Archive for the ‘税法全般’ Category
【制度解説】予納とは
予納について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。
税務調査がなかなか終了しなかったり、税務調査の結果、重加算税を含む多額の追徴税額が見込まれる場合、税務調査官より「予納しますか?」と聞かれることがあります。
そもそも予納とは何でしょうか
予納とは、調査等により近日中(おおむね6か月以内)に納付すべき税額の確定が見込まれる場合に、修正申告書等を提出する前であっても、その納付すべき税額の見込金額を、税務署長に申し出て、あらかじめ納付(予納)することができる制度です。
この点 期限内申告書においては、おおむね12か月以内に納付すべき税額が確定することが確実な国税について、あらかじめ税務署長に申し出ることで予納することができます。
この予納を活用するためには、事前に税務調査官に対し「国税の予納申出書」を提出することになります。
予納した時点で延滞税の計算がストップする
税務調査で問題点を指摘された場合、通常であれば、本税、加算税、延滞税、という3種類の税金を追加で納付することになります。
この点、実際には、税務署内での決裁手続を経た後に修正申告書を提出し本税を納付するのが通常の流れとなりますので、税務調査の結果追加で納付すべき本税額が早々に確定しているにも関わらず、実際の納付日が1か月~2か月後、あるいはそれ以上の日になってしまうことがしばしばあります。
延滞税については、法定納期限の翌日から実際に納付された日までを計算期間として税額が決まります。そのため、税務調査で重加算税が賦課されるような問題点が把握された結果、追加で納付すべき本税が生じてしまう場合には、追加の見込金額を予納すればその時点で延滞税の計算がストップするので、一日でも早く追加分を納付した方が延滞税が少なくなるというメリットがあります。
延滞税の税率
令和5年の時点で、2ヶ月以内:2.4%、2ヶ月超過:8.7%が延滞税の税率となります。
2ヶ月以内は低くなっており、2ヶ月超過すると一気に上がります。
2ヶ月以内の税率が低く抑えられている理由は、延滞税の早期納付を促すためです。
このように延滞税といっても、年利2.4~8.7%の金額(令和5年)の支払いになり、時期が経過するごとに雪だるま式に増えていきますので、延滞税の計算をストップさせ、支払い分を減らすことは大変重要です。
税務調査官より「予納しますか?」と聞かれることの意味
税務調査官によっては、「延滞税の負担を少しでも減らすために予納してはいかがでしょうか?」と納税者側に提案してくれることがあります。以上説明したことからすれば、この提案は正しい提案であり、このような調査官は気の利いた良心的な調査官ということになります。
そうであれば、税務調査官から「予納どうしますか?」との話が無い場合に、追加で納付する税金が多額な時はぜひこちらから予納申出書を提出したいと積極的に申し入れるべきでしょう。
予納した額が、修正申告等により確定した税額と異なる場合の処理
予納した額が、修正申告等により確定した税額よりも少ない場合には、予納した額は修正申告等により確定した本税に充てられ、残りの本税、加算税、延滞税については、別途納付することになります。
予納した額が、修正申告等により確定した税額よりも多い場合には、予納した額を修正申告等により確定した本税に充てた残額については、順次、他の未納の国税に充てられ、納め過ぎた額については還付されることになります。
最後に
多額の追徴額が見込まれる場合、不安を感じたときには、専門家にすぐに相談しましょう。予納という制度は知らない方も多いかもしれませんが、メリットの多い制度です。
脱税事件と刑事裁判。弁護士に依頼をするメリット
脱税事件で刑事裁判になってしまった場合、どのようなリスクを負うことになるのか、そして脱税事件において弁護士に相談・依頼することの意味を、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。
参考事件
A株式会社は新型コロナウイルスが蔓延した影響を受けて、売上が大幅に落ち込んでいました。その後、地道な営業努力が功を奏してA株式会社の売上は回復していきましたが、今後もコロナ禍のような事態になった場合に備えられるよう、資金をプールしておきたいと考えたA株式会社の代表取締役は、経理担当と示し合わせて、架空の外注費を計上するようになりました。
A株式会社の所得隠しは数年にわたって続きましたが、最終的に国税局による査察調査が行われ、検察庁への刑事告発がされてしまいました。
(この参考事件はフィクションです)
脱税事件と刑事事件
本来支払うべき税金の納付を免れる脱税事件は、法人税法や所得税法といった各種税法に違反しています。各種税法は罰則を定めているため、脱税事件は刑事事件という側面を持っています。
