Archive for the ‘税法全般’ Category

税務調査や査察の可能性も!反面調査がされた場合

2023-12-06
税務調査

脱税が発覚する端緒の一つとなる反面調査について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。

参考事件

A株式会社は事業を拡大することに成功し、不況下でも順調に売り上げを伸ばしていきました。A株式会社の代表取締役は、税負担を回避してさらに利益を上げようと考え、売り上げの一部を計上せずに、会社とは別の口座にプールしていました。売り上げの一部を除外し始めてから数年が経ったある日、取引先であるB株式会社に税務調査が入りました。B株式会社の担当者の話によると、A株式会社との取引についても聞かれているようでした。
(この参考事件はフィクションです)

脱税事件で生じるリスク

A株式会社が行った売り上げの除外は、本来申告すべき内容を申告せずに納税を免れる虚偽無申告ほ脱犯にあたり、典型的な脱税の手法といえます。申告内容の不審点から脱税を疑われた場合、税務署による税務調査や国税局による査察調査につながっていきます。
申告内容に誤りがあると判明した場合、本来納めるべき税金を納付しなければならなくなるのはもちろんですが、法定期限までに納付がされていなければ延滞税がかかりますし、別途、加算税を課される可能性もあります。参考事件のA株式会社の場合、支払いを免れていた法人税(本税)のほか、延滞税や過少申告加算税、重加算税が課される可能性があります。
税務調査や査察調査では収まらず、国税局に告発されてしまうと、刑事事件となります。刑事事件となった場合、告発を受けた検察庁によって代表取締役ら役員が逮捕されることもあります。検察庁に起訴された場合は刑事裁判が行われ、有罪となれば多額の罰金や実刑を含む懲役刑が言い渡されることになります。

反面調査に警戒を

税務調査は脱税の疑いがある納税義務者に対してだけ行われるわけではありません。時には納税義務者と取引関係のある者にも行われ、これが反面調査と呼ばれています。
反面調査の対象としては、取引のある企業や銀行などが挙げられます。参考事例のB株式会社に対して行われた税務調査は、A株式会社についての聞き取りもされているため、反面調査である可能性が高いと考えられます。脱税の疑いがある企業に発覚することがないよう、反面調査は秘密裏に行われますが、調査が行われた取引先から税務調査があったことを知ることもあります。
反面調査は、脱税の疑いがある納税義務者に対して税務調査を行うための下準備です。そのため、いずれは脱税の疑いがかけられている納税義務者のもとにも税務調査が入りますし、場合によっては最初から国税局による査察が行われる可能性もあります。


脱税事件になってしまうと、延滞税や加算税の負担や多額の罰金が科されるリスクがあることは説明しましたが、それ以外にも問題があります。税務調査や査察においては、会社にとって重要な書類が多数押収されることになりますし、役員が逮捕されてしまえば、事業の継続そのものが困難になってしまうおそれがあります。また、国税局による告発や検察庁による起訴は報道もされるため、取引関係のある企業や銀行から抱かれる印象の悪化も無視できません。
反面調査が行われているかを知ることができるかは偶然にも左右されますが、参考事件のA株式会社のように、取引先から税務署の動きを知ることもあり得ます。反面調査がされていると判明した場合、速やかに脱税事件に詳しい弁護士に相談することが重要です。早期に法律の専門家である弁護士の助力を得られれば、税務調査や査察における適切な受け答えができるよう対策が立てられますし、修正申告によって告発や起訴を回避する可能性を高めることにもつながります。
修正申告などの場面では主に税理士が動くことになりますが、裁判となった場合は弁護士による対応が必要です。反面調査の段階から告発や起訴も見据えた法的アドバイスを弁護士から受けることで、脱税事件の全体図を俯瞰した対応が可能になります。取引先に対する反面調査が行われていると分かった場合は、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所にご相談ください。

国税局資料調査課とは

2023-11-08

国税局資料調査課について、税務署との違い、査察部との違いを弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。

国税局資料調査課とは

国税局資料調査課とは、国税局課税部に設置されている組織で、税務調査を担当しています。
申告額が大きかったり、申告内容に不正が疑われるような事案など、税務署では対応が難しい事案の税務調査を主に担当しています。
税務調査の手法については、税務署とほぼ同じですが、国税局資料調査課に配属される人材は不正を見抜く目に定評があるエリートと言われています。

