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日本の輸出事業における消費税還付②

輸出事業における消費税還付について、その仕組みなどを複数回にわたって紹介します。2回目の今回は消費税還付の対象となる事業者や取引の要件、還付受取の方法や期間などについて紹介します。
対象となる事業者の要件
①課税事業者であること
消費税還付を受けられる事業者は、課税事業者に限られます。
免税事業者の場合、消費税の申告義務がないため、たとえ輸出取引があっても仕入税額の還付を受けることはできません。
輸出を行う企業・事業者であれば、規模が小さく基準売上高1000万円以下でも、必要に応じて課税事業者選択届出を提出し課税事業者となることで還付申請が可能となります。
これは、輸出で仕入税額が多額になる場合、還付を受けられるよう自主的に課税事業者になる選択が有利となるためです(届出を適用する課税期間開始前日までに提出)。
②仕入税額控除の適用要件を満たすこと
還付を受けるには課税売上に対する仕入税額控除の適用要件を満たす必要があります。具体的には、帳簿及び適格請求書(インボイス)等の保存要件を満たし、課税仕入れについて適法に税額控除できる状態であることが重要です(2023年10月以降インボイス制度開始により、適格請求書等の保存が仕入税額控除の要件)。
輸出免税となる売上であっても、帳簿・証憑不備で仕入税額控除が否認されると結果的に還付も受けられなくなるため注意が必要です。
対象となる取引
輸出取引の種類については、商品の国外輸送による販売だけでなく、国外向けの役務提供や無形資産の譲渡も含まれます。
例えばメーカーが製品を海外顧客に直接販売するケース、商社が国内商品を買い付けて海外に輸出するケース、ソフトウェア企業が海外法人にソフトを提供するケースなどが該当します。これらはいずれも法律上は課税取引扱いで免税となるため、それに要した仕入や経費の消費税は全額控除・還付対象となります。
一方、非課税取引(例:国内の医療、教育、住宅の賃貸、金融など)や不課税取引(給与支払い、寄附など)はそもそも課税対象外であり、対応する仕入税額は控除できません。
輸出取引は非課税ではなく「課税対象だが税率0%」という位置付けのため、国内課税取引と同様に仕入税額控除が可能である点が大きな特徴です。
したがって、輸出売上を有する事業者は、たとえ売上に消費税がかからなくても課税事業者でありさえすれば仕入税額の還付を受けられます。
ただし事業者によっては、課税売上と非課税売上が混在する場合もあります。例えば国内で医薬品販売(社会保険診療は非課税)と輸出販売を併営するようなケースでは、非課税売上に対応する部分の仕入税額は控除できないため、その部分は還付対象外となります。
このように、還付を受けられる仕入税額はあくまで課税売上(輸出を含む)に紐づく部分のみである点に留意が必要です。
還付の受け取りの方法や期間
①還付金の受け取り方法
還付金の受け取り方法は、申告時に指定した銀行口座への振込か、ゆうちょ銀行・郵便局窓口での受領の2通りがあります。
一般には口座振込が利用されますが、口座名義は申告者本人または納税管理人名義である必要があります。
②還付金が振り込まれるまでの期間
消費税還付が振り込まれるまでの期間は、申告から概ね1~2か月程度が一般的な目安です。
税務署による申告内容の確認や書類チェックにある程度時間を要するため、還付金の入金完了まで数週間から数ヶ月かかるのが通常です。
ただし、電子申告(e-Tax)を利用した場合は処理が迅速化される傾向があり、早ければ提出後2~3週間で還付されるケースもあります。
実際、繁忙期でない時期にe-Taxで申告書を送信すれば1か月以内に振り込まれる例も報告されています。
一方、2月~3月の確定申告シーズンは事務処理が立て込むため、通常より時間がかかる可能性があります。
資金繰り上、還付金を早めに受け取りたい場合は、できるだけ早期に申告手続きを行い、e-Taxを活用するのが望ましいでしょう。
還付額が継続的に発生する輸出業者では、資金繰りの観点から還付を迅速に受けるための制度活用も有効です。例えば課税期間の短縮特例を利用すると、通常1年ごとの課税期間を四半期毎や月毎に区切って申告できるため、還付発生時期を早めることができます(適用には事前に「課税期間特例選択届出書」を提出し2年間の継続適用が必要です)。
申告期限を徒過した場合の不利益
申告期限は厳守する必要があります。法人の場合、課税期間(事業年度)終了日の翌日から2ヶ月以内が確定申告の法定期限であり、これを過ぎると期限後申告となります。期限後申告でも還付自体は受けられますが、その場合税務上いくつかの不利益があります。
①還付加算金の計算起点の繰り下がり
還付加算金(税務署から支払われる利息相当額)の計算起点が繰り下がります。
通常、適法な期限内申告で還付となった場合、申告期限の翌日から還付される日までの期間について年利により算出した還付加算金が支払われます(国税通則法第58条)。