もっとも、すべての脱税事件が刑事事件として扱われるわけではありません。申告内容に不自然な点が見られた場合、通常は税務署による税務調査が行われます。申告に不備があった場合でも、金額によっては税務調査だけで済み、修正申告を行うことで、それ以上の手続には進まないこともあります。
脱税額が多額にわたる場合や、虚偽の申告や隠蔽などが行われていた場合は、税務調査だけでは済まずに、国税局による査察調査が行われる可能性があります。参考事件のA株式会社が行った架空の外注費の計上は、典型的な不正の手段による脱税といえます。
査察調査は検察庁への告発を念頭に置いて行われるものであるため、国税局による査察まで手続が進んでしまうと、告発によって刑事事件となってしまう危険が高まります。もっとも、査察調査が実施されても告発がされないこともあり、その場合は刑事事件にはならないで終了することになります。
刑事裁判になってしまった場合
税務調査や査察調査で済んだとしても、調査に対応する手間がとられたり、会社の重要な書面が税務署や国税局に一定期間持ち出されたりといった負担が生じます。申告内容に不備があった場合は本税を納付する必要が出てきますし、延滞税や各種加算税の納付も求められます。重加算税も課された場合は、相当な経済的負担を被ることになります。また、税務調査の過程で取引先の会社や銀行に反面調査が入ることもあり、会社の信用に関わることもあります。
刑事告発を受けて刑事手続に移行してしまうと、さらなる負担を被ることになります。刑事事件となった以上、税務調査や査察調査と異なり、逮捕や勾留といった身体拘束を伴うこともあります。代表取締役らが逮捕・勾留されてしまった場合、経営に対してより深刻な影響がもたらされます。脱税事件による逮捕は実名報道を伴うため、会社への信用の影響も無視できません。
捜査の結果、検察庁に起訴されれば、脱税事件として刑事裁判を受けることになります。脱税事件の場合、代表取締役ら役員に対する自由刑と会社に対する罰金刑が併科されます。自由刑に執行猶予がつかなければ、刑務所へ服役することになります。
税理士だけでなく弁護士に相談・依頼をする意味
脱税事件を起こしてしまった場合、税務調査や査察調査の段階では、税理士による早期の修正申告や予納を行っていくことになります。しかし、税理士だけでなく、弁護士へも早期に相談・依頼をしておくことが重要です。
先ほども説明したとおり、国税局による告発がされた場合は、刑事事件となります。起訴がされないよう検察官に働きかける、起訴された場合に裁判で弁護を行うことは、弁護士でなければできません。特に、脱税事件での刑事裁判では多額の罰金が求刑されることが珍しくなく、適切な弁護対応によって罰金額を減額させていくことに大きな意味があります。
実際に告発や起訴がされる以前に、刑事事件化するリスクがどの程度あるかについて、早期に弁護士から助言を得ておくことが重要です。税務調査や査察調査を受けている場合、弁護士にも相談をしておくことをお勧めします。
【制度解説】検察官による脱税捜査を詳しく解説
検察官による脱税捜査について、国税犯則事件の調査と比較しながら具体例を交えて、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が詳しく解説します。
国税犯則調査とは
国税犯則調査とは、国税通則法に基づき、各国税局の調査査察部等に所属する国税査察官等によって行われ、任意調査と強制調査がありますが、その目的は、国税に関する犯則事件の証拠を収集して、犯則事実の有無及び犯則者を確定することにあり、最終的には、告発等により終了するものです。
犯則調査は、あくまで行政調査であり、公訴の提起、つまり起訴を目的とした捜査ではありませんが、国税査察官らによる質問、検査のほか、裁判官に対し、臨検捜索差押許可状等を請求し、それらの令状により捜索、差押えなどの強制手段を取ることができることや、それらの強制手段によって収集した証拠によって犯則事実の有無及び犯則者の確定をし、検察官への告発を経て刑事手続に移行するという点で、刑事手続と密接な関連を持つ手続であるということができます。ただし、国税査察官らによる強制調査では、逮捕、勾留、身体検査、鑑定留置等の対人的強制処分は認められていません。
告発要否勘案協議会
国税査察官らによる犯則調査は、国税通則法による独自の行政調査手続であり、検察官と国税査察官らとの間には、検察官と司法警察員との間のような刑事訴訟法上の指揮・指示関係にはなく、同法上の協力義務の関係もありません。しかしながら、前述したとおり、犯則調査は、最終的には犯則嫌疑者の刑事訴追を目的として行われ、告発によって検察官の捜査に移行するものですから、実質的には犯罪捜査と異ならないということができます。また国税通則法に基づく国税に関する犯則事件の告発要否は、そもそも国税当局がその責任において決定するところではあるのですが、原則的には、検察官は、国税査察官の告発をまって事件を処理している実情からすると、脱税事件に関して、検察権が適正に行使されるためには、国税査察官による告発が適正・公平に行われることが不可欠であることから、検察官と国税査察官らによって構成される告発要否勘案協議会が設置されています。