国税局査察部との違い

資料調査課とよく比較されるのが、国税局査察部(いわゆるマルサ)です。
どちらも税申告に関する不正に関して調査をする役割を担っている点で共通していますが、調査の目的や調査手法に大きな違いがあります。

資料調査課は、申告内容に申告漏れや不正がないかを調査し、不適切な申告があればそれを指摘して、適正な課税を目指すことを目的としています。
一方、査察部は、不正な申告があったことを証明する資料を収集し、ペナルティを課す必要があるかないかを確認することを目的としているといえるでしょう。
このペナルティには、刑事罰も含まれており、刑事告発するかどうかも査察部で判断されることになります。

このような目的の違いは、調査手法にも反映されています。
資料調査課の調査はあくまでも任意調査です。
資料調査課の職員が会社や自宅を訪ねて調査をすることもありますが、いずれも会社や家主の同意を得て調査を行います。
そのため、調査の手法は税務署の調査手法と同じといえますが、調査にかける日数は税務署の調査と比べて段違いに多くなります。
資料調査課の税務調査は、税務署が行う税務調査よりもより詳細に行われるということができます。
なお、資料調査課の調査は任意ですが、正当な理由がなければ拒否することができません。
一方、査察部の調査は強制調査です。
ニュースやドラマなどで企業に査察部の職員が段ボールを持って入っていき、大量の資料を持ち出している様子を見たことがあると思います。
査察部の調査では、このように会社や家主の同意なく、関係各所に出入りして資料を収集(捜索差押)することができるようになっています。
もっとも、査察部が強制的に資料を収集する場合には、裁判所の許可を得る必要があります。

国税局資料調査課が税務調査に来たら

国税局資料調査課が税務調査に来た場合、何がしかの不正な申告が疑われているということです。
そのため、提出した確定申告書類をもう一度確認し、申告漏れがないか不正と疑われることがないかを自分たちでも確認するべきです。
そして、ミスがあれば、きちんと修正申告をしたうえで、ミスであったことをしっかりと主張しましょう。
もし、ミスではなく意図的に申告していなかったなどが疑われた場合、資料調査課から査察部に調査が引き継がれる可能性があります。
資料調査課の調査段階だからと安心せず、早めに修正申告などの対応を取りましょう。
税務調査の段階から査察案件を扱ったことのある税理士や弁護士に相談することで、その後の流れやリスクを知ることができ、ダメージを最小限に抑えることができます。

【裁決解説】えっ,ゆうメールって「郵便」じゃないの?(国税不服審判所,平成25年7月26日裁決)

2023-08-16

国税通則法22条の「郵便」について判断した裁決事例について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。

【裁決事例】

ゆうメールによる確定申告書が,法定申告期限後の3月16日に送達され,無申告加算税が適用されたところ,国税不服審判所の裁決でこれが是認された事例

【関係法規の内容】

・所得税の確定申告は,法定申告期限(毎年3月15日)までに税務署長に提出しなければならない。
・「郵便」により,申告書が提出された場合はその消印の日付で提出されたものとみなされる
・締め切りに遅れた申告には無申告加算税(税額50万円まではプラス15%,50万円超部分はプラス20%)が適用される。

【事案の概要】

本件は,所得税の確定申告を「ゆうメール」で提出した納税者が,法定申告期限(本件では,平成24年3月15日)を超えた同年3月16日に上記「ゆうメール」を税務署に到達させたことから,無申告加算税の賦課決定を受けたというものです。
これに対し,上記納税者が,国税通則法22条によれば,「郵便により提出された場合には,通信日付印により表示された日」に提出されたものとみなす旨の規定を根拠に,「ゆうメール」で提出していることから「郵便」による提出であるとし,無申告加算税の賦課決定を不服として国税不服審判所に審査請求したというものです。
争点は,「ゆうメール」が上記法条の「郵便」(以下単に「郵便」という。)に当たり,発送時点で申告書を提出したとされるか否かという点です。

【裁決理由】

上記納税者は,「ゆうメール」は「郵便」に当たるから期限内に申告書を提出している旨主張する。しかし,「ゆうメール」は,次のように「郵便」には当たらない
ここに,「郵便」とは,日本郵便株式会社(現行)において,国民の日常生活に不可欠の通信手段として高度に公共性を有する同社の独占事業であり,大量の郵便物を送達距離の長短,交通移動手段の地域差等に関係なく,同社の定める内国郵便約款に基づき迅速処理を果たす業務をいう。
「ゆうメール」は,同社の事務ではあるが,上記内国郵便約款ではなく,同社のポスパケット約款に基づくサービスであり,とりわけ,納税申告書等の信書の運送は出来ないとして,これを引受け拒絶の対象に含ませている。
これらの役務提供上の差異からすれば,「ゆうメール」は「郵便」には当たらない。
したがって,本件申告書は期限後に提出されたものである。

