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一人親方の脱税~①~
建築・土木工事に携わっている事業者の方たちには、雇用関係を持たずに事業を行う、いわゆる「一人親方」と言われる方が多くいらっしゃいます。
一人親方が脱税をしている場合になぜ脱税がばれるのか、脱税がばれるとどのようなペナルティが課されるのかについて2回にわたり弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説していきます。
今回は一人親方と個人事業主の違いとなぜ脱税がばれるのかについて解説します。
個人事業主と一人親方の違い
一人親方は、労働者を使用せずに特定の事業を行う人のことをいいます。
個人事業主は、法人を設立せずに個人で事業を営んでいる人のことをいいます。
そのため、一人親方も広い意味では、個人事業主の一種といえるでしょう。
しかし、一人親方は
①業種の範囲が限られている
個人事業主の場合には、業種の指定はありませんが、一人親方の場合には、建設業・林業・水産業など、7つの業種に限られています。
②従業員の雇用について制限がある
個人事業主の場合、従業員の雇用について制限はありません。一方、一人親方の場合には従業員の雇用日数が100日未満である必要があります。
③労災保険へ加入できる
個人事業主の場合には、原則として労災保険へ加入できませんが、一人親方の場合には特別に加入できることになっています。
といった3つの点で個人事業主とは異なっています。
もっとも、一人親方の場合でも、開業届を税務署に提出する義務があることや納税の義務があることは、個人事業主と同じです。
一人親方も開業届を提出することは義務
一人親方を含む個人事業主は、開業届を税務署に提出する義務があります(所得税法229条)。
開業届は、事業を開始した日または事業に関する事業所等を設けた日から1か月以内に税務署長に提出する必要があります(同条)。
開業届は提出していなくてもペナルティはありませんが、開業届を出すと、青色申告ができたり、事業用の銀行口座を開設出来たり、事業主を対象とした給付金を受け取れたりといった様々なメリットがあります。
また、開業届を出すと、個人事業主番号が付与されますが、この個人事業主番号はビジネスローンを組んだり銀行の融資を受けたりする際にも必要となるので、開業届を出しておくことにより、公的に事業主として認められることのメリットは大きいと言えるでしょう。
一人親方の脱税はなぜばれるのか
①取引先からの源泉徴収税の申告
源泉徴収税とは、一人親方が支払うべき税金を前もって取引先が徴収し納税するものです。
源泉徴収税の納付にあたっては、どの一人親方に関するものであるかも明示されるため、税務署や国税局には一人親方に売り上げがあることがわかってしまいます。
②反面調査
反面調査とは、税務署が調査対象者の取引先を調べ、取引の実態を把握するための調査です。
取引先や銀行に調査が行われることで、一人親方としての売り上げがあることが発覚してしまう可能性があります。
③資産状況の調査
不動産購入など高額なお金の動きがあれば、法務局から税務署に情報が伝わることがあります。
申告されている収入に比して高額な不動産の購入などがあれば、税務署に脱税の疑いをもたれてしまい、税務調査が入るきっかけになります。
④第三者からの密告
税務署は課税・徴収漏れに関する情報提供を呼び掛けています。
国税庁が公開している「課税・徴収漏れに関する情報の提供」によれば、様々な情報が寄せられていることがわかります。
国税庁のホームページには「情報提供フォーム」が用意されており、だれでも情報を提供できることになっています。
このように、税務署や国税庁は税金逃れがないように、様々な方法で情報収集をしています。
お金の怪しい動きや提出された資料に不審な点があれば、税務調査が入ることになり、脱税が明るみに出てしまうことになります。
そして、一人親方は国税庁が発表している申告漏れ所得金額が高額な業種上位10業種のうち約半数を占めていることから、税金逃れがないかを特に注意深く調査される対象になっているといえます。
そのため、一人親方は脱税していないか税務署から常に目をつけられているといえます。
~次回に続く
脱税と時効~②~
脱税をしてしまった場合の時効について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が前回に続いて解説します。
第2回目は、刑事事件化してしまった場合の時効について解説します。
刑事事件の時効(公訴時効)