この協議会において、個々の直接国税犯則事件について、検察官が、法律上又は事実認定上の問題点等について意見を述べ、国税査察官らとの協議を行うことにより、国税査察官による告発が適正・公平に行われるのであり、結局、同協議会を経て告発相当と判定された事件のみが告発されています。
実際には、告発要否勘案協議会の相当以前から、事件相談という形で国税当局の事務方レベルから検察庁に連絡があり、何度もやりとりを重ねた上で、告発意思が形成され、勘案協議会へとつながります。
この協議会を経ての告発率は、6割~7割程度であり、一時、コロナ禍の影響などもありましたが、国税庁が発表した令和4年度の査察の概要によれば、告発率は74パーセントを超える高水準となっています。
検察官による脱税捜査
こうして告発要否勘案協議会を経て、国税査察官からの告発を受けると、いよいよ検察官による脱税捜査が始まります。脱税捜査は、東京地方検察庁などの一部の大規模庁では、特捜部が担当しますし、横浜、さいたま、千葉、名古屋などのこれに準ずる規模の庁では、特別刑事部と称する部署が担当します。そのほかの地方都市の地検では、通常の一般事件を扱う検事らがチームを組んで捜査をしますし、事件の規模によっては、東京地検などから応援検事が派遣されることもあります。
検察官による捜査でも、捜索差押えは徹底して行われます。直接国税の脱制捜査は、個人又は法人の一定期間における経済活動による所得等を対象とするため、捜査の範囲は極めて広範囲に及びます。
国税査察官らの臨検捜索差押えが先行していますが、個人や法人の経済活動が継続していることから、国税局の捜索時には他の場所に隠匿されていた重要な証拠物が移し替えられている可能性や国税局の調査以降に事業資金の動きがあり、簿外資産発見の手がかりをつかんだりするなどすることもあります。そうした場合も含め、検察官は独自に又は国税査察官らと共同で捜索差押えをする場合もあります。
会社社長と税理士が共謀し、税理士の専門知識を生かして脱税指南をした事案などでは、会社社長が、あとで税理士に言い逃れをされるのではないかと考えて秘密録音をしていた事実が、国税査察官らの捜索後に判明し、検察官による捜索差押えによりその録音体を押収して、税理士らの犯意を立証したといった事案などもあります。
また、検察官による脱税捜査で、国税査察官らの犯則調査と決定的に異なるのは、被疑者の身柄を拘束する逮捕、勾留ができるかです。国税査察官らは、司法警察員ではないため、被疑者の身柄を拘束する逮捕の権限は認められていません。前述したとおり、検察官は、国税査察官らの告発によって、脱税捜査を開始するわけですが、告発要否勘案協議会による告発率は非常に高く、したがって、国税査察官らによる強制調査が入ったということは、いよいよもって検察官による脱税捜査が始まり、逮捕勾留の可能性が高まってきたということができます。逮捕勾留というのは、身柄拘束を伴うために、まるでそれ自体が刑事処罰のような印象がありますが、これはあくまで刑事手続であり、罪証隠滅、逃亡のおそれのある被疑者について認められる対人的強制捜査です。
脱税で逮捕される事案は、一定の高額脱税の場合ですが、そのような脱税事案に関わる人は、会社経営者や医師など一定の社会的地位のある人達が多く、逃亡のおそれは認めにくいことが多いですが、事件関係者が多数いるとか、証拠隠滅のおそれがあるなどの理由が認められることが多く、その場合、逮捕勾留の可能性も高まってきます。
このような強制捜査に対応するためには、税理士だけでは対応できないので、刑事事件を専門に取り扱う弁護士による弁護活動は欠かすことはできません。
こうした事態に陥いる前に少しでも早く刑事事件を専門とする弁護士に相談した方がよいでしょう。
国外財産調書制度とは
国外財産調書制度とはどのような制度かについて、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。
国外財産調査制度とは
この制度は、平成24年度財政改革において創設された制度です。
制度の概要
1 国外財産調書の提出
その年の12月31日において、価額の合計額が5000万円超える国外財産を有する非居住者以外の居住者は、当該財産の種類、数量及び価額その他必要な事項を記載した国外財産調書を、翌年3月15日(令和5年分以後は翌年6月30日)までに、税務署長に提出しなければなりません。
この場合、財産の評価については原則として時価ですが、見積価額とすることもできます。