【留意点】

申告書の提出が期限に間に合わなかった場合,無申告とされ,加算税を課されることとなります。
この場合,国税通則法によれば,正当な理由がない限り「無申告加算税を課する。」と規定されており(66条1項),「課すことができる。」とは規定されてはいません。したがって,正当理由がない限り,無申告加算税の一律適用を受けるという不利益を受ける点には留意が必要です。
また,裁決には,税務署等に対し拘束力があり,今後,同一の事案に対し,同様の適用を受けることとなります。
 
このことから,ゆうメールによる申告書の提出は極力控え,やむを得ないとしても3月15日に必着させなければ不利益を受けることとなります。この点にはくれぐれも留意が必要です。

【制度解説】逋脱犯の成立要件について

2023-07-26

逋脱犯の成立要件について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。

租税逋脱とは

租税逋脱(ほだつ)とは,いわゆる脱税行為を指し,一般に納税義務者が偽りその他不正の行為により税を免れることにより成立する犯罪です。現行法上,租税逋脱犯には,所得税,法人税,相続税,贈与税,消費税,酒税等の逋脱が犯罪としてありますが,事件数が多いのは所得税逋脱犯及び法人税逋脱犯です。

所得税や法人税の逋脱犯が成立するには,客観的要件の充足と主観的要件としてその認識(租税逋脱犯の故意)からなりますので,順にみていきましょう。

逋脱犯成立に必要な客観的要件

 
脱税行為となる不正の行為の態様を基に,逋脱犯は,①虚偽過少申告逋脱犯,②無申告逋脱犯,③税務調査に対し,不正工作する逋脱犯とにおおむね3つに分類されます。
これらの具体例として,①は所得金額を過少に記載した申告書を提出する行為,②は所得金額があるにもかかわらず正当な理由なく納税申告書を提出期限までに提出しない行為,③は税務署職員の調査に対し,嘘をつくなどの不正な工作をして税を免れる行為が,それぞれ典型例として挙げられます。
  

主観的要件


逋脱犯も一般の犯罪と同じく故意犯でなければ処罰されません(刑法38条1項)。したがって,逋脱犯が成立するためには,上記①~③の脱税行為に対する行為者の認識が絶対に必要とされます。
その認識の対象となるのは,①では,申告書に所得金額を過少に記載した事実,②では,所得金額があるにもかかわらず申告書を提出していない事実,③では,税務署職員に対し,虚偽の不正工作をしている事実がそれにあたります。
そして,当然ながら,これらの事実に対する認識が納税義務者や違反行為者に存しなければなりません。つまり,所得を得た者のほか,会社の代表取締等の代表者は,本来的にこれに当たり,さらに,上記①,③の行為をした会社の従業員も違反行為者となるでしょう。

逋脱犯の主体となる行為者は誰か

逋脱犯は,納税義務者等が故意に逋脱して成立します。そのため,上記の客観主観の両要件が成立するのと同時にその主体が逋脱犯行為者でなければなりません。これが所得税であれば,具体的に所得を得た者であり,株式会社の場合であれば,一切の権限を有する代表取締役(会社法349条4項)であることも明白です。さらにケースバイケースとなるものの,法人の場合には,その従業員である納税申告事務担当者も該当し得ることになります。

弁護士等に相談を

一見,単純明快な逋脱犯の成立要件ですが,法人等の場合は意外と複雑です。そして,脱税の嫌疑がかかり起訴されて裁判となれば,所得税や法人税の逋脱の場合,刑事罰として10年以下の懲役又は千万円以下の罰金(場合によっては併科される)が科されるおそれがあるほか,行政上の制裁として加算税等が賦課されることとなります。
逋脱犯には,このように複数の処罰が法定されており,関与者が重大な事態に陥ることが避けられないおそれがあります。そこで,修正申告による是正措置の可能性や本税の予納など法的手段を尽くした対応が求められますが,それには,できるだけ早く弁護士等への相談をすることをお勧めします。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、脱税に関する相談は初回無料ですので、一度ご相談ください。

