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所得税において所得が誰に帰属するか、すなわち所得の人的帰属の問題について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。
実質所得者課税の原則
所得の帰属とは、ある所得があった場合にそれを誰に帰属すべきかという問題です。
所得税における所得の帰属について、所得税法12条に、実質所得者課税の原則と呼ばれる規定が置かれており、「資産又は事業から生じる収益の法律上帰属するとみられる者が単なる名義人であって、その収益を享受せず、その者以外の者がその収益を享受する場合には、その収益は、これを享受する者に帰属するものとして、この法律を適用する」としています(なお、法人税法11条、消費税法13条にも同様の規定があります。)。
たとえば、その仕事の性質上、名義人の名義を借りて仕事をしている場合には、その名義を貸した名義人ではなく、借りた名義を利用して仕事をし、その利益を得ている人が申告、納税をする必要があることになります。
この規定の理解の仕方(解釈)には2つの見解がある
まず1つの考え方は、所得税法12条は、単なる名義人と法律上の真の所有者がいる場合に、法律上の真の所有者に課税することを定めたものと解する立場です。この考え方は、法律上の形式と法律上の実質を区別し、実質に即して帰属を判定すべきであるというものであり、法的帰属説といわれます。真の法律関係を明確にすべきことは、税法の場合に限らず全ての法領域において当然の要求ですから、この考え方によれば、実質所得者課税というのは税法独自の原則ではなく、当然のことを規定した確認規定ということになります。
もう1つの考え方は、所得税法12条は、法律上の所有権者と経済上「収益を享受する」者とがいる場合に、経済上「収益を享受する」者に課税することを定めたものと解する立場です。この考え方は、所得の法律上の帰属と経済上の帰属を区別し、経済上の帰属という面に着目して帰属を判定すべきであるというものであり、経済的帰属説といわれます。したがって、実質所得者課税の原則は、税法固有の原則であるということになります。
条文上はいずれの解釈も可能です。しかし、法的実質と経済的実質が異なる場合とは具体的にどのようなケースであるのか必ずしも明確ではありません。私法上の法律関係に応じて課税関係が決まる方が納税者の予測可能性が高まること等から、法的帰属説の考え方が通説とされています。
事業から得られる所得の帰属について
所得税基本通達12-2は、「事業主から生ずる収益を享受する者がだれであるかは、その事業を経営していると認められる者(「事業主」という。)がだれであるかにより判定するものとする。」と規定しており、事業から得られる収益は、基本的にはその事業の事業主(事業を経営している者)に帰属すると考えられますいます。)。法的帰属説の立場からは、「事業主」とは、法律的な意味でその事業を実質的に経営している者(経営主体)だということになります。
しかしながら、事業主が誰かの判断は必ずしも容易なことではありません。特に親族による家族経営の場合の事業主の判定には困難が伴います。そのため、課税実務においては、通達でいくつかの判断基準が規定されています。
所得税基本通達12-5によると、生計を一にする親族間における事業(農業を除く)の事業主がだれであるかの判定は、まず、その事業の経営方針の決定につき支配的影響力を有すると認められる者を事業の事業主と推定します。
次に、誰がその事業の経営方針決定につき支配的影響力を持つ者か明らかでないときは、原則として、「生計を主宰している者」が事業主と推定します。
この点は、判例があり、歯科医師の親子が親の歯科医院でともに診療に従事していた場合の事業主の判断が争われた事案(親子歯科医師事件)において、裁判所は、ある事業による収入はその経営主体であるものに帰したものと解すべきとした上で、従来父親が単独で経営していた事業に新たにその子が加わった場合においては、特段の事情のない限り、父親が経営主体で子は単なる従業員としてその支配に入ったものと解するのが相当であるなどとして、医院の経営に支配的影響力を有しているのは父であり、その経営による本件収入は経営主体である父に帰すると判断しています(東京高判平成3年6月6日訴月38巻5号878頁)。この判決も上記通達と同様の考え方に立つものと考えられます。
最後に
誰に課税されるのかという判断を間違うと、課税されるべき人の確定申告が間違いであったということになり、過少申告加算税などのペナルティを受ける可能性があります。所得の帰属について迷った場合には、税理士ないし弁護士等の専門家に早めに相談しましょう。(課税処分に納得ができない場合には、こちらの記事も参照してください。https://datsuzei-bengoshi.com/fufukumousitate/)