また、国外財産提出に当たっては、別途「国外財産調査合計表」を作成し、添付する必要があります。
2 過少申告加算税等の特例
国外財産調書を提出期限内に提出した場合に、国外財産調書に記載がある国外財産に関して所得税・相続税の申告漏れが生じたときは、その国外財産に係る過少申告加算税又は無申告加算税が5パーセント軽減されます。
逆に、国外財産調書の提出が提出期限内にない場合又は提出期限内に提出された国外財産調書に記載すべき国外財産の記載がない場合に、その国外財産に関して所得税・相続税の申告漏れ(死亡した方に係るものを除きます。)が生じたときは、その国外財産に係る過少申告加算税又は無申告加算税が5パーセント加重されます(ただし、相続国外財産について、相続国外財産を有する方の責めに帰すべき事由がなく提出等がない場合には、加重の対象になりません。)。
3 罰則
国外財産調書に偽りの記載をして提出した場合又は国外財産調書を正当な理由がなく提出期限内に提出しなかった場合には、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処せられることがあります。ただし、正当な理由がなく提出期限内に提出しなかった場合には、情状によりその刑を免除することができることとされています。
(国外財産等調書法5条、6条、10条参照)
何故、国外財産調書制度が創設されたのか
「海外の資産は、税務調査を免れることができる」という話を耳にすることがあります。
実際、近年、我が国の納税者による国外財産の保有が増加傾向にある中で、国外財産に係る所得税等の申告漏れが増加している現実があり、国外財産に係る課税の適正化をいかにして図るかが喫緊の課題となっていました。
こうした背景のもとに、国外財産の状況を把握する方策として、課税当局が国外財産を把握する仕組みや、国外財産を保有している納税者からその保有する国外財産の状況を課税当局に対して自ら申告してもらう制度が創設されています。このうち後者の制度のひとつとして、国外財産調書制度が創設されたのです。
上記2で述べましたように、この制度は、国外財産調書が提出されていなかったり、本来記載すべき国外財産が記載されていなかったりした場合、その際課せられる過小申告加算税等が上乗せされるのに対し、調書を提出していれば記載のある国外財産に対して所得税・相続税の申告漏れが生じても、同様の加算税等が軽減されるという恩恵が与えられるという制度になっています。そうすることで、調書を確実に提出するよう促しているのです。
まとめ
売上の一部を海外預金口座に入金するなどして課税を免れようとしても、CRS(OECDが策定した共通報告基準に基づくもので、世界各国の税務当局が有する銀行口座の情報を交換する仕組みであり、各国の金融機関を通じて各国で情報交換されることになっています。)による金融口座情報によって口座を把握されるなどすれば、税務調査が入る可能性があります。
そして、税務調査が入った場合、国外財産調書を提出していなければ、上乗せされた過少申告加算税等を支払う必要があり、また、罰則まで課されることがあることにも注意しなければなりません。
更に、悪質性が高かったり脱税額が巨額になる場合には、査察調査に発展することもあります。
査察調査は税務調査と違い、強制的に調査をすることができ、最終的には刑事告発に至る場合が少なくありません。実際、査察調査から刑事告発される割合は約70%と言われています。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、刑事事件を中心として扱っていますが、税法についても知識のある弁護士がそろっています。
初回の相談は無料ですので、一度ご相談にお越しください。
税務調査や査察の可能性も!反面調査がされた場合
脱税が発覚する端緒の一つとなる反面調査について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。
参考事件
A株式会社は事業を拡大することに成功し、不況下でも順調に売り上げを伸ばしていきました。A株式会社の代表取締役は、税負担を回避してさらに利益を上げようと考え、売り上げの一部を計上せずに、会社とは別の口座にプールしていました。売り上げの一部を除外し始めてから数年が経ったある日、取引先であるB株式会社に税務調査が入りました。B株式会社の担当者の話によると、A株式会社との取引についても聞かれているようでした。
(この参考事件はフィクションです)
脱税事件で生じるリスク
A株式会社が行った売り上げの除外は、本来申告すべき内容を申告せずに納税を免れる虚偽無申告ほ脱犯にあたり、典型的な脱税の手法といえます。申告内容の不審点から脱税を疑われた場合、税務署による税務調査や国税局による査察調査につながっていきます。