【国税庁発表】令和4年度査察の概要

2023-06-21

国税庁が報道発表した令和4年度査察の概要について、要点をまとめてみました。

査察の概要とは

「査察の概要」は、毎年国税庁が前年度の査察調査に対する取り組みや実績を報道発表するための資料として作成されているものです。
査察調査の件数や告発件数、起訴された事件での有罪事案の紹介、不正資金の隠匿場所や告発の多かった業種などがまとめられています。
また、査察調査を行った事案についてが、その一部について事例付きで紹介されています。
令和4年度査察調査の概要は6月14日に公開されました。

令和4年度査察の概要

令和4年度の査察調査の概要としては、
①検察庁に告発した件数は103件、脱税総額(告発分)は100億円
悪質な脱税者に対して厳正な査察調査を実施し、1件当たりの脱税額は9700万円。新型コロナの影響を受けた令和3年度と比較して、告発件数及び脱税総額とも大幅に増加し、告発率は74.1%と平成18年度以来の高水準に。

②消費税事案、無申告事案、国際事案のほか、その他の時流に即した社会的波及効果の高い事案を積極的に告発
消費税事案では、不正受還付事案を多数告発。競艇情報販売をしていた個人事業者の無申告事案や大規模な国際事案を告発。そのほか、近年、市場規模が拡大しているトレーディングカード販売業者の事案、SNSを利用し多数の給与所得者に所得税の不正還付を指南していた事案や下請け業者から受けた資金提供を隠匿して自己の収入としていた元請け会社の従業員の事案など、社会的波及効果の高い事案を告発。

③一審判決61件全てに有罪判決が言い渡され、3人に対して実刑判決
実刑判決のうち、査察事件単独で最も重いものは懲役1年4月、他の犯罪と併合されたものは懲役2年8月だった。

という3項目が紹介されています。

重点事案への取り組み

重点事案への取り組みとして、以下の内容が紹介されています。

①消費税事案
消費税に対する国民の関心が極めて高いことを踏まえ、34件を告発
消費税の仕入税額控除制度や輸出免税制度を悪用した不正受還付事案は、いわば国庫金の詐取ともいえる悪質性の高い事案であることから、16件を告発

②無申告事案
納税者の自発的な申告・納税を前提とする申告納税制度の根幹を揺るがす無申告による逋脱犯について、15件を告発
そのうち、不正行為はないが、故意に申告書を提出しないで税を免れた単純無申告逋脱犯を適用した事案は6件

③国際事案
経済社会のグローバル化の進展に伴い、国境を越えた経済活動が複雑・多様化しているところ、様々な国との取引が行われており、国際取引を利用した脱税への対応が求められている。このような状況の中、外国法人を利用して不正を行っていた事案や海外に不正資金を隠しているなどの国際事案で、25件を告発
また、外国当局と不正事案に対する取組等について情報交換を行うなど、当局間の連携強化に取り組んでいる。

④その他の社会的波及効果の高い事案
トレーディングカード販売業者の法人税逋脱事案、SNSを利用して所得税の不正還付を指南し虚偽の還付申告書を提出させた所得税不正還付事案などを告発。

不正資金の留保・費消状況及び隠匿場所

脱税によって得た不正資金の多くは、現金や預貯金として留保されていたが、不動産購入や有価証券への投資のほか、高級品の購入や遊興費への費消なども見られた。
脱税によって得た不正資金の隠匿場所として、①床下に置かれた袋の中、②銀行の貸金庫の中、③クローゼットに置かれた金庫の中などに現金を隠していた例があった。

その他参考計表

①税目別の告発件数
所得税19件、法人税47件、相続税2件、消費税34件、源泉所得税1件

②告発の多かった業種
1位:建設業 22業者、2位:不動産業 13業者、3位:小売業 12業者、4位:人材派遣業 5業者
建設業、不動産業はここ数年1位2位を占めており、取り扱う金銭の額が多いことからも査察調査で狙われやすい業種といえます。

【制度解説】税務行政に物申す(不服申立制度)

2023-04-26

税(国税)に関する処分について不服申立制度について,弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所の弁護士が解説します。

制度の概要

税務署長,国税局長などがした処分に対し,納得がいかない場合には,その違法性や不当性を争って当該税務署や国税不服審判所長に対して不服の申立てができます。

たとえば,納税者が,確定申告により所得税の還付金請求をしたのに,反対に課税処分がなされたりした場合に,その誤りを指摘して是正を求めることができるという制度に不服申立てなどがあります。

