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詐欺で得た利益と所得税~②~

2022-10-05

前回に引き続いて、詐欺によって得た利益と所得税の関係について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。
今回は、ペナルティや刑事罰について解説します。

無申告のペナルティ

詐欺によって得た利益も課税対象となるため、一時所得か雑所得か関係なく、確定申告をして納税する必要があります。
Aさんは遊興費などにすべて使い切ってしまっていますが、だからといって申告をしないでいると、加算税や延滞税というペナルティを受けることになります。

①無申告加算税
確定申告期限内に申告をしていない場合、無申告加算税が課せられます。
無申告加算税は、原則として、納税すべき税額に対して、50万円までは15%、50万円を超える部分は20%の割合を乗じて計算した金額になります。
Aさんが本件詐欺で得た利益が雑所得とされた場合、納税すべき税額は1545万4000円でしたので、約300万円が無申告加算税として本来納税すべき税額に加算されることになります。

②重加算税
仮装隠ぺいなどの方法により、無申告であることが悪質性が高いと判断された場合に、無申告加算税に代えて課せられます。
重加算税は無申告加算税の基礎となる税額の40%に相当する額が課せられることになります。
Aさんが本件詐欺で得た利益が雑所得とされた場合には、1545万4000円の40%が重加算税として課せられる税額となりますので、約620万円を本来納税すべき税額に加算して納めなければならなくなります。

③延滞税
納税が遅れると、その期間に応じた「延滞税」の支払いが求められます。
税率は、納税すべき日から2か月までは7.3%、2か月を過ぎると14.6%が本来納税すべき金額にかかってきます。

刑事事件化する場合

本件のAさんには、税務調査が入っていますが、悪質性が高かったり脱税額が巨額になる場合には、査察調査に発展することもあります。
査察調査は税務調査と違い、強制的に調査をすることができ、最終的には刑事告発に至る場合が少なくありません。実際、査察調査から刑事告発される割合は約70%と言われています。

本件のAさんが問われることになる犯罪としては、詐欺のほかに、所得税法違反と地方税法違反が考えられます。

①詐欺を問われる場合
Aさんが詐欺に問われる場合、一般的には被害者からの被害届などを受理した警察が捜査を行います。
Aさんが詐取した金額からすれば、逮捕されてしまう可能性が高いでしょう。
逮捕された後は、最大20日間に及ぶ被疑者勾留中に警察による取り調べなどが行われ、最終的には検察官が起訴・不起訴を判断します。
検察官が起訴するより前に、被害者に詐取金の全額を弁償し、示談が成立していれば、不起訴となる可能性もありますが、示談がなければ起訴される可能性が高いといえます。
起訴されると保釈が許可されない限り、身体拘束を受けたまま裁判を受けてもらうことになります。
Aさんの場合、判決が出る前までに被害金の全額弁償ができていれば、執行猶予付きの判決を受けることができる可能性が高くなりますが、被害弁償ができていなければある程度長期の実刑判決を覚悟しなければならないでしょう。
このように、詐欺に問われる場合には、警察の捜査を受けること、示談ができるかどうかによって処分が大きく変わることが特徴といえます。

②所得税法違反、地方税法違反に問われる場合
Aさんの場合、所得税の申告をしていないということは、住民税の納付も行っていないでしょうから、所得税法違反のほかに地方税法違反にも問われる可能性があります。
Aさんが所得税法違反や地方税法違反に問われる場合、基本的には査察調査ののちに国税局から告発を受けた検察庁が捜査を担当します。
逮捕される可能性も高いですが、逮捕された場合には、捜査を検察庁が担当している関係で留置される場所は警察署ではなく拘置所となります。
その後は詐欺の場合と同様に取り調べなどを受けて起訴・不起訴が決まります。
加算税を含めて脱税した税額のすべてを納付し終わっているといった事情があるなど事後的にでも悪質性を低くする活動ができた場合には、不起訴となる可能性もあります。
起訴をされた場合には、詐欺と同様の手続きで最終的には判決を受けることになります。
税法違反の場合の特徴として、懲役刑だけではなく罰金刑を併科することができることが挙げられます。
そのため、仮に懲役刑の部分に執行猶予が付されたとしても罰金刑が併科されて罰金刑部分に執行猶予が付されていない場合には、罰金は支払う必要があります。
このように、税法違反の場合には、検察庁が捜査を担当すること、示談ではなく税納付による被害回復を図ること、罰金刑を併科できることが特徴といえます。