申告内容に誤りがあると判明した場合、本来納めるべき税金を納付しなければならなくなるのはもちろんですが、法定期限までに納付がされていなければ延滞税がかかりますし、別途、加算税を課される可能性もあります。参考事件のA株式会社の場合、支払いを免れていた法人税(本税)のほか、延滞税や過少申告加算税、重加算税が課される可能性があります。
税務調査や査察調査では収まらず、国税局に告発されてしまうと、刑事事件となります。刑事事件となった場合、告発を受けた検察庁によって代表取締役ら役員が逮捕されることもあります。検察庁に起訴された場合は刑事裁判が行われ、有罪となれば多額の罰金や実刑を含む懲役刑が言い渡されることになります。
反面調査に警戒を
税務調査は脱税の疑いがある納税義務者に対してだけ行われるわけではありません。時には納税義務者と取引関係のある者にも行われ、これが反面調査と呼ばれています。
反面調査の対象としては、取引のある企業や銀行などが挙げられます。参考事例のB株式会社に対して行われた税務調査は、A株式会社についての聞き取りもされているため、反面調査である可能性が高いと考えられます。脱税の疑いがある企業に発覚することがないよう、反面調査は秘密裏に行われますが、調査が行われた取引先から税務調査があったことを知ることもあります。
反面調査は、脱税の疑いがある納税義務者に対して税務調査を行うための下準備です。そのため、いずれは脱税の疑いがかけられている納税義務者のもとにも税務調査が入りますし、場合によっては最初から国税局による査察が行われる可能性もあります。
脱税事件になってしまうと、延滞税や加算税の負担や多額の罰金が科されるリスクがあることは説明しましたが、それ以外にも問題があります。税務調査や査察においては、会社にとって重要な書類が多数押収されることになりますし、役員が逮捕されてしまえば、事業の継続そのものが困難になってしまうおそれがあります。また、国税局による告発や検察庁による起訴は報道もされるため、取引関係のある企業や銀行から抱かれる印象の悪化も無視できません。
反面調査が行われているかを知ることができるかは偶然にも左右されますが、参考事件のA株式会社のように、取引先から税務署の動きを知ることもあり得ます。反面調査がされていると判明した場合、速やかに脱税事件に詳しい弁護士に相談することが重要です。早期に法律の専門家である弁護士の助力を得られれば、税務調査や査察における適切な受け答えができるよう対策が立てられますし、修正申告によって告発や起訴を回避する可能性を高めることにもつながります。
修正申告などの場面では主に税理士が動くことになりますが、裁判となった場合は弁護士による対応が必要です。反面調査の段階から告発や起訴も見据えた法的アドバイスを弁護士から受けることで、脱税事件の全体図を俯瞰した対応が可能になります。取引先に対する反面調査が行われていると分かった場合は、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所にご相談ください。
国税局資料調査課とは
国税局資料調査課について、税務署との違い、査察部との違いを弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。
国税局資料調査課とは
国税局資料調査課とは、国税局課税部に設置されている組織で、税務調査を担当しています。
申告額が大きかったり、申告内容に不正が疑われるような事案など、税務署では対応が難しい事案の税務調査を主に担当しています。
税務調査の手法については、税務署とほぼ同じですが、国税局資料調査課に配属される人材は不正を見抜く目に定評があるエリートと言われています。
国税局査察部との違い
資料調査課とよく比較されるのが、国税局査察部(いわゆるマルサ)です。
どちらも税申告に関する不正に関して調査をする役割を担っている点で共通していますが、調査の目的や調査手法に大きな違いがあります。
資料調査課は、申告内容に申告漏れや不正がないかを調査し、不適切な申告があればそれを指摘して、適正な課税を目指すことを目的としています。
一方、査察部は、不正な申告があったことを証明する資料を収集し、ペナルティを課す必要があるかないかを確認することを目的としているといえるでしょう。
このペナルティには、刑事罰も含まれており、刑事告発するかどうかも査察部で判断されることになります。
このような目的の違いは、調査手法にも反映されています。
資料調査課の調査はあくまでも任意調査です。
資料調査課の職員が会社や自宅を訪ねて調査をすることもありますが、いずれも会社や家主の同意を得て調査を行います。
そのため、調査の手法は税務署の調査手法と同じといえますが、調査にかける日数は税務署の調査と比べて段違いに多くなります。
資料調査課の税務調査は、税務署が行う税務調査よりもより詳細に行われるということができます。