不服申立には期限がある

上記のような不服のある納税者は,不服の対象となる処分があったことを知った日(通知文書を受けた場合はその文書を受け取った日)の翌日をスタートとして,原則として3か月以内に申立てをしなければならず(国税通則法77条1項),これを徒過すると申立ては却下されることなるので注意が必要です。

2つの手続き

不服のある納税者は,処分をした税務署長の所属税務署に対する①「再調査の請求」あるいは,国税不服審判所長に対する②「審査請求」のうち,いずれかを選択することになりますが,①の場合でも再調査の結果に納得できなければ②へと移行することが可能であるため,以下は②の国税不服審判所長に対する審査請求の概略となります。

国税不服審判所長に対する審査請求

審査請求では,標準審理期間が1年と指針で定められ,裁判所における税務訴訟一般と比し,大幅に短縮されることが想定されており,早期解決をめざす納税者の利益を重視したものとなっています。

さらに,審理の結果,出すべき裁決(却下,認容,棄却)では,審査請求人(納税者)の不利益に処分を変更することは許されず,ここでも納税者に不利益が増大しないルールが定められています(同法98条3項但書)。

また,裁判所への訴訟提起の場合,請求額に比例した手数料の納付が必要であるところ,審査請求では,手数料の負担なく制度の利用ができることもおすすめとなる点です。

気になる認容率について

このような審査請求の申立て認容率は,平成29年から令和3年までの直近5年間では,3%~10%の範囲で推移しており,現状残念ながらあまり高いとは言えません。

まとめ

納税の義務は,日本国憲法(30条)にも定められた国民の義務のひとつですが,税務行政を公正とするための制度がこの不服申立て制度となります。納税を納得の上で履行したいと思われる方は,弁護士や税理士に相談するのを検討することもおすすめです。

【国税庁発表】令和3事務年度法人税等の調査事績の概要

2023-02-08

令和4年12月に国税庁から報道発表のあった「令和3事務年度法人税等の調査事績の概要」から国税庁の調査状況について弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が考察します。

法人税との調査事績の概要

令和4年12月の報道発表では、法人税等の調査事績の概要のまとめとして
①新型コロナウイルスの影響を受けつつも、調査件数、申告漏れ所得金額、追徴税額が増加
悪質な納税者には厳正な調査を実施する一方で、その他の納税者には簡易な接触を実施
とあります。

法人税・消費税の調査事績の概要

国税庁では、あらゆる資料情報と提出された申告書等の分析・検討を行った結果、大口・悪質な不正計算等が想定される法人など、調査必要度の高い法人について実地調査を実施しています。
実地調査の件数は、令和2事務年度が2万5000件だったのに対して、令和3事務年度では4万1000件と1.5倍以上の増加となっています。
この急激な増加については、令和2事務年度の実地調査件数は令和元年度と比べると32.7%にあたるものしか行われていないことから、令和2事務年度の件数が少なかっただけということができるでしょう。
もっとも、新型コロナの影響で実地調査が減少していた令和2事務年度と比べると、新型コロナ流行前の実地調査件数に戻ってきたということもできるため、令和4事務年度は昨年度ほどの大きな増加は見られないと思いますが、昨年度と同程度以上の実地調査が行われる可能性が高いと言えるでしょう。

実地調査の結果、申告漏れの所得金額は6028億円で、令和2事務年度の114%、追徴税額は2307億円で、令和2事務年度の119.2%となっています。
申告漏れ所得金額、追徴税額ともに令和元年度よりも増加していますが、実地調査の件数が増加しているため、当然の結果といえそうです。
それよりも重要なことは、実地調査の件数の増加率よりも、申告漏れ所得金額や追徴税額の増加率の方が低いことです。
調査1件当たりの追徴税額を見ると、令和2事務年度が780万6000円、令和3事務年度が570万1000円となっています。
つまり、令和2事務年度の方が1件当たりの申告漏れ所得額も多かったということができます。
このことは、令和2事務年度は新型コロナの影響により、より大口で悪質な案件のみに限って実地調査を行ったことも原因と考えられますが、一方、令和3事務年度では大口・悪質される案件のハードルが下がっていると考えることもできます
そのため、今後もこれまでよりも少額や悪質性が高くないと思われる案件についても実地調査が行われる可能性を示唆しているといえます。