まとめ

Aさんのように詐欺などの犯罪によって得られた利益も課税対象になりますので、確定申告をしていなければ、詐欺の罪とは別に所得税法違反など税法違反の罪にも問われてしまう可能性があります。
そのため、犯罪行為によって利益を得ている場合には、その犯罪だけではなく税金の問題についても考慮しておく必要があります。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、刑事事件を中心として扱っていますが、税法についても知識のある弁護士がそろっています。
初回の相談は無料ですので、一度ご相談にお越しください。

詐欺で得た利益と所得税~①~

2022-09-28

犯罪行為によって得た利益も所得税の課税対象となるのでしょうか。
本日と次回の2回にわたって、詐欺の事例をもとに弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。

事例

大阪市福島区Aさんは、友人にうその投資話を持ち掛け、Aさんの話を信用した友人から投資に充てるためとして4500万円を預かりました。
Aさんは預かった4500万円を遊興費などに費消しましたが、友人をだまして得たお金なので、確定申告はしていませんでした。
後日、Aさんは大阪福島税務署から税務調査を受けることになり、今後のことが不安になったAさんは弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所の無料相談を利用することにしました。
(フィクションです)

解説

所得税法における所得の意義

日本の所得税法上は、所得について明確な定義規定はありません。
しかし、すべての経済的利益を所得とする、いわゆる包括的所得概念を採用しているものと解されています。
すべての経済的利益が所得であるとすると、違法または無効な行為によって生じた利益についても所得に含まれることになります。
この点について、所得税基本通達36-1は、「法第36条1項に規定する『収入金額とすべき金額』又は『総収入金額に算入すべき金額』は、その収入の基因となった行為が適法であるかどうかを問わない」と規定しています。
したがって、本件のAさんが詐欺によって得た利益についても所得として確定申告をする必要があるということになります。

一時所得か雑所得か

詐欺によって得た利益についても所得税の確定申告が必要な課税対象となることはわかりましたが、確定申告をするにあたっては、詐欺によって得た利益が「一時所得」か「雑所得」かが問題となります。
なぜならば、一時所得と雑所得では税額を計算するベースとなる「課税所得金額」に大きな差がでるからです。

①一時所得の場合
(一時所得の金額-必要経費-特別控除額)×2分の1=一時所得の課税所得金額
という計算式で求めます。
本件のAさんの場合、(4500万-0円-50万)÷2=2225万円となり、2225万円が一時所得の課税所得金額となります。
※一時所得の金額から経費を差し引いた金額が50万円以上の場合、特別控除額は50万円
Aさんに他に収入がない場合には、総所得金額も2225万円となるため、所得税の税率は40%となります。
また、この場合の所得税の控除額は279万6000円です。
そのため、Aさんに課税される所得税は2225万×0.4-279万6000円=610万4000円となります。

②雑所得の場合
雑所得の金額-必要経費=雑所得の課税所得金額
という計算式で求めます。
本件のAさんの場合、4500万-0円=4500万円となり、4500万円が課税所得金額となります。
4000万円を超えている場合の所得税の税率は45%、控除額は479万6000円です。
そのため、Aさんに課税される所得税は4500万×0.45-479万6000円=1545万4000円となります。

このように、一時所得か雑所得かでは、所得税の額に2倍以上の差が出てしまうことになります。
では、本件のAさんの場合には一時所得と雑所得のいずれに当たる可能性が高いでしょうか。
この点について、最高裁は「所得税法上、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得および譲渡所得以外の所得で、営利を目的とする継続的行為から生じた所得は、一時所得ではなく雑所得に区分されるところ、営利を目的とする継続的行為から生じた所得であるか否かは、文理に照らし、行為の期間、回数、頻度その他の態様、利益発生の規模、期間その他の状況等の事情を総合考慮して判断するのが相当である」と判示しています(最判平成29年12月15日)。
そのため、一時所得か雑所得かの区別は、ほかの8種類の所得に当たらないことを前提として、「営利を目的とする継続的行為から生じた所得」といえるか否かが主な基準となっているということができるでしょう。
本件のAさんの場合には、1度に4500万円をだまし取っているのであれば、継続的行為とは明らかにいえないので、一時所得に当たるということになるでしょう。
一方、何回かに分けてだまし取っていた場合には、行為の期間や回数、頻度そのほかの態様など判例が示している考慮要素をもとに判断していくことになり、一概にどちらに当たるということは難しいといえます。

