、国税通則法による独自の行政調査手続であり、検察官と国税査察官らとの間には、検察官と司法警察員との間のような刑事訴訟法上の指揮・指示関係にはなく、同法上の協力義務の関係もありません。しかしながら、前述したとおり、犯則調査は、最終的には犯則嫌疑者の刑事訴追を目的として行われ、告発によって検察官の捜査に移行するものですから、実質的には犯罪捜査と異ならないということができます。また国税通則法に基づく国税に関する犯則事件の告発要否は、そもそも国税当局がその責任において決定するところではあるのですが、原則的には、検察官は、国税査察官の告発をまって事件を処理している実情からすると、脱税事件に関して、検察権が適正に行使されるためには、国税査察官による告発が適正・公平に行われることが不可欠であることから、検察官と国税査察官らによって構成される告発要否勘案協議会が設置されています。
この協議会において、個々の直接国税犯則事件について、検察官が、法律上又は事実認定上の問題点等について意見を述べ、国税査察官らとの協議を行うことにより、国税査察官による告発が適正・公平に行われるのであり、結局、同協議会を経て告発相当と判定された事件のみが告発されています。
実際には、告発要否勘案協議会の相当以前から、事件相談という形で国税当局の事務方レベルから検察庁に連絡があり、何度もやりとりを重ねた上で、告発意思が形成され、勘案協議会へとつながります。
この協議会を経ての告発率は、6割~7割程度であり、一時、コロナ禍の影響などもありましたが、国税庁が発表した令和4年度の査察の概要によれば、告発率は74パーセントを超える高水準となっています。

検察官による脱税捜査

こうして告発要否勘案協議会を経て、国税査察官からの告発を受けると、いよいよ検察官による脱税捜査が始まります。脱税捜査は、東京地方検察庁などの一部の大規模庁では、特捜部が担当しますし、横浜、さいたま、千葉、名古屋などのこれに準ずる規模の庁では、特別刑事部と称する部署が担当します。そのほかの地方都市の地検では、通常の一般事件を扱う検事らがチームを組んで捜査をしますし、事件の規模によっては、東京地検などから応援検事が派遣されることもあります。
検察官による捜査でも、捜索差押えは徹底して行われます。直接国税の脱制捜査は、個人又は法人の一定期間における経済活動による所得等を対象とするため、捜査の範囲は極めて広範囲に及びます。
国税査察官らの臨検捜索差押えが先行していますが、個人や法人の経済活動が継続していることから、国税局の捜索時には他の場所に隠匿されていた重要な証拠物が移し替えられている可能性や国税局の調査以降に事業資金の動きがあり、簿外資産発見の手がかりをつかんだりするなどすることもあります。そうした場合も含め、検察官は独自に又は国税査察官らと共同で捜索差押えをする場合もあります。
会社社長と税理士が共謀し、税理士の専門知識を生かして脱税指南をした事案などでは、会社社長が、あとで税理士に言い逃れをされるのではないかと考えて秘密録音をしていた事実が、国税査察官らの捜索後に判明し、検察官による捜索差押えによりその録音体を押収して、税理士らの犯意を立証したといった事案などもあります。
また、検察官による脱税捜査で、国税査察官らの犯則調査と決定的に異なるのは、被疑者の身柄を拘束する逮捕、勾留ができるかです。国税査察官らは、司法警察員ではないため、被疑者の身柄を拘束する逮捕の権限は認められていません。前述したとおり、検察官は、国税査察官らの告発によって、脱税捜査を開始するわけですが、告発要否勘案協議会による告発率は非常に高く、したがって、国税査察官らによる強制調査が入ったということは、いよいよもって検察官による脱税捜査が始まり、逮捕勾留の可能性が高まってきたということができます。逮捕勾留というのは、身柄拘束を伴うために、まるでそれ自体が刑事処罰のような印象がありますが、これはあくまで刑事手続であり、罪証隠滅、逃亡のおそれのある被疑者について認められる対人的強制捜査です。
脱税で逮捕される事案は、一定の高額脱税の場合ですが、そのような脱税事案に関わる人は、会社経営者や医師など一定の社会的地位のある人達が多く、逃亡のおそれは認めにくいことが多いですが、事件関係者が多数いるとか、証拠隠滅のおそれがあるなどの理由が認められることが多く、その場合、逮捕勾留の可能性も高まってきます。
このような強制捜査に対応するためには、税理士だけでは対応できないので、刑事事件を専門に取り扱う弁護士による弁護活動は欠かすことはできません。
こうした事態に陥いる前に少しでも早く刑事事件を専門とする弁護士に相談した方がよいでしょう。

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