なお、資料調査課の調査は任意ですが、正当な理由がなければ拒否することができません。
一方、査察部の調査は強制調査です。
ニュースやドラマなどで企業に査察部の職員が段ボールを持って入っていき、大量の資料を持ち出している様子を見たことがあると思います。
査察部の調査では、このように会社や家主の同意なく、関係各所に出入りして資料を収集(捜索差押)することができるようになっています。
もっとも、査察部が強制的に資料を収集する場合には、裁判所の許可を得る必要があります。
国税局資料調査課が税務調査に来たら
国税局資料調査課が税務調査に来た場合、何がしかの不正な申告が疑われているということです。
そのため、提出した確定申告書類をもう一度確認し、申告漏れがないか不正と疑われることがないかを自分たちでも確認するべきです。
そして、ミスがあれば、きちんと修正申告をしたうえで、ミスであったことをしっかりと主張しましょう。
もし、ミスではなく意図的に申告していなかったなどが疑われた場合、資料調査課から査察部に調査が引き継がれる可能性があります。
資料調査課の調査段階だからと安心せず、早めに修正申告などの対応を取りましょう。
税務調査の段階から査察案件を扱ったことのある税理士や弁護士に相談することで、その後の流れやリスクを知ることができ、ダメージを最小限に抑えることができます。
【裁決解説】えっ,ゆうメールって「郵便」じゃないの?(国税不服審判所,平成25年7月26日裁決)
国税通則法22条の「郵便」について判断した裁決事例について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。
【裁決事例】
ゆうメールによる確定申告書が,法定申告期限後の3月16日に送達され,無申告加算税が適用されたところ,国税不服審判所の裁決でこれが是認された事例
【関係法規の内容】
・所得税の確定申告は,法定申告期限(毎年3月15日)までに税務署長に提出しなければならない。
・「郵便」により,申告書が提出された場合はその消印の日付で提出されたものとみなされる。
・締め切りに遅れた申告には無申告加算税(税額50万円まではプラス15%,50万円超部分はプラス20%)が適用される。
【事案の概要】
本件は,所得税の確定申告を「ゆうメール」で提出した納税者が,法定申告期限(本件では,平成24年3月15日)を超えた同年3月16日に上記「ゆうメール」を税務署に到達させたことから,無申告加算税の賦課決定を受けたというものです。
これに対し,上記納税者が,国税通則法22条によれば,「郵便により提出された場合には,通信日付印により表示された日」に提出されたものとみなす旨の規定を根拠に,「ゆうメール」で提出していることから「郵便」による提出であるとし,無申告加算税の賦課決定を不服として国税不服審判所に審査請求したというものです。
争点は,「ゆうメール」が上記法条の「郵便」(以下単に「郵便」という。)に当たり,発送時点で申告書を提出したとされるか否かという点です。
【裁決理由】
上記納税者は,「ゆうメール」は「郵便」に当たるから期限内に申告書を提出している旨主張する。しかし,「ゆうメール」は,次のように「郵便」には当たらない。
ここに,「郵便」とは,日本郵便株式会社(現行)において,国民の日常生活に不可欠の通信手段として高度に公共性を有する同社の独占事業であり,大量の郵便物を送達距離の長短,交通移動手段の地域差等に関係なく,同社の定める内国郵便約款に基づき迅速処理を果たす業務をいう。
「ゆうメール」は,同社の事務ではあるが,上記内国郵便約款ではなく,同社のポスパケット約款に基づくサービスであり,とりわけ,納税申告書等の信書の運送は出来ないとして,これを引受け拒絶の対象に含ませている。
これらの役務提供上の差異からすれば,「ゆうメール」は「郵便」には当たらない。
したがって,本件申告書は期限後に提出されたものである。
【留意点】
申告書の提出が期限に間に合わなかった場合,無申告とされ,加算税を課されることとなります。
この場合,国税通則法によれば,正当な理由がない限り「無申告加算税を課する。」と規定されており(66条1項),「課すことができる。」とは規定されてはいません。したがって,正当理由がない限り,無申告加算税の一律適用を受けるという不利益を受ける点には留意が必要です。
また,裁決には,税務署等に対し拘束力があり,今後,同一の事案に対し,同様の適用を受けることとなります。
このことから,ゆうメールによる申告書の提出は極力控え,やむを得ないとしても3月15日に必着させなければ不利益を受けることとなります。この点にはくれぐれも留意が必要です。
【制度解説】逋脱犯の成立要件について
逋脱犯の成立要件について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。