いままで見てきた時効や除斥期間はあくまでも納税に関する時効でした。
しかし、脱税で査察調査が入り、刑事告発された場合には、刑事事件になってしまいます。
刑事事件になってしまった場合には、これまで見てきた時効とは別の時効(公訴時効)が定められています。
公訴時効とは、犯罪が終わった時から一定の期間を経過すると、犯人を処罰することができなくなるという制度です。
たとえば、脱税事件の中でもっとも重い刑罰が定められている「ほ脱犯」(偽りその他不正の行為により、税金の納付を免れ又は還付を受けた場合)では、「10年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金又はこれの併科」という罰則が定められています(例:所得税法238条1項、法人税法159条1項、消費税法64条1項、相続税法68条1項)。
この「ほ脱犯」の公訴時効は、「人を死亡させた罪であつて禁錮以上の刑に当たるもの以外の罪」のうち「長期15年未満の懲役又は禁錮に当たる罪」に当たるため、公訴時効は「7年」ということになります(刑事訴訟法250条2項4号)。
また、公訴時効の起算点は、「犯罪行為が終わった時」となっています(刑事訴訟法252条)。
つまり、偽りその他不正の行為によって税金の納付を免れたり還付を受けたりした時から7年を経過する時までに公訴提起(起訴)がされなかった場合には、罪に問うことができなくなるということです。
各税法上、上記のほ脱犯以外にも、偽りその他の不正の行為により税金の納付を免れたとは言えないものの、法定の期限までに申告書を提出しないことにより税金の納付を免れた場合には「5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金又はこれの併科」という罰則が定められており(例:所得税法238条3項、法人税法159条3項、消費税法64条5項、相続税法68条3項)、この場合は「人を死亡させた罪であつて禁錮以上の刑に当たるもの以外の罪」のうち「長期10年未満の懲役又は禁錮に当たる罪」に当たるため、公訴時効は「5年」となります(刑事訴訟法250条2項5号)。
その他、「長期5年未満の懲役若しくは禁錮又は罰金に当たる罪」の場合には、公訴時効は「3年」となります。
公訴時効の停止
公訴時効を考えるにあたって注意しないといけないのは、「海外にいる間は公訴時効が進行しない」ということです。
「犯人が国外にいる場合又は犯人が逃げ隠れているため有効に起訴状の謄本の送達若しくは略式命令の告知ができなかつた場合には、時効は、その国外にいる期間又は逃げ隠れている期間その進行を停止する。」(刑事訴訟法255条1項)とされており、海外にいる期間を除いて公訴時効期間を経過する必要があります。
例えば金密輸事件の場合には、何度も海外に渡航して金を購入し、購入した金を密輸して消費税を免れたうえ、金を本邦で売却することにより消費税分の利益を得ることになりますが、この場合には、消費税及び所得税のほ脱犯として処罰を受ける可能性があります。
この場合、海外に渡航して金を購入する際には国外にいることになりますので、公訴時効の期間にはその期間が含まれないことになります。
そのため、公訴時効が完成しているか否かを判断するにあたっては、海外にどれくらいの期間いたのかを正確に把握しておく必要があります。
まとめ
このように、脱税の場合には、課税に関する時効や除斥期間だけでなく刑事事件化した場合には別途公訴時効も考えなければなりません。
また、時効や除斥期間は比較的長い期間が設定されていますし、徴収権などの時効には中断事由が定められており、容易に時効完成を狙うことはできないようになっています。
長期間にわたって脱税をしてしまった。悪意はなかったが申告を忘れてしまっていたというような場合には、どの部分について課税や罪に問われることになるのかを専門家に相談してみるのがいいでしょう。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、刑事事件を見据えた一貫したアドバイスを差し上げることができますので、一度お電話ください。
脱税と時効~①~
脱税をしてしまった場合の時効について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が2回にわたって解説します。
第1回目は時効と除斥期間の違いや、賦課権の除斥期間、徴収権や還付請求権の時効について解説します。
時効と除斥期間
除斥期間:一定の権利について、法律で定められた期間内にその権利を行使しないと、権利が当然に消滅する場合の期間です。