税務署側の処理遅延については、法律上、還付申告に対する還付金は速やかに支払うものとされています。万一、税務署の事情で大幅に還付が遅れる場合には、その期間に応じた還付加算金が付されます。
実務上は申告から1~2ヶ月程度で還付されることがほとんどですが、仮に調査が長引く等で還付が遅れた場合でも、納税者には一定の利息補填がなされる仕組みです。
しかし期限後申告で還付を受ける場合、加算金の起算日は本来の期限ではなく、課税期間終了後2ヶ月経過日や申告書提出日の属する月末などに修正されます。
その結果、期限内申告に比べて遅延した期間分の利息が付かなくなる(事実上、還付が遅れるだけ損をする)ことになります。
②ペナルティ
また、期限後申告そのものに対して無申告加算税などのペナルティが課される可能性もあります。
以上から、還付を確実かつ有利に受けるためには申告期限内に正確な申告を行うことが重要です。
日本の輸出事業における消費税還付①

輸出事業における消費税還付について、その仕組みなどを複数回にわたって紹介します。初回は消費税還付の仕組みや消費税還付を受けるための要件、申請の手続などについて紹介します。
消費税還付の仕組み
日本の消費税は「仕入れに係る消費税額」を「売上に係る消費税額」から差し引いて納付額を計算する仕組みです。
輸出取引は消費税法上 輸出免税(税率0%)の対象となるため、海外への商品販売や国外向けサービス提供には消費税が課税されません。
したがって輸出売上には消費税が発生しない一方、国内で仕入れや経費に支払った消費税(入力税額)は控除可能であり、売上に係る消費税額より仕入れに係る消費税額の方が大きい場合、その差額が還付されます。
例えば、輸出売上200万円(税抜)に対する消費税0円と、仕入150万円(税抜)に対する消費税15万円では、15万円の還付を受けられます。
消費税還付を受けるための条件
消費税還付を受けるにはいくつかの条件があります。
①課税事業者であること
課税事業者であることが必要です。
前々年度の課税売上高が1000万円以下の事業者(免税事業者)は原則として消費税の納税義務がなく、消費税申告を行わないため還付も受けられません。ただし、免税事業者でも「課税事業者選択届出書」を提出して課税事業者になる選択をすれば還付申請が可能です。
新設法人も原則初年度は免税事業者ですが、資本金1000万円以上など一定の場合は最初から課税事業者となります。
②原則課税で申告計算していること
原則課税で申告計算(課税期間中の課税売上げに係る消費税額-課税期間中の課税仕入れ等に係る消費税額=消費税額)していることも条件です。消費税の簡易課税制度を適用(課税期間中の課税売上げに係る消費税額に、事業区分に応じた一定の「みなし仕入率」を掛けた金額を課税仕入れ等に係る消費税額とみなして、納付する消費税額を計算)している場合、実額に基づく仕入税額控除が行えず還付を受けられないためです。
③確定申告で還付申告を行うこと
還付を受けるためには該当期間について確定申告で還付申告を行うことが前提となります。
④輸出免税に該当する売上であること
取引面では、輸出免税に該当する売上であることが必要です。
輸出免税の適用範囲には、例えば「日本国内から海外への商品の輸出」「国際運送や国際通信」「非居住者への特許や著作権など無形財産権の提供」「非居住者への役務提供」などが含まれます。
これら輸出取引に該当する売上であれば税率0%となり、対応する仕入税額の還付を受けられます。
ただし非居住者相手のサービスでも、日本国内で直接便益を受けるもの(例:国内での宿泊・飲食提供など)は輸出取引とみなされず課税対象です。
なお、輸出免税の適用を受けるにはその取引が輸出であることを証明する書類を備えることが求められます。
申請手続きや必要書類
消費税の還付は所轄税務署への消費税確定申告を通じて申請します。法人の場合、事業年度終了日の翌日から2か月以内(個人事業主は翌年3月31日まで)に確定申告書を提出する必要があります。
還付申告の際には、以下の書類を提出します。
・消費税及び地方消費税の確定申告書(主たる申告用紙)
・付表2「課税売上割合・控除対象仕入税額等の計算書」(売上高に占める課税売上割合や控除仕入税額を計算する明細)
・消費税の還付申告に関する明細書(還付となる理由や取引ごとの売上・仕入明細を記載した書類)
確定申告書に還付額を計算の上で提出すると、税務署による内容確認を経て還付金の支払い決定がなされます。
輸出取引による還付を申告する場合、輸出売上に対応する還付額と国内売上に対する納付額をまとめて申告することになるため、輸出事業と国内事業の両方がある場合は申告書上で相殺計算する点に注意が必要です。
還付申告の証拠書類の用意
還付申告の証拠書類として、輸出取引であることを示す資料を準備・保管する必要があります。
輸出する商品のケースでは税関の輸出許可書(税関長の証明付き)を用意しなければなりません。
