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犯罪行為によって得た利益も所得税の課税対象となるのでしょうか。
本日と次回の2回にわたって、詐欺の事例をもとに弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。
事例
大阪市福島区Aさんは、友人にうその投資話を持ち掛け、Aさんの話を信用した友人から投資に充てるためとして4500万円を預かりました。
Aさんは預かった4500万円を遊興費などに費消しましたが、友人をだまして得たお金なので、確定申告はしていませんでした。
後日、Aさんは大阪福島税務署から税務調査を受けることになり、今後のことが不安になったAさんは弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所の無料相談を利用することにしました。
(フィクションです)
解説
所得税法における所得の意義
日本の所得税法上は、所得について明確な定義規定はありません。
しかし、すべての経済的利益を所得とする、いわゆる包括的所得概念を採用しているものと解されています。
すべての経済的利益が所得であるとすると、違法または無効な行為によって生じた利益についても所得に含まれることになります。
この点について、所得税基本通達36-1は、「法第36条1項に規定する『収入金額とすべき金額』又は『総収入金額に算入すべき金額』は、その収入の基因となった行為が適法であるかどうかを問わない」と規定しています。
したがって、本件のAさんが詐欺によって得た利益についても所得として確定申告をする必要があるということになります。
一時所得か雑所得か
詐欺によって得た利益についても所得税の確定申告が必要な課税対象となることはわかりましたが、確定申告をするにあたっては、詐欺によって得た利益が「一時所得」か「雑所得」かが問題となります。
なぜならば、一時所得と雑所得では税額を計算するベースとなる「課税所得金額」に大きな差がでるからです。
①一時所得の場合
(一時所得の金額-必要経費-特別控除額)×2分の1=一時所得の課税所得金額
という計算式で求めます。
本件のAさんの場合、(4500万-0円-50万)÷2=2225万円となり、2225万円が一時所得の課税所得金額となります。
※一時所得の金額から経費を差し引いた金額が50万円以上の場合、特別控除額は50万円
Aさんに他に収入がない場合には、総所得金額も2225万円となるため、所得税の税率は40%となります。
また、この場合の所得税の控除額は279万6000円です。
そのため、Aさんに課税される所得税は2225万×0.4-279万6000円=610万4000円となります。
②雑所得の場合
雑所得の金額-必要経費=雑所得の課税所得金額
という計算式で求めます。
本件のAさんの場合、4500万-0円=4500万円となり、4500万円が課税所得金額となります。
4000万円を超えている場合の所得税の税率は45%、控除額は479万6000円です。
そのため、Aさんに課税される所得税は4500万×0.45-479万6000円=1545万4000円となります。
このように、一時所得か雑所得かでは、所得税の額に2倍以上の差が出てしまうことになります。
では、本件のAさんの場合には一時所得と雑所得のいずれに当たる可能性が高いでしょうか。
この点について、最高裁は「所得税法上、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得および譲渡所得以外の所得で、営利を目的とする継続的行為から生じた所得は、一時所得ではなく雑所得に区分されるところ、営利を目的とする継続的行為から生じた所得であるか否かは、文理に照らし、行為の期間、回数、頻度その他の態様、利益発生の規模、期間その他の状況等の事情を総合考慮して判断するのが相当である」と判示しています(最判平成29年12月15日)。
そのため、一時所得か雑所得かの区別は、ほかの8種類の所得に当たらないことを前提として、「営利を目的とする継続的行為から生じた所得」といえるか否かが主な基準となっているということができるでしょう。
本件のAさんの場合には、1度に4500万円をだまし取っているのであれば、継続的行為とは明らかにいえないので、一時所得に当たるということになるでしょう。
一方、何回かに分けてだまし取っていた場合には、行為の期間や回数、頻度そのほかの態様など判例が示している考慮要素をもとに判断していくことになり、一概にどちらに当たるということは難しいといえます。
一時所得に当たるのか否かについては、このように様々な考慮要素をもとに判断していくことになるため、一度専門家に相談してみるのがよいでしょう。
次回はペナルティと刑事罰について解説します。
~次回に続く~