簡易な接触事績の概要

簡易な接触とは、税務署において書面や電話による連絡や来署依頼による面接により、納税者に対して自発的な申告内容の見直しなどを要請するものです。
単純な申告内容の誤りなど、悪質性が低いと思われる事案に対して行われるものと考えてください。
簡易な接触の件数は前年度と比べて98%とほとんど変わっていません
実地調査は大きく増えているのに対して簡易な接触の増減が少ないことは、国税庁が大口・悪質性が高い事案に対して、積極的に取り組んでいることを示しているといえるでしょう。

これらのデータからは、新型コロナの影響が終息に向かっていくにつれて、国税庁の調査も本格化していることがわかります。
自分は大丈夫と安易に考えず、早めに専門家に相談し、取り返しがつかなくなる前に対処しましょう。

一人親方の脱税~①~

2022-10-26

建築・土木工事に携わっている事業者の方たちには、雇用関係を持たずに事業を行う、いわゆる「一人親方」と言われる方が多くいらっしゃいます。
一人親方が脱税をしている場合になぜ脱税がばれるのか、脱税がばれるとどのようなペナルティが課されるのかについて2回にわたり弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説していきます。
今回は一人親方と個人事業主の違いとなぜ脱税がばれるのかについて解説します。

個人事業主と一人親方の違い

一人親方は、労働者を使用せず特定の事業を行う人のことをいいます。
個人事業主は、法人を設立せずに個人で事業を営んでいる人のことをいいます。
そのため、一人親方も広い意味では、個人事業主の一種といえるでしょう。
しかし、一人親方は
業種の範囲が限られている
個人事業主の場合には、業種の指定はありませんが、一人親方の場合には、建設業・林業・水産業など、7つの業種に限られています。

従業員の雇用について制限がある
個人事業主の場合、従業員の雇用について制限はありません。一方、一人親方の場合には従業員の雇用日数が100日未満である必要があります。

労災保険へ加入できる
個人事業主の場合には、原則として労災保険へ加入できませんが、一人親方の場合には特別に加入できることになっています。
といった3つの点で個人事業主とは異なっています。
もっとも、一人親方の場合でも、開業届を税務署に提出する義務があることや納税の義務があることは、個人事業主と同じです。

一人親方も開業届を提出することは義務

一人親方を含む個人事業主は、開業届を税務署に提出する義務があります(所得税法229条)。
開業届は、事業を開始した日または事業に関する事業所等を設けた日から1か月以内に税務署長に提出する必要があります(同条)。
開業届は提出していなくてもペナルティはありませんが、開業届を出すと、青色申告ができたり、事業用の銀行口座を開設出来たり、事業主を対象とした給付金を受け取れたりといった様々なメリットがあります。
また、開業届を出すと、個人事業主番号が付与されますが、この個人事業主番号はビジネスローンを組んだり銀行の融資を受けたりする際にも必要となるので、開業届を出しておくことにより、公的に事業主として認められることのメリットは大きいと言えるでしょう。

一人親方の脱税はなぜばれるのか

取引先からの源泉徴収税の申告
源泉徴収税とは、一人親方が支払うべき税金を前もって取引先が徴収し納税するものです。
源泉徴収税の納付にあたっては、どの一人親方に関するものであるかも明示されるため、税務署や国税局には一人親方に売り上げがあることがわかってしまいます。

反面調査
反面調査とは、税務署が調査対象者の取引先を調べ、取引の実態を把握するための調査です。
取引先や銀行に調査が行われることで、一人親方としての売り上げがあることが発覚してしまう可能性があります。

資産状況の調査
不動産購入など高額なお金の動きがあれば、法務局から税務署に情報が伝わることがあります。
申告されている収入に比して高額な不動産の購入などがあれば、税務署に脱税の疑いをもたれてしまい、税務調査が入るきっかけになります。

第三者からの密告
税務署は課税・徴収漏れに関する情報提供を呼び掛けています。
国税庁が公開している「課税・徴収漏れに関する情報の提供」によれば、様々な情報が寄せられていることがわかります。
国税庁のホームページには「情報提供フォーム」が用意されており、だれでも情報を提供できることになっています。

このように、税務署や国税庁は税金逃れがないように、様々な方法で情報収集をしています。
お金の怪しい動きや提出された資料に不審な点があれば、税務調査が入ることになり、脱税が明るみに出てしまうことになります。
そして、一人親方は国税庁が発表している申告漏れ所得金額が高額な業種上位10業種のうち約半数を占めていることから、税金逃れがないかを特に注意深く調査される対象になっているといえます。
そのため、一人親方は脱税していないか税務署から常に目をつけられているといえます。