20万円以下の少額輸出で通常郵便物を使う場合は、日本郵便が発行する引受証明書(品名・数量・価額の記載されたもの)が証拠書類となります。
サービス提供や無形資産の提供など物品以外の輸出取引では、契約書など取引内容と国外提供であることを示す書面が必要です。
これらの書類は申告時に提出を求められる場合もあるため、輸出許可証や契約書類の原本を手元に保管しておくことが重要です。
特に輸出代行業者が輸出手続きを代行した場合でも、自社が還付を受けるには輸出許可書等の原本保管と所定の通知手続きを行う必要があります。
なお、輸出免税の証拠書類や帳簿は7年間の保存義務があります。
消費税の還付申告を行うと、原則として税務署による税務調査や審査の対象となります。
還付申告額が大きい場合や内容に不明点がある場合には、書面照会や実地調査によって輸出の実態や仕入控除の妥当性が確認されます。不備や誤りがあれば還付は認められません。
そのため、日頃から取引証憑の整備や正確な帳簿記録を行い、還付申告に備えることが大切です。
赤字と消費税

赤字企業でも、消費税を納税する義務があるのでしょうか。弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。
間接税と直接税
まず、今回の質問について述べる前提として、税金には間接税と直接税の2つがあります。間接税は、納税義務者(税金を国や地方自治体へ納める義務がある人)と担税者(税金を負担する人)が異なるもので、消費税がその代表で、そのほか酒税等があります。一方、直接税は、納税義務者と担税者が同じであり、法人税、所得税等が挙げられます。
赤字でも消費税の納税義務はある。
今回問題となっている「赤字企業でも納税義務があるのか」という質問に対する回答は、結論から述べると、赤字でも消費税の納税義務はあるということになります。たとえば、会社が支払う税金の場合、消費税は、法人自体が負担するものと思いがちです。しかし、実際には、消費税は、商品やサービスを購入する消費者が負担するものなのです。
もっとも、商品を購入するたびに、税務署に申告するのは煩雑で面倒であり、そのため法人や個人事業主が消費者から消費税を預かって、「代わりに」納税するしくみになっています。消費税が納税義務者と担税者が異なる間接税であるというのは、そういう意味です。
商品やサービスの価格を設定する際には、消費税分の金額を上乗せするのが通常でしょうが、この場合、法人や個人事業主は、消費者が支払うべき税金を預かっている状態なのです。したがって、赤字であるかどうかは、消費税の納税義務があるかどうかとは関係ないことになります。
消費税について確定申告をしていない場合
消費税で、確定申告が必要であるのに、申告を忘れていたり、申告漏れがあった場合には、確定申告期限前であれば直ちに、申告漏れのない確定申告を行ってください。確定申告後であれば修正申告する必要があります。とりわけ、企業が赤字の場合、経営者によっては、消費税を払わなくてよいと勘違いしている人も実際おられますので、要注意です。消費税については、その意味を正しく理解し、税額についてきちんと把握しておく必要があります。その結果、消費税を払い過ぎている場合には、消費税の還付を受けられる場合もあります。
一方、申告をしていない金額が大きくなれば査察調査の対象となって、更に悪質性が高いと判断されれば刑事事件に発展してしまう場合もあります。 弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、刑事事件を中心として扱っていますが、税法についても知識のある弁護士がそろっています。 初回の相談は無料ですので、一度ご相談にお越しください。
【制度解説】盗品の被害額の表示は消費税を含むのか?

盗品の被害額について、事例を参考に、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。
1 事例
ある日の深夜,某有名時計店で侵入盗の被害がありました。
犯人は,3人の外国人グループで,大胆にもお店のドアの施錠を破壊し,店内のディスプレに展示されていた高級腕時計をごっそり盗んでいきました。そのお店は民間の警備会社の機械警備が設置されており,犯人グループが侵入すると直ちに発報。しかし,警備員や警察官が駆け付けたときは,時既に遅し・・・,店内はもぬけの殻・・・。その後,警察の必死の捜査で,犯人グループの1人が逮捕され,他の犯人が検挙されないまま起訴されることとなりました。
犯人が盗んだ腕時計の中で,最も高級なものは,本体価格300万円の外国製の高級腕時計でした。当然,起訴状には,高級腕時計が被害品としてあげられていたのですが,その起訴状の公訴事実をよく見ると「被告人は,共犯者らと共謀の上,・・・・高級腕時計(販売価格330万円)を窃取したものである。」
と記載されていました。
犯人達の盗んだ高級腕時計は,確か300万円。ということは,販売価格の330万円のうち,30万円は消費税です。
しかし,盗難品の被害額の表示には消費税を含むのでしょうか?