租税逋脱とは
租税逋脱(ほだつ)とは,いわゆる脱税行為を指し,一般に納税義務者が偽りその他不正の行為により税を免れることにより成立する犯罪です。現行法上,租税逋脱犯には,所得税,法人税,相続税,贈与税,消費税,酒税等の逋脱が犯罪としてありますが,事件数が多いのは所得税逋脱犯及び法人税逋脱犯です。
所得税や法人税の逋脱犯が成立するには,客観的要件の充足と主観的要件としてその認識(租税逋脱犯の故意)からなりますので,順にみていきましょう。
逋脱犯成立に必要な客観的要件
脱税行為となる不正の行為の態様を基に,逋脱犯は,①虚偽過少申告逋脱犯,②無申告逋脱犯,③税務調査に対し,不正工作する逋脱犯とにおおむね3つに分類されます。
これらの具体例として,①は所得金額を過少に記載した申告書を提出する行為,②は所得金額があるにもかかわらず正当な理由なく納税申告書を提出期限までに提出しない行為,③は税務署職員の調査に対し,嘘をつくなどの不正な工作をして税を免れる行為が,それぞれ典型例として挙げられます。
主観的要件
逋脱犯も一般の犯罪と同じく故意犯でなければ処罰されません(刑法38条1項)。したがって,逋脱犯が成立するためには,上記①~③の脱税行為に対する行為者の認識が絶対に必要とされます。
その認識の対象となるのは,①では,申告書に所得金額を過少に記載した事実,②では,所得金額があるにもかかわらず申告書を提出していない事実,③では,税務署職員に対し,虚偽の不正工作をしている事実がそれにあたります。
そして,当然ながら,これらの事実に対する認識が納税義務者や違反行為者に存しなければなりません。つまり,所得を得た者のほか,会社の代表取締等の代表者は,本来的にこれに当たり,さらに,上記①,③の行為をした会社の従業員も違反行為者となるでしょう。
逋脱犯の主体となる行為者は誰か
逋脱犯は,納税義務者等が故意に逋脱して成立します。そのため,上記の客観主観の両要件が成立するのと同時にその主体が逋脱犯行為者でなければなりません。これが所得税であれば,具体的に所得を得た者であり,株式会社の場合であれば,一切の権限を有する代表取締役(会社法349条4項)であることも明白です。さらにケースバイケースとなるものの,法人の場合には,その従業員である納税申告事務担当者も該当し得ることになります。
弁護士等に相談を
一見,単純明快な逋脱犯の成立要件ですが,法人等の場合は意外と複雑です。そして,脱税の嫌疑がかかり起訴されて裁判となれば,所得税や法人税の逋脱の場合,刑事罰として10年以下の懲役又は千万円以下の罰金(場合によっては併科される)が科されるおそれがあるほか,行政上の制裁として加算税等が賦課されることとなります。
逋脱犯には,このように複数の処罰が法定されており,関与者が重大な事態に陥ることが避けられないおそれがあります。そこで,修正申告による是正措置の可能性や本税の予納など法的手段を尽くした対応が求められますが,それには,できるだけ早く弁護士等への相談をすることをお勧めします。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、脱税に関する相談は初回無料ですので、一度ご相談ください。
【国税庁発表】令和4年度査察の概要
国税庁が報道発表した令和4年度査察の概要について、要点をまとめてみました。
査察の概要とは
「査察の概要」は、毎年国税庁が前年度の査察調査に対する取り組みや実績を報道発表するための資料として作成されているものです。
査察調査の件数や告発件数、起訴された事件での有罪事案の紹介、不正資金の隠匿場所や告発の多かった業種などがまとめられています。
また、査察調査を行った事案についてが、その一部について事例付きで紹介されています。
令和4年度査察調査の概要は6月14日に公開されました。
令和4年度査察の概要
令和4年度の査察調査の概要としては、
①検察庁に告発した件数は103件、脱税総額(告発分)は100億円
悪質な脱税者に対して厳正な査察調査を実施し、1件当たりの脱税額は9700万円。新型コロナの影響を受けた令和3年度と比較して、告発件数及び脱税総額とも大幅に増加し、告発率は74.1%と平成18年度以来の高水準に。
②消費税事案、無申告事案、国際事案のほか、その他の時流に即した社会的波及効果の高い事案を積極的に告発
消費税事案では、不正受還付事案を多数告発。競艇情報販売をしていた個人事業者の無申告事案や大規模な国際事案を告発。そのほか、近年、市場規模が拡大しているトレーディングカード販売業者の事案、SNSを利用し多数の給与所得者に所得税の不正還付を指南していた事案や下請け業者から受けた資金提供を隠匿して自己の収入としていた元請け会社の従業員の事案など、社会的波及効果の高い事案を告発。
③一審判決61件全てに有罪判決が言い渡され、3人に対して実刑判決