~次回に続く

脱税と時効~②~

2022-10-19

脱税をしてしまった場合の時効について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が前回に続いて解説します。
第2回目は、刑事事件化してしまった場合の時効について解説します。

刑事事件の時効(公訴時効)

いままで見てきた時効や除斥期間はあくまでも納税に関する時効でした。
しかし、脱税で査察調査が入り、刑事告発された場合には、刑事事件になってしまいます。
刑事事件になってしまった場合には、これまで見てきた時効とは別の時効公訴時効)が定められています。

公訴時効とは、犯罪が終わった時から一定の期間を経過すると、犯人を処罰することができなくなるという制度です。

たとえば、脱税事件の中でもっとも重い刑罰が定められている「ほ脱犯」(偽りその他不正の行為により、税金の納付を免れ又は還付を受けた場合)では、「10年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金又はこれの併科」という罰則が定められています(例:所得税法238条1項、法人税法159条1項、消費税法64条1項、相続税法68条1項)。
この「ほ脱犯」の公訴時効は、「人を死亡させた罪であつて禁錮以上の刑に当たるもの以外の罪」のうち「長期15年未満の懲役又は禁錮に当たる罪」に当たるため、公訴時効は「7年ということになります(刑事訴訟法250条2項4号)。
また、公訴時効の起算点は、「犯罪行為が終わった時」となっています(刑事訴訟法252条)。
つまり、偽りその他不正の行為によって税金の納付を免れたり還付を受けたりした時から7年を経過する時までに公訴提起(起訴)がされなかった場合には、罪に問うことができなくなるということです。

各税法上、上記のほ脱犯以外にも、偽りその他の不正の行為により税金の納付を免れたとは言えないものの、法定の期限までに申告書を提出しないことにより税金の納付を免れた場合には「5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金又はこれの併科」という罰則が定められており(例:所得税法238条3項、法人税法159条3項、消費税法64条5項、相続税法68条3項)、この場合は「人を死亡させた罪であつて禁錮以上の刑に当たるもの以外の罪」のうち「長期10年未満の懲役又は禁錮に当たる罪」に当たるため、公訴時効は「5年となります(刑事訴訟法250条2項5号)。
その他、「長期5年未満の懲役若しくは禁錮又は罰金に当たる罪」の場合には、公訴時効は「3年となります。

公訴時効の停止

公訴時効を考えるにあたって注意しないといけないのは、「海外にいる間は公訴時効が進行しない」ということです。
「犯人が国外にいる場合又は犯人が逃げ隠れているため有効に起訴状の謄本の送達若しくは略式命令の告知ができなかつた場合には、時効は、その国外にいる期間又は逃げ隠れている期間その進行を停止する。」(刑事訴訟法255条1項)とされており、海外にいる期間を除いて公訴時効期間を経過する必要があります。
例えば金密輸事件の場合には、何度も海外に渡航して金を購入し、購入した金を密輸して消費税を免れたうえ、金を本邦で売却することにより消費税分の利益を得ることになりますが、この場合には、消費税及び所得税のほ脱犯として処罰を受ける可能性があります。
この場合、海外に渡航して金を購入する際には国外にいることになりますので、公訴時効の期間にはその期間が含まれないことになります。
そのため、公訴時効が完成しているか否かを判断するにあたっては、海外にどれくらいの期間いたのかを正確に把握しておく必要があります。

まとめ

このように、脱税の場合には、課税に関する時効や除斥期間だけでなく刑事事件化した場合には別途公訴時効も考えなければなりません。
また、時効や除斥期間は比較的長い期間が設定されていますし、徴収権などの時効には中断事由が定められており、容易に時効完成を狙うことはできないようになっています。
長期間にわたって脱税をしてしまった。悪意はなかったが申告を忘れてしまっていたというような場合には、どの部分について課税や罪に問われることになるのかを専門家に相談してみるのがいいでしょう。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、刑事事件を見据えた一貫したアドバイスを差し上げることができますので、一度お電話ください。

脱税と時効~①~

2022-10-12

脱税をしてしまった場合の時効について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が2回にわたって解説します。
第1回目は時効と除斥期間の違いや、賦課権の除斥期間、徴収権や還付請求権の時効について解説します。

時効と除斥期間

除斥期間:一定の権利について、法律で定められた期間内にその権利を行使しないと、権利が当然に消滅する場合の期間です。
時効:権利が一定期間行使されない時に、その権利を消滅させる制度です。