2 消費税のしくみ
消費税の課税の対象になるのは,資産の譲渡等の場合です。
資産の譲渡等というのは,皆さんが消費者として毎日のように買物をするのがその典型です。
今回は、盗難被害に遭ったこの高級腕時計を例にして,消費税の仕組みをみていきましょう。
まず,高級腕時計の製造業者をA、問屋業者をB、小売業者をC、消費者をDとします。
製造業者Aが原価100万円の高級腕時計1個を製造し,これを問屋業者Bに売った場合,BがAに10万円の消費税を支払い,Aがこの10万円をBから一旦預かり消費税として納税します。次に,Bが100万円の仕入原価に利益分として100万円を乗せ,高級腕時計を200万円で売ると,消費税は20万円となり,CがこれをBに支払いますが,Bが消費税として納税する額は10万円です。これは,仕入原価100万円にかかる消費税10万円分は,仕入税額控除という税額控除を受けることになっているからです。ですからBはCから20万円を消費税として受け取っても,納税する額は10万円でいいわけです。これはつまり,Aから高級腕時計を仕入れる時点でBがAに支払っている消費税分であり,Aはその消費税を納税済みであり,その分は,最終的に消費者Dに転嫁される性質のものと考えればよいわけです。
そして,小売業者Cが200万円で仕入れた高級腕時計について,さらに100万円の利益を上乗せして300万円で消費者Dに売ると,消費税の最終負担者であるDが消費税として30万円をCに支払い,Cがその内,仕入れ時にBに支払った消費税額20万円を仕入税額控除して,10万円を納税すればよいことになります。
こうして取引の段階ごとに課税していくことを多段階課税方式といいます。
3 盗難被害に遭った高級腕時計の消費税はどうなるのか
既に述べた消費税の仕組みでわかるとおり、通常であれば、消費者が最終負担者として消費税の30万円を負担するわけですが、紹介した事案のような高級腕時計は、盗難に遭ったため、消費税の最終負担者である消費者はいません。
このように消費者のいない盗難は,消費税法上、買物のような資産の譲渡等には当たらないので,そもそも消費税が課税されないとされています。これを不課税といいます。そうすると、さきほどの消費税の仕組みの解説で出てきた小売業者のCは、本来、消費者から預かるはずであった30万円のうち10万円の消費税は納税する必要がなくなります。また、消費税法の基本通達(第11章第2節課税仕入の範囲11-2-9)では、課税仕入れのうち、盗難にあった物については、仕入税額控除をすることができるとされています。つまり、小売業者Cは、問屋業者Bに支払った仕入税額の20万円を控除することができるのです。ですから、最終的にCは、盗難にあった高級腕時計の消費税を負担しなくて済むということになるわけです。
4 それでも、盗難品の被害額には消費税が含まれる?
お話ししたように,盗品の場合,消費税は不課税となりますし、小売業者Cは、盗品に係る仕入税額は控除できるので、盗まれた高級腕時計の実被害額は300万円のはずです。
ただ,令和3年4月1日以降、商品の値札に取引価格を表示する際に,消費税額を含めた価格を表示する総額表示(内税表示)が義務付けられるようになり、消費税込みの額が販売価格となるのが当然となりましたし、捜査実務上、被害額の特定は販売価格によるとされていることから、盗難品の被害額を消費税込みの販売価格としているようです。 ご紹介した事例であれば、実際の盗難被害にあった腕時計の本体価格は300万円であり、それこそが実損害額であるはずなのに、誰も負担することのない消費税を含めた販売価格が被害額として表示されるのは、犯人に不利に被害額が大きくなるようで、いささか違和感を覚えますが、起訴状記載の公訴事実にしても、判決書の罪となるべき事実としても、被害品の記載の後にカッコ書きで「(販売価格330万円)」と表示されるのであり、販売価格とのことわりがあることからして、その実態として、被害の実額が300万円であるという認定はされているのでしょうから、消費税が含まれた被害額の認定としても、量刑上、被告人に不利な影響を与えることはないということになるのでしょう。
【事件解説】大阪国税局が不動産会社と同会社の実質的経営者を告発

大阪市西区の不動産会社と同会社の実質的経営者を大阪国税局が告発した事件について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。
事件の概要
権利関係が複雑な土地を安く買い取って売却する際、入居者を立ち退かせるための業務委託料を架空計上し、法人税など計約7200万円を脱税したとして、大阪国税局が、大阪市西区の不動産会社であるA社と同会社の実質的経営者であるB氏を大阪地方検察庁に告発しました。告発容疑は、2022年7月までの1年間に、立ち退きに必要な業務委託料として架空の外注費を計上して約2億400万円の所得を隠し、法人税約5200万円を脱税した疑いであり、他にも消費税約2000万円の不正還付を受けた疑いがあります。B氏は、取材に対して「悪いことをしたと反省している。」と語り、既に修正申告済みということです。
(2024年10月2日、千葉日報の記事より。一部改変)
https://www.chibanippo.co.jp/newspack/20241002/1283003
消費税の不正受還付と国の対応
本事件では、脱税行為の一つとして架空外注費の計上がまず挙げられていますが、注目すべきは、消費税約2000万円の不正還付を受けた疑いもある点です。