実刑判決のうち、査察事件単独で最も重いものは懲役1年4月、他の犯罪と併合されたものは懲役2年8月だった。
という3項目が紹介されています。
重点事案への取り組み
重点事案への取り組みとして、以下の内容が紹介されています。
①消費税事案
消費税に対する国民の関心が極めて高いことを踏まえ、34件を告発。
消費税の仕入税額控除制度や輸出免税制度を悪用した不正受還付事案は、いわば国庫金の詐取ともいえる悪質性の高い事案であることから、16件を告発。
②無申告事案
納税者の自発的な申告・納税を前提とする申告納税制度の根幹を揺るがす無申告による逋脱犯について、15件を告発。
そのうち、不正行為はないが、故意に申告書を提出しないで税を免れた単純無申告逋脱犯を適用した事案は6件。
③国際事案
経済社会のグローバル化の進展に伴い、国境を越えた経済活動が複雑・多様化しているところ、様々な国との取引が行われており、国際取引を利用した脱税への対応が求められている。このような状況の中、外国法人を利用して不正を行っていた事案や海外に不正資金を隠しているなどの国際事案で、25件を告発。
また、外国当局と不正事案に対する取組等について情報交換を行うなど、当局間の連携強化に取り組んでいる。
④その他の社会的波及効果の高い事案
トレーディングカード販売業者の法人税逋脱事案、SNSを利用して所得税の不正還付を指南し虚偽の還付申告書を提出させた所得税不正還付事案などを告発。
不正資金の留保・費消状況及び隠匿場所
脱税によって得た不正資金の多くは、現金や預貯金として留保されていたが、不動産購入や有価証券への投資のほか、高級品の購入や遊興費への費消なども見られた。
脱税によって得た不正資金の隠匿場所として、①床下に置かれた袋の中、②銀行の貸金庫の中、③クローゼットに置かれた金庫の中などに現金を隠していた例があった。
その他参考計表
①税目別の告発件数
所得税19件、法人税47件、相続税2件、消費税34件、源泉所得税1件
②告発の多かった業種
1位:建設業 22業者、2位:不動産業 13業者、3位:小売業 12業者、4位:人材派遣業 5業者
建設業、不動産業はここ数年1位2位を占めており、取り扱う金銭の額が多いことからも査察調査で狙われやすい業種といえます。
【制度解説】税務行政に物申す(不服申立制度)
税(国税)に関する処分について不服申立制度について,弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所の弁護士が解説します。
制度の概要
税務署長,国税局長などがした処分に対し,納得がいかない場合には,その違法性や不当性を争って当該税務署や国税不服審判所長に対して不服の申立てができます。
たとえば,納税者が,確定申告により所得税の還付金請求をしたのに,反対に課税処分がなされたりした場合に,その誤りを指摘して是正を求めることができるという制度に不服申立てなどがあります。
不服申立には期限がある
上記のような不服のある納税者は,不服の対象となる処分があったことを知った日(通知文書を受けた場合はその文書を受け取った日)の翌日をスタートとして,原則として3か月以内に申立てをしなければならず(国税通則法77条1項),これを徒過すると申立ては却下されることなるので注意が必要です。
2つの手続き
不服のある納税者は,処分をした税務署長の所属税務署に対する①「再調査の請求」あるいは,国税不服審判所長に対する②「審査請求」のうち,いずれかを選択することになりますが,①の場合でも再調査の結果に納得できなければ②へと移行することが可能であるため,以下は②の国税不服審判所長に対する審査請求の概略となります。
国税不服審判所長に対する審査請求
審査請求では,標準審理期間が1年と指針で定められ,裁判所における税務訴訟一般と比し,大幅に短縮されることが想定されており,早期解決をめざす納税者の利益を重視したものとなっています。
さらに,審理の結果,出すべき裁決(却下,認容,棄却)では,審査請求人(納税者)の不利益に処分を変更することは許されず,ここでも納税者に不利益が増大しないルールが定められています(同法98条3項但書)。
また,裁判所への訴訟提起の場合,請求額に比例した手数料の納付が必要であるところ,審査請求では,手数料の負担なく制度の利用ができることもおすすめとなる点です。
気になる認容率について
このような審査請求の申立て認容率は,平成29年から令和3年までの直近5年間では,3%~10%の範囲で推移しており,現状残念ながらあまり高いとは言えません。
まとめ
納税の義務は,日本国憲法(30条)にも定められた国民の義務のひとつですが,税務行政を公正とするための制度がこの不服申立て制度となります。納税を納得の上で履行したいと思われる方は,弁護士や税理士に相談するのを検討することもおすすめです。
« Older Entries Newer Entries »