除斥期間と時効との違いは、主に以下の2つです。
①除斥期間には中断(完成猶予・更新)がないのに対して、時効には中断事由がある
②除斥期間は期間経過によって絶対的に権利が消滅するため当事者の援用を要しないが、時効は当事者の援用が必要

賦課権の除斥期間

賦課権とは、税務署長が納税義務の確定手続を行うことができる権利です。
賦課権の行使については、時効ではなく除斥期間が設けられています。
納税義務はあっても、未確定のまま賦課権の除斥期間を経過してしまった場合は、賦課権の行使による納税義務の確定はできないことになります。

①除斥期間の起算日
・申告納税方式の場合
法定納期限の翌日(ただし、還付請求申告書が提出されたものについては、その提出日の翌日)
・賦課課税方式の場合
ア 課税標準申告書の提出を要する国税の場合
提出期限の翌日
イ 課税標準申告書の提出を要しない場合
納付義務の成立した日の翌日

②除斥期間の長さ
3年の除斥期間
課税標準申告書の提出を要する国税で申告書の提出があったもの(納付すべき税額を減少させるものを除く)(国税通則法70条1項)
5年の除斥期間
更正、決定及び賦課決定(3年の除斥期間に該当するものを除く)(国税通則法70条1項)
7年の除斥期間
偽りその他不正の行為により、税額の全部若しくは一部を免れ若しくは還付を受けた国税についての更正決定等又は偽りその他不正の行為により、その課税期間において生じた純損失等の金額が過大である納税申告書を提出していた場合における純損失等の金額についての更正(10年の除斥期間にあたるものを除く)(国税通則法70条5項)
10年の除斥期間
法人税にかかる純損失等の金額で当該課税期間において生じたものを増加させ、若しくは減少させる更正又は当該金額があるものとする更正(国税通則法70条2項)

徴収権の消滅時効

徴収権とは、すでに確定して国税債権の履行を求め、収納することができる権利です。
私法上の債権に極めて似た性格を持つことから、国税の優先権(国税徴収法8条)と自力執行権(国税徴収法47条など)が認められている点を除いて、私債権と同様に扱うものとされており、時効制度がとられています
もっとも、徴収権の時効には、民法上の時効とは違い、①当事者は時効の援用を要せず、また、その利益を放棄することができなかったり消滅時効の絶対的効力)、②民法の中断事由のほかに特別の中断事由(完成猶予・更新)があります。

①消滅時効の起算日
国税の徴収権の消滅時効は5年です(国税通則法72条1項)。
この5年の起算日は、原則としてその国税の法定納期限の翌日となっています(同条)。

②時効の中断(完成猶予・更新)
民法では、時効の中断事由(完成猶予・更新)として①請求等、②差押え(強制執行等)仮差押え又は仮処分、③催告、④承認などを定めています。
国税の徴収権の消滅時効には、民法上の中断事由のほか、①納税申告、納税の猶予の申請又は換価の猶予の申請、延納の申請及び一部の納付、②税務署長によってなされる更正、決定、賦課決定、納税の告知、督促、交付要求についても中断事由(完成猶予・更新)として定められています(国税通則法73条1項)。

③消滅時効の停止
時効の停止とは、時効の完成を一定期間延長するものであり、中断とは異なり、停止の時までに進行した時効期間の効果は失われません。
国税の徴収権の時効は、延納納税の猶予又は徴収若しくは滞納処分に関する猶予をした国税について、その延納又は猶予がされている期間内は、停止します(国税通則法43条4項)。

還付金等の還付請求権の消滅時効

還付請求権とは、納税者が還付を求めるために申告などをして、納め過ぎた税金を返してもらう権利です。
還付請求権についても徴収権と同様に時効制度が採用されています。

①消滅時効の起算日
還付請求権の消滅時効は5年です(国税通則法74条1項)。
この5年の起算日は、その還付を請求することができる日(過誤納金の発生した時の翌日及び還付金の還付請求の日又は還付請求ができる日)です(同条)。

②時効の中断(完成猶予・更新)
納税者が行う還付を受けるための納税申告書、還付請求書の提出は、民法上の「催告」としての効力があり、また、税務署長から支払通知書などが還付請求者に送達されたときに、国の「承認」として時効が中断します。
また、徴収権の消滅時効にかかる中断に関する規定が準用されています(国税通則法74条2項)。

~次回に続く~

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