消費税は、取引の各段階で課税され、商品やサービスなどの最終消費者が実質的に負担する仕組みです。消費税法では、事業者は「仕入税額控除方式」により消費税を納税するシステムが採られており、これは、事業者が売上の際に受領した消費税をそのまま納税するのではなく、原材料や商品を仕入れた際に支払った消費税額を控除した金額を納税するシステムです。そして、課税仕入れに係る消費税額が課税売上げを上回る場合には、還付を受けることができます(消費税法52条1項)。
消費税不正受還付はこの仕組みを悪用したものであり、たとえば、そもそも消費税の課税仕入れの対象とならない従業員給与の一部を消費税の課税仕入れの対象となる外注費に仮装し、架空の請求書を作成するなどの方法によって課税仕入れに係る消費税額を過大に計上し、不正に還付を受けるなどの事案がみられるところです。
近年、消費税の仕組みを悪用した不正受還付事案が相次いでおり、国税庁によると、平成29年から令和3年度までの5年間の消費税不正受還付事案の告発件数は計57件であり、不正受還付額は計35億9000万円にのぼっています。
国税庁が発表した令和5年度査察の概要によっても、国税庁は、消費税の仕入税額控除制度や輸出免税制度を悪用した不正受還付事案は、いわば国庫金の詐取ともいえる悪質性の高い事案であるとして、不正受還付事案への対応を重点課題として位置付け、引き続き積極的に告発してゆくとありますので、注意が必要です。
刑事手続
B氏は、法人税法違反などの疑いで刑事告発を受けています。
刑事告発を受けた検察庁は、B氏を被疑者として取調べ、その後起訴するか否かを決めることになります。
最近では、刑事告発されると約8割から9割の高率で起訴されるに至っています。
また、起訴された場合には、刑事裁判が始まります。
国税局が令和6年に発表した資料によると、査察事件の第1審判決の状況は、令和5年度中の判決件数83件全てが有罪であり、有罪率は100%となっています。このことから一旦起訴されると有罪となる可能性は極めて高いのが実情です。
最後に
既にお話しましたように、ひとたび刑事告発をされてしまうと、極めて高い確率で起訴され、かつ、有罪となるという実情があります。ですから、脱税に関与してしまったという場合には、早急に弁護士に相談して刑事告発を避けるための活動をしていくのが極めて重要と考えられます。弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、脱税に関する相談を無料で行っていますので、気軽に早急にお問合せください。
【報道解説】転売が疑われる客に対する免税販売

転売が疑われる客に対して免税販売したとして大阪国税局から医薬品店が指摘を受けたという報道について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。
1 報道の内容
「ドラッグストア『ダイコクドラッグ』の大阪にある複数の店舗が、転売目的が疑われる中国人観光客に不適切な免税品の販売を繰り返していたと大阪国税局から指摘され、店舗を経営する2つの会社があわせておよそ3億円を追徴課税されていたことが関係者への取材で分かりました。」
「免税品を国内での転売目的が疑われる客に販売することは認められていませんが、関係者によりますと、大阪の繁華街ミナミにあるダイコクドラッグの複数の店舗では、中国人観光客に対して、スーツケースに入りきらないほどの量の化粧品や医薬品などを免税価格で販売していたことが大阪国税局の税務調査で確認されたということです。
国税局は、転売目的が疑われる客に免税販売を繰り返し、2019年から2年にわたって消費税の申告漏れがあったと指摘し、2社に過少申告加算税を含めてあわせておよそ3億円を追徴課税しました。
店舗には日本に住む案内役の中国人に連れられた観光客がたびたび訪れていたということで、不適切な免税販売の売り上げは30億円にのぼるとみられています。
親会社の『ダイコク』は修正申告と納付は済ませたとしたうえで『国税局の指摘を真摯(しんし)に受け止め、現在はルールにのっとった販売を行っています』としています。」
NHK「ダイコクドラッグ 転売疑いの客に免税販売か 国税局が追徴課税」(2024年6月4日)より抜粋
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240604/k10014470241000.html
2 免税店とは
物品の譲渡やサービスの提供が国内における取引であっても、その物品が輸出され、あるいはそのサービスの提供が国外で行われる場合には、それに対する消費税は免除されます。
その一環として、輸出物品販売場(これが免税店です。)において、日本に居住していない者に一定の物を販売する場合にも、消費税が免除されます。
免税店として販売しようとする場合、税務署に申請をし、許可をもらう必要があります。
3 転売目的の販売について
免税店においては、日本に居住していない者に対し「通常生活の用に供する物品」を販売する場合に、消費税が免許されています。
つまり、事業用又は販売(転売)用として購入することが明らかな場合には、免税販売対象外となります。
そこで、報道された会社は、転売目的が疑われる者に対する販売について、免税取引だとして、その分については消費税がかからないとして、申告したことが申告漏れとされたため、追徴課税がなされています。
4 修正申告について
報道された会社は、「修正申告と納付は済ませた」としています。
修正申告とは、事後的に納税者自ら従前の確定申告の内容を是正する手続をいいます。
そして、修正申告した上で、追徴課税も含めて納付を済ませたということであれば、税金に関する対応は基本的に済んでいるということになります。
もっとも、ここで注意して欲しいのは、上記のような税金に関する対応と、企業や代表者等が刑事責任を問われるかどうかは全く別の問題です。