時効:権利が一定期間行使されない時に、その権利を消滅させる制度です。
除斥期間と時効との違いは、主に以下の2つです。
①除斥期間には中断(完成猶予・更新)がないのに対して、時効には中断事由がある
②除斥期間は期間経過によって絶対的に権利が消滅するため当事者の援用を要しないが、時効は当事者の援用が必要
賦課権の除斥期間
賦課権とは、税務署長が納税義務の確定手続を行うことができる権利です。
賦課権の行使については、時効ではなく除斥期間が設けられています。
納税義務はあっても、未確定のまま賦課権の除斥期間を経過してしまった場合は、賦課権の行使による納税義務の確定はできないことになります。
①除斥期間の起算日
・申告納税方式の場合
法定納期限の翌日(ただし、還付請求申告書が提出されたものについては、その提出日の翌日)
・賦課課税方式の場合
ア 課税標準申告書の提出を要する国税の場合
提出期限の翌日
イ 課税標準申告書の提出を要しない場合
納付義務の成立した日の翌日
②除斥期間の長さ
・3年の除斥期間
課税標準申告書の提出を要する国税で申告書の提出があったもの(納付すべき税額を減少させるものを除く)(国税通則法70条1項)
・5年の除斥期間
更正、決定及び賦課決定(3年の除斥期間に該当するものを除く)(国税通則法70条1項)
・7年の除斥期間
偽りその他不正の行為により、税額の全部若しくは一部を免れ若しくは還付を受けた国税についての更正決定等又は偽りその他不正の行為により、その課税期間において生じた純損失等の金額が過大である納税申告書を提出していた場合における純損失等の金額についての更正(10年の除斥期間にあたるものを除く)(国税通則法70条5項)
・10年の除斥期間
法人税にかかる純損失等の金額で当該課税期間において生じたものを増加させ、若しくは減少させる更正又は当該金額があるものとする更正(国税通則法70条2項)
徴収権の消滅時効
徴収権とは、すでに確定して国税債権の履行を求め、収納することができる権利です。
私法上の債権に極めて似た性格を持つことから、国税の優先権(国税徴収法8条)と自力執行権(国税徴収法47条など)が認められている点を除いて、私債権と同様に扱うものとされており、時効制度がとられています。
もっとも、徴収権の時効には、民法上の時効とは違い、①当事者は時効の援用を要せず、また、その利益を放棄することができなかったり(消滅時効の絶対的効力)、②民法の中断事由のほかに特別の中断事由(完成猶予・更新)があります。
①消滅時効の起算日
国税の徴収権の消滅時効は5年です(国税通則法72条1項)。
この5年の起算日は、原則としてその国税の法定納期限の翌日となっています(同条)。
②時効の中断(完成猶予・更新)
民法では、時効の中断事由(完成猶予・更新)として①請求等、②差押え(強制執行等)仮差押え又は仮処分、③催告、④承認などを定めています。
国税の徴収権の消滅時効には、民法上の中断事由のほか、①納税申告、納税の猶予の申請又は換価の猶予の申請、延納の申請及び一部の納付、②税務署長によってなされる更正、決定、賦課決定、納税の告知、督促、交付要求についても中断事由(完成猶予・更新)として定められています(国税通則法73条1項)。
③消滅時効の停止
時効の停止とは、時効の完成を一定期間延長するものであり、中断とは異なり、停止の時までに進行した時効期間の効果は失われません。
国税の徴収権の時効は、延納、納税の猶予又は徴収若しくは滞納処分に関する猶予をした国税について、その延納又は猶予がされている期間内は、停止します(国税通則法43条4項)。
還付金等の還付請求権の消滅時効
還付請求権とは、納税者が還付を求めるために申告などをして、納め過ぎた税金を返してもらう権利です。
還付請求権についても徴収権と同様に時効制度が採用されています。
①消滅時効の起算日
還付請求権の消滅時効は5年です(国税通則法74条1項)。
この5年の起算日は、その還付を請求することができる日(過誤納金の発生した時の翌日及び還付金の還付請求の日又は還付請求ができる日)です(同条)。
②時効の中断(完成猶予・更新)
納税者が行う還付を受けるための納税申告書、還付請求書の提出は、民法上の「催告」としての効力があり、また、税務署長から支払通知書などが還付請求者に送達されたときに、国の「承認」として時効が中断します。
また、徴収権の消滅時効にかかる中断に関する規定が準用されています(国税通則法74条2項)。
~次回に続く~
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