関西を拠点に活動するバンドに『八ツ尾順一と税金一座』という税金のことを歌にして届ける活動をする異色のグループがある。
バンドの構成メンバーは,「NHKのど自慢」のバックミュージシャンだったプロ奏者たちに,税法を専門とする大学教授で税理士,公認会計士を勤める八ツ尾順一さん(72歳)がバンドのボーカルを務めるリーダー,他にプロギタリスト(70歳)らが参画する。2014年から毎年2曲ずつをリリースしており,今までに20曲を制作した。
楽曲のテーマは,ビートルズの「タックスマン」**のような歌を作ることを目指しており,ずばり,バンドの歌を聴く人達に正しい税金リテラシーを持ってもらいたく難しいとされる税金の話を一般の人に分かりやすく伝えることを狙いとしており,「日本には税金に関する歌があまりない。歌をきっかけに税金に関心を持ってほしい。」として今日もマイクで喉を振るわせ,活動している。
曲名には,「消費税よ,どこへ行く」,「おじいちゃんの恋~贈与税物語より」「ああ~それは加算税」「源泉徴収 恨み節」などと税法上の法律用語がちりばめられており,その歌詞は説明調で長くなり,一小節に収まり切らないのを修正に修正を重ねて出来上がったメロディは,藤圭子風,谷村新司風にアレンジし見事に収まっているという。
たとえば,こんな感じ ~「源泉徴収恨み節」から~
♫ 債務免除は給与所得 ♫
♫ なぜ給与所得なのか教えてよ ♫
これは,社団の理事長が社団から約52億円の債務を負っていたところ,これを同社団が債務免除した事案に関し,広島高裁が「本件債務免除は,理事長の資力喪失が理由であるから,理事長に対する役員対価(報酬)とみることは相当ではなく,所得税法にいう給与等に該当するということはできず債務免除益について,社団に源泉徴収義務はない。」とした判断に対し,最高裁が審理を差し戻した裁判例(2016年10月)を歌にしたものです(この場合社団に源泉徴収義務があるとすれば,同社団は,源泉徴収額を納税しなければないのが理屈となりますね。差し戻し後の判断は未了のようです。)。
たしかに税法に関する裁判例は,難解で理解が困難な向きが多いようです。これを分かりやすくユニークな歌にすれば,一般にも理解されることとなるでしょう。
同バンドの曲はカラオケにもなっているものもあり,我こそはと思われる方は,税金の歌に挑戦してみてはいかがでしょうか。
*リテラシーとは本来は読み書きの能力を指し,ここでは税金に対する基本的事項を理解していることを指す言葉。金融リテラシーなどとよく使われている。
**ザ・ビートルズ「タックスマン」
1966年の7thアルバム「Revolver」に収録されているジョージ・ハリスンの制作になる曲,イギリスで富裕層に課せられていた最高税率95%という高い税率に対する不満から,当時売れまくっていたビートルズが自分たちが支払う高い税率に音を上げ,税金に対する皮肉を込めて作った曲とされている。