国税庁より告発が行われ、刑事責任が問われるかどうかは、脱税した金額や脱税の方法などを考慮して、検察官が起訴するかどうかを判断し、裁判所がどのような刑罰に科するかを決定します。
そのような手続の中で修正申告が考慮される事情だとしても、修正申告をしたことで何もお咎めがないかと言われると別問題だということには注意が必要です。
5 最後に
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、脱税事件に強い弁護士が所属し、消費税法違反など多数の事件を取り扱っています。脱税をしたかもしれない、税務調査を受けることになった、国税庁から告発され刑事事件化するかもしれないなど不安に感じていらっしゃる方は、初回の相談は無料ですので、お気軽にお問い合わせください。
リバースチャージ方式とは

消費税のリバースチャージ方式について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。
消費税の課税対象
消費税法第4条によると、①国内において、②事業者が行った、③資産の譲渡等について消費税の課税対象とする旨規定されています。
そして、同法2条によると、ここでいう資産の譲渡等とは、事業として、対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付並びに役務の提供とされています。
従来、国外事業者が行う電子書籍や広告の配信などを行う役務の提供については、消費税の課税対象ではなかったもの
以前は、インターネットを介して電子書籍や広告の配信などを行う役務の提供が、国内取引に当たるか否かの判断は、役務の提供にかかる事務所の所在地が国内にあるか否かで判断することとされていました。
その結果、同じコンテンツを配信する場合であっても、役務の提供にかかる事務所が国内にある場合には国内取引として消費税が課税され、外国にある場合には消費税が課されないことになっていました。
これでは、事業者間で競争条件に大きな差が生じてしまいます。
リバースチャージ方式による消費税の課税関係について
上記のような不公平を是正するため、2015年10月から、消費税法が改正され、電子書籍・音楽・広告の配信等の電子商取引を「電気通信利用役務の提供」と定義し、国境を越えた事業者間の電気通信利用役務の提供にかかる消費税の課税においては、リバースチャージ方式が導入されました。
リバースチャージ方式とは、簡単に言うと、「支払った側」が消費税を納付する方式です。私達が、サービスを購入した際に支払う消費税については、税金を払っているという感覚はあるものの、実際に税金を国に納付しているのは、サービスを提供した(売った)側です。「リバース」とは日本語に訳すと「反対の」という意味であり、すなわち、リバースチャージ方式がとられれば、サービスを提供した(売った)側とは反対のサービスを受けた(購入し支払った)側が消費税を国に納付するということになるのです。
リバースチャージ方式が導入された結果、国外事業者から事業者向け電気通信利用役務の提供を受けた場合、サービスの提供者(売手)ではなく、サービスの受け手(買手)である国内事業者に消費税を課されることになり、これによって、外国の事務所からの配信であっても役務の受け手が国内に所在していれば、国内取引として消費税が課されることになりました。
リバースチャージ方式での申告・納税が必要な事業者
リバースチャージ方式は、全ての事業者に適用されるわけではありません。
経過措置により、一般課税制度により申告する場合で課税売上高割合が95%未満である事業者にのみ、リバースチャージ方式による申告と納税が必要になります。
最後に
リバースチャージ方式は、一般の方には、複雑でわかりにくい方式といえます。しかし、消費税といえども、税を課される事業者が申告・納税しなければ、税金の問題が生じ、税務署に把握されれば、無申告についてのペナルティを別途受ける可能性があります。
また、仮装隠ぺいなど悪質性が高いと判断された場合には、無申告加算税に代えて重加算税が課せられます。
さらに、納税が遅れると、その期間に応じた「延滞税」の支払いが求められます。
納めるべき税額が大きい場合、刑事告発されることも考えられます。
申告・納税しなければならないのにしていない方は、早めに税理士や弁護士といった専門家に相談しましょう。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、刑事事件を中心として扱っていますが、税法についても知識のある弁護士がそろっています。
初回の相談は無料ですので、一度ご相談にお越しください。
アンダーバリュー取引は脱税です

輸入時のアンダーバリュー取引について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。
アンダーバリュー取引とは
財務省貿易統計によると、2022年の日本の輸出入総額は、輸出が約98兆1736億1千万円、輸入が約118兆5031億5千万円で、輸出入ともに過去最多となりました。
輸入貨物の場合、関税や消費税がかかります。アンダーバリュー取引とは、輸入時に実際の取引価格よりも安い価格で税関に申告し、関税や消費税を安く抑えようとする不正な取引のことです。
関税や消費税は、申告価格に対して課せられます。そのため、仮に真実の売買契約では、商品の単価を10ドルで契約し、輸入者は、輸出者に対してその金額を支払うにもかかわらず、輸出者の請求書(インボイス)に商品は8ドルと記載してあり、その価格で輸入申告すれば、差額である2ドルには関税や消費税がかからないことになります。
アンダーバリュ―取引は法律に違反する行為である