一時所得に当たるのか否かについては、このように様々な考慮要素をもとに判断していくことになるため、一度専門家に相談してみるのがよいでしょう。
次回はペナルティと刑事罰について解説します。
~次回に続く~

金の密輸は税法違反

2022-09-12

金の密輸事件を参考に、脱税違反について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。

参考事例

Aさんは、東南アジアで金を買い付け、日本に持ち帰って買い取り業者に売るという行為を繰り返していました。
金売買の利益について、確定申告をしていなかったAさんのもとに、大阪の北税務署が税務調査に入ってしまい、今後どうなるのか心配になったAさんは、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所の法律相談を受けることにしました。
(この事例はフィクションです)

金密輸に関係する犯罪

今回のAさんが行っていた行為は金を海外で購入し、日本に持ち帰って日本で売るというものです。
ここでまず「金を日本に持ち帰ることが違法かどうか」です。
海外で購入したものを日本に持ち帰ることは輸入に当たるといえますが、金を日本に持ち帰る場合には、注意が必要です。
なぜなら、①重量が1キログラムを超える金の地金(純度90%以上)又は②ほかのお土産と合わせて20万円を超える金の地金を携帯輸入する場合には、事前に税関で申告する必要があるからです。
このような場合に、無申告で日本に持ち帰ると、「関税法違反」として処罰の対象となります。
関税法違反となる場合には、5年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金またはその両方の刑罰が科せられる可能性があります。

次に、Aさんは金を売った利益について確定申告をしていないので、税金を免れているといえるでしょう。
この場合に問題となるのは、消費税法所得税法地方税法です。
Aさんは、金を売っていますが、この際に消費税が課されます。
また、金を売った利益は所得といえますので、利益に応じて所得税や住民税が課せられることになります。
しかし、Aさんは、確定申告を行っていないので、これらの税をきちんと納めていないことになります。
そうすると、消費税法違反所得税法違反地方税法違反という罪に問われてしまう可能性があります。
この場合の罰則は、10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金またはその併科となっています。

手続きの流れ

今回のAさんは、大阪の北税務署から税務調査を受けることになっています。
税務調査は、所得隠しの疑いがあったりする場合に、確定申告の内容が適切かどうかを見極めるために行われるもので、任意調査です。
しかし、この税務調査で所得隠しが明るみになり、意図的に所得を隠していて悪質性が高かったり、無申告にかかる税額が多額に上ったりした場合には、国税局の査察調査を受けることになります。
査察調査は、強制調査として行われ、刑事告発を視野に行われます。
国税局査察部が会社などに立ち入り、必要な資料などを強制的に押収して聴き取り調査などを行います。
その後、刑事告発するかどうかが検討され、刑事告発すべきとなった場合には、検察庁に対して告発がなされ、以後は刑事事件として捜査を受けることになります。
多くの場合には逮捕されて捜査を受けることになり、その後刑事裁判を受けることになります。
刑事裁判では、有罪無罪のほか、有罪の場合には実刑か執行猶予判決か、罰金をいくら併科すべきかが決められます。
このように、脱税を疑われる場合には、税務調査から査察調査、刑事事件手続まで発展する可能性があります。

どのように対処すべきか

税務署の税務調査が入った場合には、まずは専門家に相談することをおすすめします。
なぜ税務調査が入ったのかを専門家である税理士や弁護士とともに検討して、査察調査に発展したり、刑事事件化してしまう可能性があるのかを確認してもらいましょう。
場合によっては、修正申告などで十分対応することが可能です。
しかし、査察調査や刑事事件に発展する可能性がある場合には、より慎重な対応が必要です。
告発をされないために、修正申告を行い未納の税額を早急に収めたり、聴き取り調査に対してきちんと対応したりできるかが重要となってきます。
また、刑事事件となって捜査を受けることになった場合には、逮捕されないための活動や不起訴獲得に向けた活動、さらには刑事裁判に対する準備なども早い段階から行っていくことが必要です。
特に査察調査が入った場合には、告発率は70%程度と言われていますので、刑事事件化を見据えて刑事事件に強い弁護士にも相談し、どのように対処していくべきか確認していくべきでしょう。
今回のAさんの場合には、持ち帰った金の量や回数、得た利益など様々な要素によって、その後の手続きの流れは変わってきます。
税法違反となれば法律上定められている刑罰も重いので、早期に専門家に相談してください。

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