宗教法人の脱税事件をどう見るか① ~手口の傾向や発覚経緯~

神社

本記事では、近年の宗教法人による脱税事件を整理し、宗教法人において問題となりやすい脱税類型、脱税手口等の傾向分析や弁護士に依頼するメリットを弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。

公表事例の整理

宗教法人は、宗教活動による喜捨金やお布施が直ちに法人税の対象になるわけではありませんが、住職・宮司等への給与、報酬、経済的利益の供与には源泉徴収が必要で、収益事業には法人税がかかります。国税庁の宗教法人向けパンフレットも、宗教法人は源泉徴収義務者であり、個人の家計と法人会計を明確に区分すべきだと明示しています。

事例一覧表

事件名発生年・公表年手口の概要発覚経緯捜査・訴追の経過最終処分
赤羽八幡神社 2億5000万円所得隠し対象は2023年までの7年分・2024年報道賽銭・お守り販売の一部を法人収入に計上せず、宮司が家計費・飲食・買い物に私的流用。流用額を法人から宮司への給与と認定。東京国税局の税務調査刑事告発・起訴の公表は未確認。税務調査段階の公表。重加算税を含め、法人と宮司に約1億3000万円追徴課税。法人格取消しは未公表。
和歌山の寺院2法人 お布施1億5000万円私的流用2021年までの7年間・2023年報道住職2人が兼務寺のお布施や賽銭を個人口座に入れ、生活費や預金に回した。帳簿不記載が問題視され、隠し給与と認定。大阪国税局の税務調査刑事告発・起訴の公表は未確認。重加算税を含め計約7800万円追徴課税。法人格取消しは未公表。
九州北部の神社 1億3200万円源泉徴収漏れ2021年1月までの5年間・2023年報道賽銭、お守り販売、駐車場収入の一部を宮司が生活費等に流用。代表給与を決算書に少なく記載した疑いも報道。福岡国税局の税務調査刑事告発・起訴の公表は未確認。重加算税などを含め約5600万円追徴課税。法人格取消しは未公表。
住職が預金4100万円を生活費等に流用した事例2021年7月までの5年間・2023年報道法人預金から計約4100万円を引き出し、生活費や借金返済に充当。流用分を給与とみなす源泉徴収漏れ。税務調査刑事告発・起訴の公表は未確認。2022年に源泉徴収漏れを指摘され、重加算税を含め計約800万円追徴課税。法人格取消しは未公表。 ]
名古屋地裁 源泉所得税等納税告知処分取消請求事件2016〜2017年支給・2022年判決宗教法人2法人が、代表役員らへの支給金や他人名義口座への送金を「賞与ではない」と争ったが、裁判所は一部を給与等と認定。税務調査後、修正申告・納税告知処分・訴訟名古屋地裁が請求棄却。税務処分の適法性が争われた公開裁判例。各法人に対する源泉所得税の納税告知と加算税が維持。判決上、甲法人は本税約1368万円・不納付加算税約477万円等、乙法人は本税約5.2万円等。刑事処分は未公表。

この表から分かるとおり、公開事例の中心は、宗教活動収入を直接「非課税収入」と装うより、法人資金を住職・宮司が個人流用し、その結果として源泉徴収漏れが発生する型です。近年アクセスしやすい一次資料でも、刑事事件より税務処分・税務訴訟の形で表に出る例が多いのが特徴です。

手口の傾向分析

共通点は三つあります。第一に、現金性の高い収入が多いことです。賽銭、お布施、お守り販売、駐車場収入などは、記録の残し方を誤ると、法人会計と個人家計の混同が起きやすくなります。
第二に、個人口座の利用です。和歌山の事例も赤羽八幡神社の事例も、法人収入が個人口座または個人支出に流れた点が重く見られました。
第三に、簿外処理と給与過少記載です。これは重加算税の対象になりやすい典型です。

相違点もあります。寺院型では、兼務寺からの受領金や法人預金の引出しが争点になりやすく、神社型では、賽銭・授与品・駐車場など複線的な収入が問題になりやすい傾向があります。また、公開裁判例では、現金回収そのものより、「その支出・取得が給与等かどうか」が争われることが多く、純粋な法人税法違反より源泉所得税の論点に収れんしやすいことも見て取れます。

規模別にみると、大規模・知名度の高い宗教法人では、物販や参拝者流入の多さから金額が大きくなりやすく、報道によるレピュテーショナルダメージ(原因や経緯に関わらず「評判が落ちてしまう状況」のことを言います。)も大きくなります。一方、小規模寺院では、住職個人と法人会計の境目が曖昧なまま運営され、結果として「悪質な脱税スキーム」というより杜撰な会計管理が税務上は隠ぺいと評価される危険があります。これは和歌山、九州北部、4100万円流用の事例を並べると分かりやすいです。

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発覚の経緯のパターン

近年の公表事例をみると、発覚ルートは次の四類型に整理できます。

税務調査の王道は、定期・重点調査で帳簿と入出金を突合する型です。
赤羽八幡神社、和歌山2法人、九州北部神社はいずれも国税局・税務署の調査が起点で、公開情報上はここが最も多いパターンです。そのため、個人家計と法人会計の区分や源泉徴収の適正処理を特に注意する必要があります。

次に多いのが、口座・証券口座・他人名義口座の資金移動から広がる型です。
名古屋地裁判決では、代表役員関係者の名義口座への送金や株式・投資信託売買代金の移動が認定事実として現れています。宗教法人案件でも、形式上「法人のため」と説明しても、資金の帰属と使途の説明が崩れると給与認定につながります。

三つ目は、決算書や源泉徴収簿の記載額と実際の生活水準・支出額の不一致から掘り起こされる型です。
九州北部神社の事例では、決算書上の給与が少なく記載されていたこと自体が問題化しました。4100万円流用事例も、法人預金の引出しと個人用途の支出がつながって把握された典型です。

四つ目は、外部情報提供が端緒になる型です。
国税庁は課税・徴収漏れについて情報提供窓口を設け、他人名義口座の利用や簿外資産などを有効情報の例として挙げています。もっとも、今回確認できた宗教法人の近年事例では、報道で「内部告発」と明示されたものは多くなく、具体的端緒は未公表が大半でした。

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