実際の取引価格を故意に偽って申告することは明らかな虚偽申告であり、脱税です。このような事態は通常考えられないのではないかとの疑問もあろうかと思います。しかし、貿易取引は、商慣習の異なる国との間の取引なので、国によっては、このようなアンダーバリュー取引がまかり通っている国もあり、そのような国から輸入する場合、なかには、輸出者が輸入者のことを思って好意でアンダーバリューのインボイスを送ってくる可能性があるので要注意です。
財務省によると、令和4事務年度に輸入者に対して行われた税関の事後調査によると、申告漏れ等に係る追徴税額は約98億1千万円(前事務年度比152.1%)であり、そのうち主な申告漏れ等の事例としてアンダーバリュー取引が指摘されているところです(税関が行う事後調査とは、輸入者の場合、輸入された貨物に係る申告・納税が適正に行われているか否かを調査するために税関職員が個別に訪問し、帳簿や書類等の確認を行う調査のことをいいます。)。
また、輸入者が、たとえインボイスの記載価格が実際の取引価格よりも低い価格と気づかずに申告した場合でも、税関にみつかれば過少申告として加算税が課されたりすることになります。こうした事態を避けるためには、実際の取引価格とインボイスに記載された価格を正確に合わせ、正しい価格の申告をすることを徹底する必要があります。もし、申告後にアンダーバリューに気付いたときには、すぐに修正申告をしましょう。
逆に、自社が輸出者であり、海外の輸入者から、「アンダーバリューのインボイスを発行して欲しい。」と言われる可能性もあります。しかし、このようなアンダーバリュー取引は、いずれの国でも違法ですから、相手の要求に応ずれば、違法行為に加担することになります。したがって、きっぱりと断ることが必要です。
アンダーバリュー取引であることが発覚した場合
アンダーバリュー取引であることは、税務調査が入ったときにほぼ確実にばれます。インボイス等は、税務調査において確認しやすい書類だからです。
アンダーバリュー取引であることが発覚したときには、不足分の関税や消費税に加え、過少申告加算税と延滞税が課されます。
また、仮装隠ぺいなど悪質性が高いと判断された場合には、過小申告加算税に代えて重加算税が課せられます。
アンダーバリュー取引を行っていた会社としてブラックリストに上げられ、今後の通関の際には、厳しいチェックが入ることになります。
さらに、納める額が大きく、悪質な輸入者であることが判明した場合、脱税事件として刑事事件として告発されることもあります。その場合、起訴されれば懲役刑や罰金刑を受ける可能性があります。
最後に
申告・納税しなければならないのにしていない方は、早めに税理士や弁護士といった専門家に相談しましょう。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、刑事事件を中心として扱っていますが、税法についても知識のある弁護士がそろっています。
初回の相談は無料ですので、一度ご相談にお越しください。
【制度解説】通告処分とは

通告処分について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。
そもそも通告処分とは何でしょうか
通告処分とは、間接国税の犯則事件(租税法に関する事件のことであり、個々の租税の賦課、徴収及び納付に直接関連する犯罪のことです。)で、情状が罰金以下の刑に相当する場合に、刑事手続きに先行して行われる一種の行政処分です。すなわち、通告処分は、刑事訴訟手続によらない行政上の科刑に代わる手続といえます。この処分は、かつては、国税犯則取締法に定められていましたが、現在は、国税通則法(2018年4月1日施行)に定められています。なお、関税法にも同様の規定が置かれており、間接国税扱いする地方税にも、この通告処分が適用になります。
ここで、間接税とは、税金を負担する人と税金を納める人が異なる税金のことであり、間接税の代表として消費税がありますが、租税犯則手続上、間接国税として取り扱われる消費税は、課税貨物に課される消費税です。
また、酒税やたばこ税等も租税犯則手続上、間接国税として取り扱われます。
通告処分に基づく納付を履行すれば、検察官による起訴を免れることができる。
通告処分において重要なことは、課税庁が罰金などに相当する金額などを通告し、納税者がそれを履行すれば検察官に告発しないとされていること、すなわち、その場合には、検察官による起訴を免れるという点です。
国税通則法上、国税局長・税務署長は、租税に関する犯則事件の調査により犯則の心証を得たときには、その理由を明示して、罰金に相当する金額、没収に該当する物件、追徴金に相当する金額並びに書類送達ならびに差押物件の運搬・保管に要した費用を、指定の場所に納付すべき旨を通告しなければならないとされています。
通告処分を受けた犯則者は、それを履行するか否かは自由です。しかし、通告を受けた翌日から20日以内に履行しなかった場合、検察官に告発されます。
また、通告しても履行する資力がないときや、悪質な脱税など情状が懲役刑にあたると認められるときには、通告処分をせずに直に通告されます。
なお、所得税や法人税など税金を負担する人と税金を納める人が一致する直接税の犯則事件の場合、通告処分は適用されません。したがって、この場合、直ちに検察官に告発されます。何故、直接国税と区別して間接国税にだけ通告処分が認められているかですが、間接国税の犯則事件は直接国税の場合と比べると件数が多く、通常の刑事事件によるより、行政による簡便な手続による方が犯則者の利益にかなうため、と説明されています。
通告処分の手続
通告処分は、通告書を作成し、これを犯則者に送達することによって行われます。通告書には犯則の理由、罰金に相当する金額、没収に該当する物件、追徴金に相当する金額並びに書類送達ならびに差押物件の運搬・保管に要した費用を明示し、指定の場所に納付するように書面で通告することになっています。通告処分は、通告書が犯則者に送達されたときに効力を生じます。
通告処分の問題点
行政権が、通告処分により、刑事訴訟手続によらない行政上の負担を課すことは、実質的に裁判を受ける権利を制限することにならないかという問題があります。この点は、最高裁の判例があり、最高裁は、通告処分の履行は、犯則者の自由意思に任されており、履行を拒否して、犯則事実の有無を裁判所で争うことができるので、裁判を受ける権利(憲法32条)を侵害していないとしています(最判昭和47.4.20・民集26巻3号507頁)。
最後に
脱税が発覚した場合、消費税等について通告処分に基く納付をすれば、検察官による告発・起訴を免れることができます。脱税について、刑事事件化するのを免れる方法などについてお悩みの方は、すぐに弁護士に相談しましょう。
【制度解説】相続時精算課税という制度を知っていますか?どのような制度かについてメリットとデメリットを解説

相続時精算課税とはどのような制度かについて、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所がメリットとデメリットを解説します。
相続税
相続時精算課税とは何やら難しそうな言葉ですが、相続税の申告納付方法の一つと考えてもらえばよいでしょう。
通常、相続税は、どなたかが亡くなったときに、その亡くなった方(被相続人といいます。)の財産を相続により取得した配偶者や子供など(相続人といいます。)に対して、その取得した財産の価格に応じて課される税金です。
民法という法律に、「相続は死亡によって開始する。」と定められていますが(民法882条)、相続税は、まさに、この被相続人の死亡をきっかけとして、その死亡時の被相続人の遺産総額から基礎控除を経て課税遺産総額を出し、この課税遺産総額に対し法定相続人ごとの法定相続分に対して相続税額が算出されてこれを合算した相続税の総額に対して各相続人の遺産取得割合に応じた相続税額が算出さ
れ、これを各相続人が申告納付することになるわけです。(国税庁HP「相続税の計算」参照)
贈与税
他方、被相続人などになりうる立場の人(被相続人等といいます。)が、亡くなる前に、相続人など(相続人等といいます。)となりうる立場の人にあらかじめ財産を渡すことを贈与といいますが、これにも贈与税という税金がかかります。贈与は、被相続人が亡くなる前にその財産の一部を相続人等に渡しているわけですから、見方をかえれば、被相続人等が生きている間の相続の前倒しともいえるわけです。
そうすると、被相続人が亡くなる前に、相続人等に対して多くの財産を贈与すると、それだけ被相続人等の遺産総額が減って、結局、相続税の総額もそれだけ減ってしまうことになります。このような相続税の負担における不公平を解消するため、こうした贈与については贈与税が課せられることされており、そのような意味から贈与税は、相続税をおぎなう税金という意味で、相続税の補完税という言い方もされています(こうした贈与税の性質から、単独の贈与税法という法律ではなく、相続税法の中に定められており、一税法二目と呼ばれています。)
このように相続税と補完関係にある贈与税ですが、相続税に比べると、基礎控除が110万円と低額であり、税率がとても高いことから、従来は税負担の重い贈与を避けて、相続の機会、つまり被相続人等が死亡するのを待って資産の移転が行われてきました。
しかし、超高齢化社会を迎え始めている現在のわが国においては、これを放置していては、高齢者の保有する資産活用は滞り、日本経済の活性化のためにも好ましいものではなりません。そこで、創設されたのが、相続時精算課税制度です。(国税庁HP「財産をもらったとき」参照)
相続時精算課税のメリットとデメリット
この制度は、特定の関係にある贈与者(被相続人等)と受贈者(相続人等)と間で、贈与を行うに当たり、贈与税の申告とともに相続時精算課税選択届出書を提出すると、贈与額のうち2500万円(特別控除)に110万円(基礎控除)を加えた2610万円が控除されます。
つまり、年間2610万円までの贈与であれば贈与税は課されないのです。ただこの制度は、贈与時に課税されないということであり、相続が発生した後は、贈与した財産を相続財産に合算して相続税が計算されますので、結果的には贈与税が課せられないだけで、相続税は科せられますので、直接的に節税になるというものではありません。しかしながら、本来の相続財産を、相続が開始される前に、贈与税の負担を軽くしてこれを必要とする若い世代に有効に活用させることができるという意味ではとても意義のあるものです。
少し注意すべき点としては、一度、相続時精算課税制度を利用とするとあとで変更ができなくなることのほかに、一定の小規模宅地について相続税評価額を最大80パーセントまで減額できる小規模宅地等の特例が利用できなくなることなどのデメリットもあります。
平成27年に、相続税の基礎控除額が「5000万円+1000万円×法定相続人数」から「3000万円+600万円×法定相続人数」に大幅に減額されました(「相続税はややこしい?②」も参照)。核家族化が進み法定相続人自体が少ない中で、ある程度の金融資産を持ちこれに不動産を加えるとあっというまに基礎控除額を超えるケースは、今や一般のサラリーマンや個人事業主に広がっているといっても過言ではないでしょう。こうした中で、相続時精算課税制度などは、これからますますもって欠かせない節税対策の智恵となることでしょう。
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